九 玄昉(五)
それは
その日の船倉の話題は「唐の女を一発で落とす口説き文句を考えろ」だった。
玄昉が、
「皆さん、わたしのはこうです。“
水手たちからおお、と感嘆の声が上がった。
「さすが玄昉さま。しゃれてるな!」
「
玄昉は僧衣の袖をひらひらさせて、
「ははは、来世で使うとするかな。だから現世ではおまえに貸しておいてやるよ、
こちらに背を向けて寝ている真備は返事をしなかった。
玄昉はわたしの隣にやって来た。そしてわたしの肩をぽん、と叩くと、
「
「はい! ……へ?」
玄昉はわたしの耳に口を寄せて、
「
「え? ……歌垣?」
玄昉はわたしの顔を覗き込んで、
「知らないのか?」
「は、はい」
あとで玄昉に教えてもらったのだが、東国では歌垣といって、年に一度若い男女が集まって歌を歌い合い、互いに
玄昉は少し声を高くして、
「真海、おまえまだ女を知らない?」
わたしは顔が熱くなった。たぶん真っ赤になっていた。船倉が薄暗くてよかった。
わたしは小さくうなずいた。
と、一番近くにいた水手が、
「この兄ちゃん、まだ女を知らないんだとよ!」
水手たちが一斉に騒ぎ出した。
「なんだ兄ちゃん、そうなのかあ?」
「やっぱりな。そうだと思ってたよ!」
「何から何まで知らんのかあ?」
「おい、誰かどんなもんか教えてやれよ」
「おめえがやれよ」
ばん! と真成が荷箱を叩いた。
「うるさい!」
まあまあ、と玄昉は笑いながら真成の肩に手を置き、
「真成、おまえの口説き文句は?」
「そんなもの無い」
「おや、そうか? おまえの下着の紐を結んだ女に、甘い言葉の一つもかけてやったことは無いのか?」
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