繰り返した日々の向こう側
私にはね、昔からとっても仲が良い男の子がいたの。
彼は底抜けに明るくて、元気で、ちょっぴりおバカだったけど、いつだって私の手を引っ張ってくれたんだ。
家がすぐ近くだったから毎日のように一緒に遊んでたよ。公園でかくれんぼや鬼ごっこしたり、お互いの家に行って泊まったりもして。
そんな風にずっと一緒にいるのが当たり前だと思ってたから、中学校に上がる頃に少し距離が出来ちゃったのはショックだったなぁ。
男子と女子が仲良くしてるとからかわれたりしちゃうから、何だか自然とそうなっちゃったんだ。
彼とたまに話すことはあっても、一緒にいない時間ばかりだから、知らないことがどんどん増えていって、やっぱり寂しかったよ。
それでも、高校生になってからちょっとしたきっかけがあって、また良く一緒にいられるようになったんだ。
その時には私も気づいてた。小さい頃は曖昧だったけど……ああ、やっぱり私は彼のことが好きなんだなって。
だけど、大変。いつの間にか彼の周りには魅力的な女子が何人も揃っちゃってた。
天才と呼ばれるくらい頭が良かったり、家が凄いお金持ちだったり、アイドルみたいに可愛かったり。しかも、みんな彼のことが気になってるみたいで。
幼馴染ってだけの私に勝ち目はあるのかな、って不安でいっぱいだったなぁ。
ただ、そんなみんなでワイワイ過ごす日々もすっごく楽しかったんだ。
もしこのままの関係でいられるなら、それを望んじゃうかもしれない、ってくらいに。
……でもね、ある日を境に彼は変わってしまったんだ。
突然だったから、その日のことは今でも良く覚えてる。私はいつものように朝、彼を迎えに行ったの。やっぱり家がすぐ近くな幼馴染の特権は重宝しないとね。
ただ、普段のように出てきたはずの彼は普段とは随分違って見えた。
異様なくらいに大人びて見えたの。見た目は何も変わっていないはずなのに、その瞳が何かを感じさせたんだ。
私と話している時もまるで笑顔を無理やり作って貼りつけてるみたいだった。その裏側にとても深い悲しみがあるように思えた。
今なら分かるけど、あの時の彼は私には想像もできないくらいに苦しんでいて、それでも頑張って笑ってくれていたんだ……私のことを諦めないでいてくれた。
あはは、これじゃ何の話か分からないよね。
教えてくれたのは後になってからなんだけど、その時の彼は──タイムリープをしてたんだって。
タイムリープは自分の意識だけが過去に戻ることらしいよ。彼は何度も同じ時間を繰り返してたんだ。私が、死んじゃうから。
何度やり直しても、色々な方法を試しても、まるで世界に殺されるみたいに、私は死んでたんだって。
今こうして生きてる私には全然実感ないんだけどね。それは彼が頑張ってくれたからなんだ。私には想像も出来ないくらいに、たくさんの苦しみを抱えながら。
そりゃ急に大人びて見えたりもするよね。身体は成長していなくても、心には無数の体験を、傷を刻み込んできたんだから。
この世界は彼が何度も何度も繰り返して、やっと掴み取った世界。
どれだけ辛い思いをしても最後まで諦めずに手を伸ばし続けたから辿り着けた可能性。
だから、そんな彼には報われて欲しい。きっと今も残ってる傷が癒されて欲しい。
何が言いたかったかって言うと──あなたのパパは凄いんだよってお話。
もうすぐ会えるかな。健やかに生まれてきてね。
それで、家族みんなで誰より幸せになろう。
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