【第44話:終焉、そして……】

 真魔王ラウムは『魔神の剣』をまともに胴に喰らい、半分以上が消失した自分の身体を信じられないといった表情で見つめていた。


「ぐふっ……まさかこんな餓鬼に負けるなんてね……。バエル……地獄で、待っているわ、よ……」


 最期に自嘲気味にそう言って、そのまま動かなくなった。


「まぁ、待っててください。そのうち私もお邪魔しますので」


 ゼロは少し寂しそうに真魔王ラウムの最期を見届けてから、肩で息をして膝をついているステルヴィオに目を向ける。


「ギリギリ及第点といったところですね。ステルヴィオ」


「ははは。労いの言葉も無しかよ……。しかし、確かにギリギリだったぜ。勝てる見込みも、元々かなり低かったしな」


 ステルヴィオのその言葉に嘘はなく、『聖魔混合』で短期決戦に持ち込み、一度しか使用できない『魔神の剣』で止めを刺すというこの作戦は、勝てる可能性で言えばかなり低かった。


 だが、ラウムはゼロの登場により、完全に浮足立っていた。


 だからもしゼロが姿を現さなかったら、『魔神の剣』も避けられていた可能性が高かっただろう。


「ステルヴィオにはまだまだ強くなって貰わないと困りますね。まぁ契約の一つを達成したという事で、特別サービスで残党は私の方で処理しておきましょう」


 そう言って指をパチンと弾いた瞬間、ラウムの死が信じられず、周りで呆然と立ち尽くしていた魔族たちが、一瞬で黒い炎に包まれ、塵も残さず消し去られた。


「はぁ……相変わらず馬鹿げた強さだよな……」


 少し疲れた顔で苦笑いを浮かべ、ステルヴィオはゼロに呆れた視線を向ける。


「弱音は困りますね~。そんな事で真魔王の残り三人・・・・を倒せるのですか? 言っておきますが『天』のラウムは最弱ですよ?」


 残り三人。

 それは、元真魔王軍『無』の原初の魔王バエル……つまりはゼロも含まれるという事だった。


「わかってるよ。原初の魔王バエル様・・・・ラウムあんなのと同じ強さなわけがないじゃねぇか」


「それなら良いのですよ。ご主人様・・・・


 そう言って軽く笑い合う二人は、どこか楽し気であり、そして……寂しげだった。


「まぁ、ちゃんと契約は守ってやるから安心しろ。真魔王全員を……最後は、執事気取りの魔王も含めて、ちゃんと倒してやるから……よ」


「えぇ。頼みますよ? 真魔王たちを贄にして、この身に施した封印が、真魔王たちが甦った事で弱まってしまっています。このまま封印が完全に解け、自我の消失が起これば……私はまた・・世界を破壊しつくしてしまうでしょう」


 真魔王として今この世界に伝わる逸話の大半が、この自我の消失中に行われたものだった。


 遥か数千年前。

 こことは別の世界に誕生したゼロは、生まれながらにして邪神の加護を受けた、最初の魔王だった。

 そして、ゼロは眷属として魔族を創り、従えると、瞬く間にその世界を支配し……その世界を破壊した。


 最初の自我消失が起こったのだ。


 何もかもを破壊しつくした後になって、ようやく自我もその時の記憶も取り戻したが、ゼロは自らの行いを恐れて眷属を従えて世界を渡った。

 それが今いるこの世界だ。


 この時、自身が創り出した魔族の中から三人の魔王が生まれる。

 最初は、数多くいる魔族の眷属の一人でしか無かった真魔王たちだが、魔王の力で魔物を従え、眷属を増やして力を得ると、やがてゼロに牙を剥いた。


 三人の魔王は共闘し、奮戦したものの、最後には全員ゼロに倒される。

 しかしその時、激しい戦いが響いたのか、二度目の自我消失が起こり、ゼロはこの世界の半分を破壊してしまう。


 それを嘆いたゼロは、倒れている三人の魔王を贄にして、自分自身を封印してしまう。


 これでようやくすべてが終わったかと思われたが、しかし、真魔王たちはゼロに次ぐ力の持ち主。

 長い年月をかけて復活してしまった。


「そもそも、数年前。魔神の加護などという馬鹿げたギフト『魔王』を持つ勇者が生まれていなければ、私の解放とともに、世界はそのまま破壊されて終わりだったというのに、全く面倒な事をしてくれました」


「なんだよ……ゼロから望んで契約したんだろ……」


「はい。さすがに、自我のある状態で復活しておいて、世界を破壊するのを何もせずに見ているというのは、ちょっと受け入れがたいですからね。真魔王を倒した後に、既に自我の無くなっている我が眷属の魔族一万を倒せば、何とかあなたの『魔神の剣』でも私を倒す事が出来るようになっているはずですから、頑張って貰わないと困ります」


 森の奥の遺跡でゼロと出会った時、ステルヴィオはまだ五歳だった。

 親が亡くなり、森に捨てられたというのに、逞しく生き延びている非常識な子供だったが、それは置いておくとして、石造りの遺跡の上で空を見上げて佇むゼロを見つけ、興味本位で近づいたのだ。


 魔王覇気を使って……。


 ステルヴィオを見た時、ゼロは何か天啓のようなものを受けたらしい。

 お前を殺せるのはその少年だけだと。


 そしてゼロは、ステルヴィオの眷属になった。

 いつか自分を殺して貰うために。


「まぁ、まだ当分先になっちまうと思うが、ゼロが自我を失くすまでには必ずオレが引導を渡してやる。それが、オレがゼロにできる唯一の、恩返しだからな……」


「はい。期待していますよ。ギフト『魔王』を持つ勇者さま・・・・


「気持ち悪いからやめろっての。それより元の世界にもどろうぜ?」


 この後、元の世界に戻った二人の手で、真魔王軍『天』の残党が倒されるのに、大した時間はかからなかった。


 ~


「さぁ~、とりあえず皆と合流したら、旨い飯でも食いにいくか!」


「ステルヴィオ?」


「ん? どうしたんだゼロ?」


「お店……開いてないんじゃないですかね?」


「あ……」


 契約の事は、二人しか知らない。

 アルテミシアも、ケルも、ネネネとトトトも……。


 もちろん、いつかは皆にも知らさなければならない時が来るだろう。

 だけど今はまだ、このままで良い。


 この宿命は二人の背負ったものだから。





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◆あとがき

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これにて第一章は一応の完結となります。

ここまでお読み頂き、ありがとうございました!!


それで第二章以降なのですが、ちょっと書き始めるのがだいぶん先に

なりそうなので、一度こちらの作品は完結設定を行い、

続きを書く時は「槍使いのドラゴンテイマー」のように

シリーズ設定して、あらためて公開したいと思います。

※シリーズ設定可能なサイトのみ


あっ、よければ「こげ丸」を作者フォローしておいていただけると、

活動報告でお知らせするので、色々便利ですよ! ※作者推し営業


当面は「呪いの魔剣」の書籍発売が近いので、色々バタついていたり、

複数作品連載していたり、新作も準備を進めていたり、

インプットだったりで、なにかと忙しい日々が……。

なので、執筆から遠ざかる事はありませんが、暫くは精力的に、

「自分で自分の首を絞めるスタイル」(どんなスタイルだ…)で

頑張っていきますので、これからも宜しくお願いします!<(_ _")>


p.s.ケルのお話がもっと書きたい人生だった……


===こげ丸===

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魔王を以て魔王を制す ~ギフト『魔王』を持つ勇者~ こげ丸 @___Kogemaru___

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