第137話1月8日だから、戦えという

多くの人が母を訪問してくれる

毎日遊びに行ってくれる教え子一家には感謝のしようもない

この日は地元ボランティア団体の仲間が訪問してくれた

ありがたいのは、母の帰りを待っていてくれると

はっきり告げてくれたこと

突然

その朝

本当に突然全部がなくなってしまったんだ

あると思っていた当たり前がなくなってしまった

教え子たちの訪問は、全部なくなったんじゃないよと教えてくれる

ボランティア団体の仲間たちの訪問もまた、あなたの帰ってくる場所があるんだよと教えてくれる

実際のところはどうなるか分からない

歩ける

ではダメなんだ

日常生活ができる

ではダメなんだ


とはいっても

奪われて終わりではない

自分で動いてみて

自分で決めて

終わらせるならと思う

もちろん、なにがしかの形で可能な限りこれまでの活動を継続できればそれが一番


とはいっても

麻痺のみならず筋力低下と体力が問題

80歳がひと月寝たきり

そこからどこまで筋力が回復するのか

回復した上で

どこまで体力が回復するのか

がむしゃらに運動すればいいわけではない

けがをしたら終わり

寝たきりとなる

現時点のリハビリで綺麗な歩き方を身につける

それができなければ

退院後、転倒等のリスクが大きくなる

だからただがむしゃらに動けばいいわけではない

気持ちが急く

体が重い

そんな母の言葉を反芻するだにかける言葉を探し

探しあぐねてしまう


落ち着いてゆっくり

一秒でもニ秒でも早く帰りたい人なのに

がんばれ

がんばったあげくがこれなのに

絶対に大丈夫

そんな言葉が上っ面なのはわかってしまう


だから、戦えという

俺たちはなんだかんだ戦ってきた

この単語が一番しっくりくる


また二人で戦う


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