悪夢
夜空を無数の光る円盤が埋め尽くしていた。それは轟々と火炎を吐き、稲妻を落としていく。
人々は為す術もなく蹂躙された。炎上する街並み。崩壊していくビル群。地上は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
時折、軍隊の戦闘機が射出したミサイルや戦車が撃ち放つ砲弾によって円盤のいくつかは墜落するが、それでも圧倒的な数の前には焼け石に水だった。
事前に入念な対策が行われていれば、まだ抵抗は可能だっただろう。しかし、その奇襲は見事に成功していた。人類は完全に意表を突かれた形となった。
そうして、人類はいとも容易く敗北の一途を辿ったのだ。
「……っ!」
男は目を覚ました。全身から汗が吹き出しているのを感じる。
夢を見ていた。恐ろしい夢だ。突如として襲来した宇宙人に人類が敗北する夢。
しかも、その夢を見るのはこれで三度目だった。自分は一体どうしてしまったのだろうか。
夢には潜在意識が表れるなどとは良く言うが、ならばこれは何を指し示しているのだろう。
流石にこうも同じ夢を見てしまうのはまともだとは思えなかった。
男は病院を訪れることにした。精神科だ。
「なるほど、急に宇宙人が攻めてくる夢、ですか」
「先生、私はおかしくなってしまったのでしょうか」
「安心してください。良くあることですよ」
「そうなんですか」
男は医師に良くあることだと言われて安心した。
医師はサラサラとカルテを書きながら言う。
「薬を処方しておきましょう。それをしばらく飲んでいれば、すぐに良くなりますよ」
「ありがとうございます」
帰宅した男は早速、処方された薬を飲んだ。その夜は例の夢を見なかった。
次の日も、その次の日も、更に次の日も。薬を飲まなくなっても同じ夢を見ることはなかった。
すっかり良くなった男は晴々しい表情で呟く。
「やはりあれはただの夢だったのだなぁ」
男を診察した医師は、彼が診察室を出た後に安堵のため息を吐いていた。
「予知夢の力とは恐ろしいものだ。我々の計画が政府や人々にバレてしまっては困る。しかし、精神科に潜入しておいて正解だった。あのように特殊な力を持った者が自然と集まってくるのだから。力を封じる薬を飲ませておけば問題はない」
宇宙人の斥候としてやって来ているその者はほくそ笑む。
計画の日はもうすぐそこまで迫っていた。
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