変わった映画館
休日、男が古くからある商店街を歩いていると、目立たない場所に寂れた雰囲気の映画館があった。
どうやら少し前の映画を通常よりも安い値段で上映しているらしい。スクリーンは一つで時間によって上映作品が異なるらしい。
ちょうど暇だったので、入ってみることにする。券を購入して館内に入ると、想像に反してほぼ満席だった。隠れた人気のある映画館なのだろうか。
男はほのかな案内灯を頼りに自分の席についた。
映画はすぐに始まった。アクション映画だ。冒頭はど派手なアクションシーン。
男は気楽に楽しむ姿勢となる。
しかし、どうしてか周囲の人達はそわそわとしているように思えた。どこか落ち着かない様子だ。
とは言え、邪魔というほどでもないので、男は気にせず映画を楽しんでいた。
すると、そろそろ序盤も終わりという頃になって、突如、館内に大きな声が響き渡った。
「火事だ!!」
男はドキリとする。途端に人々が慌てた様子で立ち上がり我先にと出入口へ駆け始めるのを見て、思わずその流れに追従した。周囲の人々は大げさな程に必死で、火事という発言を疑うこともなかった。
「押さないでください! 落ち着いて避難を!」
係員らしき人がそう声を掛けるが、人々は聞く耳を持たない。波に呑まれて倒れる人もいた。大怪我をしてもおかしくない状況だが、なぜだかその者は笑っているように見えた。
やがて、男を含んだ人々が館外に出終えると、係員は落ち着いた様子で告げる。
「それでは、本上映は以上となります。皆様、お楽しみいただき誠にありがとうございました」
どういうことだ、と男は不満の表情を露わにする。
しかし、他の人々はその発言に驚いた様子はなく、ホッとした態度で笑みを漏らしていた。
「はぁ、ドキドキした。火事は久しぶりだったから」
「ぎゅうぎゅうと押して押されとするのはたまらんね」
そのような発言があちらこちらから聞こえてくるが、男は周囲の人々と自分の認識に齟齬を感じ、近くにいた係員に詰め寄った。
「おい、一体、どういうことなんだ。この映画館は普通とは違うのか」
「おや、お客様はご存じなかったのですか。当映画館はハプニングシネマとして有名でして、上映中に現実でも何か驚くようなことが起きるのを楽しむ為の施設なのですよ。世にはそういうことがお好きな方というのが存外おられましてね」
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