VR焚き火

『原始のDNAを呼び起こせ! VR焚き火、好評発売中! これであなたも自宅で焚き火体験が出来る!』


 PCで動画を見ていた私は、途中で流れたその広告に興味を惹かれた。

 VR機器によって没入することで、まるで本当に目の前で焚き火をしているかのように楽しめるらしい。

 更には舞台として無数のキャンプ場と焚き火のパターンが用意されており、新鮮な気分で繰り返し堪能出来るようだ。

 しかも、あまりのリアリティに脳が本物の火だと錯覚して、僅かだが体温が上昇する効果まで見られているのだとか。


 以前から時折、焚き火動画に癒されていた私だが、どうにも物足りなさを覚えるようになっていたので、これは是が非でも試してみたいと思えた。

 当然、現実で焚き火をしたいという気持ちもある。しかし、やはり手間隙が掛かってしまう。

 それを気楽に自宅で楽しめ、本物のような体感まで与えてくれるというのであれば、これ以上のものはないのではないか。

 そう考えた私は早速、推奨のVR機器と一緒に購入してみることにした。


 数日後、届いたVR機器とPCを接続し、事前にDLを済ませておいた『VR焚き火』を起動する。

 キャンプ場と焚き火のパターンの選択画面が表示されたが、どちらもランダムが選べたのでそれにした。

 平面的だった画面が途端に現実のような立体的な画面へと移行する。


 何と火起こしをする場面から始まった。ファイヤースターターでスマートに着火すると、火を徐々に大きくしていく。

 火が安定した後はキャンプ用の椅子に座って焚き火を眺めるだけとなった。定期的に薪を足す動作が行われる。


「おぉ……」


 激しく揺らめく炎とパチパチと薪の爆ぜる音に、私は思わず感嘆の溜め息を吐いた。

 まるで自分の手で焚き火を完成させたようで、また目の前に確かに存在しているようなリアリティもある。

 ついつい手を伸ばすと、本当に手の先がほんのり温かくなるような感覚に襲われた。


 これが例の錯覚かと納得する。実際には室内にも関わらず、映し出される荒涼とした風景はひんやりとした感覚をもたらし、だからこそ目前の焚き火は全身をポカポカと暖めてくれるようだった。

 VR機器を装着していると、酒が飲みづらいことだけが難点に思えたが、手に持ち続けていれば良いかと納得した。


 その日以降、私は頻繁に『VR焚き火』を用いるようになった。帰宅してから寝るまでのほとんどの時間を使うことも少なくなかった。

 そんなある日、『VR焚き火』と多量のアルコールが合わさり、一種のトランス状態にあった私は、不思議な体験をする。


「何だか焦げ臭いな……? どうやら『VR焚き火』のし過ぎらしい。いよいよ焚き火の臭いまで錯覚するようになってきたか。そう思うと、全身もいつも以上に温かくなっているような気がする」


 私は変わらず『VR焚き火』を楽しみ続けた。

 命の灯火が消える最後の瞬間まで。




『VR焚き火』の販売中止が発表された。

 主な原因は『VR焚き火』の使用中に火災が発生し、焼死した人物がいたことだった。

 インターネットに保存された彼のプレイログを参照したところ、火災の瞬間に『VR焚き火』を起動していたことが判明している。

 以前より『VR焚き火』には奇妙な中毒性があると指摘されていた。

 その問題が今回の事件で浮き彫りになったと言えるだろう。

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