ガンマ線バースト

 その日、一つのニュースが地球上を駆け巡った。


『ベテルギウス超新星爆発! 発生したガンマ線バーストは地球に向かって進行中!』


 当然、各地は大騒ぎとなり、すぐに物理学者や天体学者が政府のもとへと集められた。

 程なくして、世界の人々に詳細を伝えるため、専門家チームの代表が答える番組も放映された。

 それが以下の内容である。


「現在、ガンマ線バーストが地球に向かって進行中とのことですが、もしそれが当たった場合、何が起きるのでしょうか?」

「従来の予測では、仮にベテルギウスが超新星爆発を起こしても、地球への影響は微々たるものだとされていました。しかし、今回計測された数値からは甚大な被害があるという予測となりました。具体的には、地球を覆うオゾン層が破壊され、地上にいる生物は死滅し、数年の間は生物が生きるにはとても厳しい環境となってしまうでしょう」


「何ということでしょう……人類が助かる為の手立てはあるのですか?」

「大きく分けて、二つ考えられます。一つは地下に移住すること、もう一つは地球の外へと行くことです。どちらにせよ、時間はまだありますので、十分な検討が必要になるでしょう。現代の進んだ科学技術であれば、どちらも為し得ることが可能と考えられます」


「時間がある、とはどういうことでしょうか? すぐにでも地球に到達するわけではないのですか?」

「その話をするには、まず今回のベテルギウスの超新星爆発を観測した探査機についてお話させていただきます。ベテルギウスの傍には量子テレポーテーション技術を搭載した探査機が待機しておりました。それによって一切の時間的ラグを生じさせない情報伝達を可能とします。探査機はガンマ線バーストの検知報告の直後に連絡が途絶えました。その報告を精査したことで、ガンマ線バーストの威力や地球に直撃することが発覚した、というわけです」


「なるほど……それでは、ガンマ線バーストはまだ随分と遠くにある、ということでよろしいでしょうか? でしたら、どれくらいの時間で到達するのでしょうか?」

「ベテルギウスは地球から640光年ほど離れており、ガンマ線バーストも光の速さを越えることはありませんので、直撃するのは約640年後になります」


 640年後。

 それを聞いた人々が「なぁんだ」と思ったのは言うまでもない。

 自分が死んだ後、遥か未来の話など、他人事も良いところだった。

 それだけ未来ならきっと大丈夫だろう。その時にはガンマ線バーストすらも花火のように楽しんでいるかも知れない。

 そんな何の根拠もない楽観と共に、人々はこれまで通りの営みを再開したのだった。

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