あべこべ星人

 人類が宇宙へと進出してそれなりの時間が経過していた。

 今や宇宙船によって太陽系の外も探索の対象となっており、遂に最も近い――といっても地球から十数光年という遠大な距離だが――生命居住可能領域ハビタブルゾーンに存在する地球型惑星に接触することさえ可能としていた。


 その星には地球人とそっくりな人々が過ごしていることが、宇宙からの観測により判明していた。どうやら彼らはまだ宇宙に進出するほどの技術力はない様子だった。

 やがて、地球から外交使節団が派遣されてやって来た。


「まだこの星の人々がどのような言語を用いるのかは分かっていない。今日のところは身振り手振りで何とか交流を図るのが狙いとなる」


 大使は自らが率いる使節団の者達に言う。


「我々としては平和に事を進めたい。その為、まずは笑顔で敵意はないことを示そう」


 宇宙船はその惑星へと降り立ち、出入口から地面へと階段型のタラップが下ろされた。

 大使は宇宙船の傍に集まっていた人々の様子を観察する。

 事前の情報通り、その見た目に地球人との差異は見られなかった。

 その表情に警戒の様子はなく、むしろ彼らはにこやかで楽しそうに見えた。

 それを見た大使は安堵して肩の力を抜く。


「どうやら歓迎してくれていそうだな。よし、行くぞ」


 そうして、大使を先頭とした使節団の面々は惑星の地を踏んだ。

 距離を空けて宇宙船を取り囲んでいた人々は一層、その笑みを深くしたように思われた。

 大使は鷹揚に両手を広げ、敵意はないことを示し、彼らへと近づこうとする。

 その瞬間のことだった。

 取り巻く人々は一斉に懐から何かを取り出した。それはカラフルな拳銃のように見えた。


「な、何だ!?」


 思わぬ反応に戸惑う大使達。

 彼らは笑顔のまま何やら声を上げたかと思えば、それを使節団に向けて一斉に撃ち放った。

 無数のドロリとした液体が放物線に飛び、大使達に着弾すると、彼らは声を上げる間もなくその全身が溶け落ちた。その後、取り巻く人々は一転、険しい顔となった。

 そんな恐ろしい光景を見た宇宙船の乗組員は慌てて離陸し、たった今起きたことを地球に報告した。


 後に判明したことだが、その星の人々は地球人とは感情表現がまるっきり正反対、つまりはあべこべであるようだった。つまり、笑顔は警戒や怒りを表しており、険しい顔こそが歓迎や安堵を表していたのだ。

 その結果、地球では彼らのことを「あべこべ星人」と呼ぶようになった。

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