育児ロボット
「まだ産後で体調も悪いし、育児ロボットをレンタルしよう」
「でも……」
夫の提案に妻は難色を示していた。
今や育児ロボットは子供が新しく生まれた家庭では当たり前に使用されている。評判も非常に良い。
確かな科学的検証のもとで子供の健全な発達に必要な要素を兼ね備えており、それも利用者レポートや育児ロボットを使用した子供の発達状態に関するデータを用いて、日々アップデートが続けられている。
しかし、妻としてはやはり我が子なのだから、自分達の力で育てたいという気持ちがあった。
「俺は仕事の為にもあまり睡眠を削るわけにはいかないし、かといっても今の君が起きているわけにもいかないだろう? 利用するのは深夜だけでもいいさ。その塩梅は君に任せるよ」
「……そうね、分かったわ。そうしましょう」
不要だと思えばすぐ返却すればいい。妻はそう考えて頷いた。
こうして、二人は育児ロボットをレンタル購入した。
数日後、すぐに最新の育児ロボットが届けられた。
その姿は両親のどちらかと同じものか、もしくは一般用として設定されたものとなる。彼らは子供が混乱しない為にも妻と同じにしておいた。
普段は子供の目に付かない場所に置いておいて、どうしても妻が見ておけない時に頼る形だ。子供からすればいつでも母親が一緒にいてくれるような気分だろう。
更に数日が経過し、夫は妻に問いかけた。
「育児用ロボットはどうだ?」
「最初はやっぱり気になって影から見てたけど、表情は違和感なく作ってるし言葉も色々と掛けてくれて泣いてる時の対応も上手に出来てて、思ってたよりも凄くちゃんとしてるわね」
「そうか。それは良かった。なら、君は体調を戻すことに専念してくれ」
「ええ、そうするわ」
それからおよそ一年の時が流れた。妻の体調はすっかり回復しており、夜泣きも随分と減っていたので、既に育児ロボットに頼る必要性はなくなっていた。
「そろそろ育児ロボットは返却してもいいんじゃないか?」
「うーん、でもあった方が買い物とかに行きやすいのよね」
「君がそう言うならまだレンタルしておくことにしよう」
妻は以前よりも子供を育児ロボットに任せる時間が長くなっていた。
例えば料理中や洗濯中のように家にいても注意して見ていられない時や、買い物のように外に出かける必要がある時などは任せていた。
育児ロボットは乳母やベビーシッターのようなものだ。自分が母親であることに変わりはない。そのような自負から子供を育児ロボットに任せることへの躊躇いはすっかりなくなっていた。
それから更に月日が流れ、子供が随分と動き回るようになっており、言葉も僅かながら発するようになっていた頃。
妻は子供と遊んでいた。その際、次のような言葉を繰り返し伝える。
「ママだよー」
いつ自分をママと呼んでくれるだろうか。それは彼女にとっての楽しみだった。
しかし、妻は他のことをする為に子供を育児ロボットへと任せていた時、近くを通りがかったことで遂に聞いてしまう。
実は少し前から育児ロボットに向けては何度も発していた、その言葉を。
「ママ!」
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