【第36話:真魔王ラウム その2】

 隠れている者たちを始末するために街に散らばった魔族だったが、建物に侵入したものたちから、次々に返り討ちに合い、その数を減らしていた。


「おい! いったいあの建物の中で何が起きている!? お前、数人連れて行って調べてこい!」


 教会を攻めていた、それなりに大きな魔族の集団だったが、先ほどまで聞こえていた悲鳴や攻撃魔法の炸裂音などが突然聞こえてこなくなった事を不審に思い、部下の魔族たちに命令を下す。


 しかし、魔族6体が突入したにも拘らず、中は静かなままだった事に苛立ち始めた。


「くそぉぉ! どいつもこいつも役に立たねぇ! 面倒だ! 建物ごと破壊しろ!」


 魔族たちは確かに街の破壊をしないように命令されていたが、それはあくまでもなるべく破壊するなと言ったもので、建物の1戸や2戸破壊する事に躊躇はなかった。

 まぁ、仲間が突入しているのに破壊するのは、ここを仕切っている魔族の性格的な問題だろうが……。


「灰にしてやる! お前らも同時に撃ち込めぇ!」


 そして、待機していた十数体の魔族と共に、自らも魔力を練り上げていく。

 しかし……その魔法が放たれる事はなかった。


「へげっ?」


 視界がずれていく魔族が最期に見たものは……。


「あぶねぇな……お前ら、意外と強力な魔法が使えるんだな」


 ステルヴィオの呟きを聞くものは誰もいなかったが、その光景を見ていた部下の魔族たちが、慌てて標的をステルヴィオへと変えて魔法を放ってきた。


「あっぶね!? オレはケルほど空中戦得意じゃないんだよな……」


 愚痴りながらも、ケルと同じように魔力で足場を作って空を駆けると、魔法を放ってきた魔族たちに斬りかかった。


「な、なんだお前は!?」


 そう言って魔族が放った魔法を、わざと自然落下する事で掻い潜り、すぐさま足場を作り直すと、そこから一気に跳んで下から上へと魔族を両断する。


「もう聞こえてねぇだろうけど、自称勇者だ、よ!」


 そして、他の魔族が放った炎の塊を袈裟斬りに斬り裂いた。


「くっ!? 勇者だと!? 嘘をつくな! 固まって障壁を強化するぞ!」


 勇者と言う言葉を信じない残りの魔族たちが、慌てて集まり、力を合わせる事で強固な障壁を展開した。


 しかしそれは、魔族たちにとっては悪手だった。


「はっはっは……どうせ勇者っぽくねぇよ!? しかしなんだ……手間を省いてくれるのか?」


 そう言って魔王覇気を纏うと、障壁などどこにあったのかというほど呆気なく一瞬で詰め寄り、魔王覇気を纏わせて切先を伸ばした剣を振り抜き、纏めて斬り放った。


「ふぅ~。こっちはなんとかなりそうだけど、アルたちは大丈夫かな……」


 辺りにいた魔族たちを倒し終わったステルヴィオは、城壁の外、ずっと遠くを眺めて、ポツリと呟いたのだった。


 ~


 王都へと続く街道の脇に広がる穀倉地帯。

 そこには、真魔王軍『天』所属の魔物たちが、複数の魔王門から続々と送り込まれていた。

 もし、この光景を街の人間が見ていれば、絶望にかられ、下手をすれば自ら命を断っていたかもしれない。

 それほどの魔物の軍勢が、隊列を成して行軍していた。


 その魔物の軍勢の向かう先は二つ。


 一つはすぐ側にある古都リ・ラドロアの街。

 この魔物の軍勢で以て、街を完全に支配するためだ。


 そしてもう一つは、冒険者の街ヘクシー。

 この国の勇者を、その数の暴力で以て、葬るためだった。


 その二手に分かれたうちの、古都リ・ラドロアに向かう魔王軍の軍勢の中に、小さな魔物の姿があった。


『すみませ~ん。ここの魔物は『天』の魔王軍で間違いないですか~?』

『……念のため教えて……』

『まぁ、教えたくないなら……とりあえず倒しちまうけどな!』


 そこへ、小さな小さな狼の魔物が現れ、そんな事をのたまったものだから、部隊を預かっていた石造の魔物ガーゴイルは、わけがわからず聞き返した。


「ん? なんだお前は? うちにお前みたいなチビいたか?」


 ただ、人ではなく魔物であり、しかも魔法言語を使って話しかけてきた事から、それなりに高位の魔物なのか、見た目通りの弱い魔物なのかも判断がつかず、そう尋ね返した。


『ここには同種の魔物はいないだろね~』

『……いたら、びっくり……』

『そんな事より質問に答えろよ! とりあえず倒しちまうぞ!』


 だが、さすがに小さな魔物に何度も馬鹿にされて黙っているほど、温厚な魔物もここにはいなかった。


「お前……ラウム様から伝言でも頼まれたのかと思って、下手に出……」


 しかし、そのガーゴイルの言葉は最後まで発せられることはなかった。


『ラウムって事は間違いないね~』

『……確認、完了……』

『って事で、死ね』


 ケルがそう言った時には既に巨大化、いや、本来のサイズに戻っており、ガーゴイルは踏みつぶされていた。


 突然、巨大な魔物、しかも魔物としては最高位と言ってもいいケルベロスが現れた事で辺りは騒然となり、注目が集まる。

 だが、その次の瞬間には別の場所で魔物たちの断末魔が響き渡ったために、今度はそちらに注目が移った。


 頭上から降り注ぐ大量の武器に貫かれ、数百匹の魔物が一瞬で倒されたのだ。


 しかし、ケルベロスという魔物は、目を離して隙を見せて良いような生半可な魔物ではない。

 さらに次の瞬間には、ケルがブレスを放ち、同じく数百匹の魔物が消し炭へと変えられていた。


「何が起こったぁ!?」


 魔物の軍勢の中でも隊長格の魔物が状況を把握しようとするが、しかし、そのような状況の中、今度はまた別の場所で叫び声があがる。


「敵襲だぁ! こちらに所属不明の軍が向かってくるぞぉ!」


 その声につられるように真魔王軍『天』の魔物たちが見たのものは……。

 単純な数こそずっと劣るものの、それでも1万を超えそうな数の人ならざる者の・・・・・・・軍勢だった。

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