【第33話:ある勇者の葛藤】
レックスたちは、ギルドマスターのメルゲンを始めとした何人かのギルド職員と共に、冒険者ギルドで待機していた。
ステルヴィオたちからの連絡の内容次第では、その後を追う事になっているのだが、アグニスト王太子から聞いた神託に従い、この街に残った形だった。
そのレックスたちのいる会議室に、受付嬢のサリーが慌てた様子で飛び込んできた。
「レックスさん! ま、魔導サインが届きました!」
レックスは、待ってましたとばかりにすぐに立ち上がって駆け寄ると、
「ようやく! それでサリーさん、何と書かれていたのですか?」
と言って、サリーの肩を掴んで揺する。
「ひゃぁ!? れっくしゅさま!?」
そして、男前耐性のないサリーが叫んだ……。
「もう! レックス、何をしているのですか!?」
女魔法使いのソリアにそう言われて慌てて手を離すと、レックスは謝ってから、それでもまた報告を急かした。
「す、すみません! でも、それで内容は?」
「は、はい! 発見した時には既に真魔王軍の魔族に襲われていて戦いになったそうですが、ステルヴィオさんたちの活躍でこれを撃破し、無事に近衛騎士団を中心とした、王都を脱出してきた人たちと合流できたそうです」
サリーのその報告に、その場にいた者たちから歓声があがる。
だが……その次に続く言葉に、愕然となった。
「ただ、その……その中に国王様の姿はなく、どうやら囮だったようです!」
「なっ!? 囮だと!? じゃぁ、国王陛下はどちらに!?」
弓使いのザーダが皆の聞きたい事を、代表するように叫んだ。
そして皆、神託に従い、ここに残った自分たちの役目を薄々勘づき始めていた。
「それが……どうやらこの街に向かっているようなんです……」
「なっ!? だから僕には出来るだけ仲間を集めるようにとの神託が……」
それからサリーは、魔導サインで受け取った残りの報告を、レックスたちに伝えていった。
「それじゃぁ、街の守りは衛兵と冒険者たちに任せて、レックスたちは国王陛下をお迎えにあがってくれ。衛兵の方はギルドから連絡しておく。ただ、冒険者たちには、ちょっと一言はっぱをかけていってくれないか」
「わかりました! みんな……ここからは僕たちの番だ! すぐに出るよ!」
レックスはパーティーメンバーにそう声をかけると、すぐに会議室を飛び出て冒険者ギルドの1階に降りていった。
そしてその1階には……。
「レックスさん! どうなったんですか!?」
「何かわかったんですか!?」
冒険者ギルドの1階を埋め尽くす、多くの冒険者が集まっていた。
レックスたちは、既に冒険者たちに声を掛け、共に戦って欲しいと集まって貰っていたのだ。
「あぁ! 魔導サインにより連絡が入った! 今、この街に国王陛下が向かっているそうだ!」
皆戦いになる覚悟はしていたが、まさか国王がこの街に来ることになるとは想像すらしておらず、どよめきが起こった。
「僕は、今からすぐにここを出て、国王陛下を迎えにあがらなければならない! だから君たちには、国王陛下を迎えるにあたり、この街の守りを固めて欲しい! 真魔王軍の主力の魔族どもは別動隊の者たちが対応する予定だが、ここへ魔物の群れが押し寄せてくる可能性も否定できない!」
そう声をあげながら、レックスは先に聞いた言葉を思い出していた。
『多くの仲間を集めて、街の守りを固めろ』
簡潔に言えば、これがアグニスト王太子から伝え聞いた、レックスに下された神託の内容だった。
だから……すでに準備は進めていた。
既に非常事態として街には知らせがだされており、多少の混乱はまだ残っているものの、概ね住民の避難は完了している。
「きみたち冒険者は、空からの襲撃に備えて街の中を巡回するものと、門の守りを受け持つ者に分かれて貰う事になっている。ギルド職員の指示に従い、それぞれ配置についてくれ! 厳しい戦いになるだろうが、どうかこの街を守って欲しい!」
「おうさ! この街は俺たちの街だ! 守り切ってやるぜ!」
「力を合わせれば魔物なんて恐れるに足らねぇ!」
勇者に頼まれ、この冒険者の街を守るのだと、否応なく士気があがっていた。
ただ、残念ながら高ランクの冒険者たちの多くはまだ街に戻っておらず、その士気の高さとは裏腹に、戦力的にはかなり心もとないものだった。
だが……それがわかっていても、今はこの街にいる者たちだけで、このヘクシーの街を守らなければならない。
もし魔物たちが押し寄せてきた場合、恐らくこの街の戦力では、持ち堪える事が出来る時間は限られている。
レックスはここにいる者たちを死地に送りだす事になるかもしれないとわかっていながらも、その時間を少しでも伸ばすために言葉を続けた。
「そうだ! この街が……いや、この国が生き残れるかどうかは、きみたち冒険者の活躍にかかっている! 皆で団結してこの街を守るぞ!!」
「「「おぉぉぉ!!」」」
レックスはそうして冒険者たちの士気を高めると、自らは仲間と共にギルドから貸し出された馬に乗って、街を飛び出したのだった。
(すまない……実際は、きみたち冒険者の活躍でどうこう出来る次元の話じゃないんだ。そしてそれは、この僕でもない……ステルヴィオたちにかかっているんだけどね。……勇者なんて名ばかりだな……)
自らの力の無さを嘆き、神託に皆を巻き込んだ責任を噛みしめながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます