至高の弾丸
銃の威力は弾丸に大きく依存している。
無論、銃自体の性能も関わっては来るが、所詮は発射台に過ぎない。
扱う弾丸の種類によってその威力は大きく変動する。
ダムダム弾頭と呼ばれる弾丸がある。
それは十九世紀に英国領であったインドのダムダム地区にて開発されたものだ。
命中すると、弾丸の芯に用いられた鉛がキノコ状に膨らっむことで、体内で留まりやすい。
同じ弾丸が身体を貫通した場合と体内で停止した場合、威力が高いのは後者となる。
弾丸の持つ衝撃が全て身体に伝達される為だ。
更には鉛害も引き起こす為、仮に生き延びたとしても地獄の苦しみを味わうことになる。
その残虐非道性から1899年には「ダムダム弾の禁止に関するハーグ宣言」によって戦争での利用が禁じられることになった。
それ以後は銃の連射性や単純に大きな弾丸を用いた威力の向上が主流となる。
しかし、二十一世紀となった現在は再び弾丸に着目されていた。
ハイテク7.62×51mm弾頭という弾丸がある。
飛翔時は先端にプラスチック製のチップが付いており、空気抵抗が少なくなるように設計されているが、命中時にそのチップが外れることで、尖端が容易に広がるようになっている。前述したようにそれによって高い威力を発揮するわけだ。
更にその内側から
兵士が装着するボディーアーマーは複合装甲となっているが、一層目のセラミック層を変形した弾頭が破壊し、二層目の芳香族ポリアミド繊維層をペネトレーターが貫くという寸法だ。
このように、弾丸には最先端の技術が集約されていることが良く分かる。
では、弾丸の改良を突き詰めた先には何があるのか。至高の弾丸とはどのような物なのか。
そのような考えから生涯を賭して弾丸の実験を行う一人の研究者がいた。
「遂に完成したぞ……」
男は自らの研究室にて、一つの弾丸を天にかざすようにしながら呟く。
それは空気抵抗を極限まで小さくする為の流線形となっており、通常の弾丸とは逆を向いたような形をしていた。材質にもこだわり、とにかく軽く頑丈な金属を選んだ。
己のこだわりとして直径は9×19mm。小銃よりも拳銃に美しさを感じている為だった。
この弾丸の目的は速度の限界を確かめることだ。その為、威力は度外視している。
通常の拳銃の弾速は秒速四百メートル程度だ。ライフル弾はその二倍か三倍程度の弾速となる。最速ではマッハ五を越える物まで存在している。
そして、この新型の弾丸は恐るべきことにそれらを超える見込みとなっている。
無論、専用の拳銃が必要だ。通常の物では射手の命諸共に爆ぜることだろう。
その為に特製の拳銃も既に用意していた。
さあ、いよいよ試すとしよう。どれほどの速度を叩き出すか、実に楽しみだ。
男は研究室内に設置してある射撃用の的に行く。新型の弾丸を特製の拳銃に装填し、構えた。
そこでは自動で速度や威力を計測されるようになっている。
「っ……」
緊張の一瞬。微かに震える指先で引き金を引き絞った。
「――――」
直後、発生した事象をもはや男は観測することが出来ない。
男が開発したそれはまさに至高の弾丸と呼べる物だった。
弾丸の質量に対しマッハ五を遥かに上回る速度が奇跡的に噛み合った結果。
陽子といった極小の質量でも航空機といった巨大な質量でも決して発生しない、神の悪戯とでも言うべき現象が巻き起こされた。
新型の弾丸は銃口から射出された瞬間、
空間の裂け目は即座に修復される。周辺の物質全てを呑み込みながら。
男も、研究室も、保存されていたデータも含め、周辺百メートルほどが完全に消失した。
跡地は半球形のクレーターとなっており、不可解な点も多くありながら、隕石の飛来として処理されることになった。
かくして、男の願った至高の弾丸が歴史に刻まれることはなく、闇の中へと葬り去られた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます