十三 長安城壁(三)
いまは
次いで弁正は一緒に連れて来ていた二人の在唐留学生を紹介した。二人は三十代半ばだったが、もっと若く見えた。だが近づくと二人とも白髪が多いことが分かった。
在唐の留学僧たちについても弁正は「それぞれ所属している寺の規則によってすぐには外出許可が下りなかったために今日は来れなかったが、できるだけ早く顔を見せに来れるよう自分が各寺に働きかけている」、と淀みなくさらさらと説明した。
わたしはこの人物がかつて僧衣をまとっていたとはにわかには信じられなかった。
「皇帝陛下の碁の相手を務めたとか」
「昔の話です。褒美にいただいた妻も四年前に
「かまわぬ。そなたからは
「ずいぶんと早く決まったのですね。それこそ皇帝陛下が日本人を
押使は少し眉根を寄せた。
「それはどういうことか」
「せっかく皇帝陛下に関心を持っていただいているのだから、それこそ我々はその関心に
「ううむ……」
「わたしども大宝の遣唐使の謁見では、
弁正は髭の無い
二人は答えた。
「
「
「ほう、阿倍氏のご子息が留学生とは。お父上はどなたかな?」
「
「正五位下……十七歳……ならば
弁正は何やらひとりでぶつぶつと言っていた。
押使をはじめ
わたしは弁正の後ろにいた二人の在唐留学生たちが互いの目と目を合わせたあと、とても暗い顔をして下を向いたのが気になった。
弁正がぽん、と手を叩いた。
「うむ、我ながらよく思いついたものだ」
押使は苦笑いしながら、
「何であろう?」
「押使さま、先ほど押使さまが忌憚なくとおっしゃったのでその通りに申し上げます。謁見にはこの阿倍仲麻呂どのをお連れください。そして彼が目立つよう、服装と並び順をお考えください。彼の隣りはなるべく髭面の年寄りがよいでしょう」
みな弁正が何を言い出したのかと顔を見合せた。「髭面の年寄り」とは自分のことだ、とおそらく感じたであろうお偉方は渋い顔をした。
弁正はそんなみなの反応など全く意に介さぬ調子で続けた。
「謁見ではそれとなく仲麻呂どのを気遣い、彼に視線を送ってください。そうすれば皇上も押使さまの視線を追って仲麻呂どのをご覧になるはずです。“おや、この若者はなんだろう”と、きっと皇上はご興味をお示しになるでしょう。となれば皇上のおそばの者がすかさずそれを察知し、謁見後仲麻呂どのについて尋ねてくる。そこでこう言うのです。“この若者は大唐皇帝陛下の御徳を慕い、はるばる海を渡って来た。今日実際に
「科挙だと!?」
場は騒然とした。
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