告白

「わたし、好きな人がいるの」


 隣に座る私の親友は急にそんなことを言った。

 切れ長の瞳は何事もないように膝上に載せた小さな弁当箱を覗き、箸でおかずをつついている。

 反してこちらの手はピタリと止まり、学校の屋上に吹き荒ぶ風の音は私の心象を表しているようだった。


「へ、へえ、そうなんだ」


 思わず動揺してしまい、声を震わした。

 それを取り繕うように続けて明るい声を出す。


「いいじゃん。学生はやっぱ青春しないとね」

「そうね。そうなれるといいけど」


 その声音はしっとりとした愁いを帯びていた。不安の色が感じられる。上手くいきそうにないのかも知れない。

 意中の相手が誰かは知らないが、彼女が悲しむ様は見たくない。……例え、それが私にとっては望まない結末であっても。

 なら、私がすべきことは一つだ。応援しよう。それが親友である私の役目なのだから。

 その為にも聞けることは聞いておいた方が良さそうだ。


「どんな人?」


 彼女は少し考える素振りを見せてから、その細やかな唇を開く。


「……優しくて、かっこ良くて、でも可愛いところもあって、一緒にいるだけで幸せで」


 そう語る彼女の頬はほんのりと赤らんでいた。それは初めて見る顔だった。

 私は不意に彼女が自分の傍から離れていってしまうように思えた。

 私達は小さい時からずっと一緒だった。中学も高校も同じ場所を選んで。休みの日には一緒にショッピングやカラオケに行ったりして。お互いの家に遊びに行くことも良くあって。何度も喧嘩したけど、ちゃんと仲直りもして。


 いつかはこんな日が来ることが分かっていた。私達はこれからもずっと一緒にいるなんてことは出来ないって。

 目元がじんわりと熱くなる。慌てて違う方を向いた。彼女に泣いてる顔を見せるわけにはいかない。

 しかし、そんな私の空いている手にふと温もりが宿った。


「それでね……今、泣いてるくらいに泣き虫なの」

「えっ……?」


 振り返ると、彼女はいつの間にかこちらを向いていて、その手が私の手をそっと包み込んでいる。


「あなたが好きよ、世界中の誰よりも」


 彼女の瞳が真っ直ぐ私を見つめていた。熱っぽく、そして、慈しむように。


「……ずるいよ、そんなの」


 彼女は初めからこちらの反応を窺っていたのだ。確かめていた。その想いを告げるかどうかを。


「ごめんなさい」

「……でも、そうだよね。怖いもんね」


 そんな確かめは私達が異性同士ならきっと必要なかっただろう。けれど、同性だから。普通じゃないから。

 どうしても臆病になってしまう。秘めたままの方が良いと考えてしまう。

 それでも、胸の内からはどんどん想いが溢れ出ていく。抑えきれないほどに。

 苦しくて、辛くて、張り裂けそうで。

 だから、確かめたいと思う。例え相手を騙すことになっても。切なる願いと共に。

 そして、その願いを叶えるのは私だ。彼女が私の願いを叶えてくれたように。


「私も好きな人がいるんだ」

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