第19話

その頃竜朗は、ポチにプロレスの技でもかけているのかというような格好で、ポチを組み敷いて、ポチの爪を切っていた。

こうしないと、嫌がって逃げるので、かえって危ないからなのだが、側から見るとかなり面白い事になっている。


揺れが起きたのは、その時だった。


「あら…。」


洗濯物を干していたしずかがよろめいたのを、バッと駆け寄り支えて、2人で首を捻る。

揺れはすぐ収まった。


「こりゃ、地震じゃねえな。」


テレビを点けたが、地震速報も何もやっていない。


「まーたやりやがったか、龍太郎の奴。」


「でも、凄い揺れでしたね…。龍、大丈夫かしら。」


「ん?龍、どこ行ったんだい。」


「今日は洞窟探検に付き合わないとって、すごくめんどくさそうに言ってたんですけど…。」


そして2人して顔を見合わせ、顔色を失くした。


「崩落してねえだろうな!?」


竜朗は、龍介の発信器用の受信機を見た。


「信号が無え…。」


しずかが更に青ざめる。


この発信器は、時計が壊されると発信機能がストップするようになっている。

身に着けている時計が壊れたと考えると、かなりまずい状況だ。


竜朗は、自分の不安もかき消すように、しずかの頭を撫でて笑いかけた。


「大丈夫だ、しずかちゃん。あの龍だもん。自分の身も守りつつ、仲間守って、無事でいるよ。ちょっと行ってくっからさ。」


そしてまた竜朗は、愛車アウディを急発進させて出て行った。




発信器の信号が消える直前の場所に行ってみると、その洞窟だったらしい場所は、既に大きな石で入り口が塞がっていた。

竜朗が電話を掛けようとすると、自衛隊のジープが竜朗に突っ込んで来る様な勢いで走って来て、止まった。

龍太郎と、亀一の父の和臣が大慌てで降りて来た。


竜朗はラオウの様に眉間に深い皺を刻んで怒鳴った。


「さっきの、またおめえだろう!龍太郎!」


「すみません!亀一と龍の発信器の場所がここで消えたんで、まさかと思って来たんですが…!」


2人共、洞窟を塞ぐ石を見て、真っ青になる。


3人で取り除き始め、なんとか人1人入れる隙間が出来ると、竜朗が我先にと潜り込んだ。


ところがー。


そこには誰も居なかった。

ただ、焦げた様な跡があるだけ…。


「なんだこりゃ…。どういうこった…。」


「まさか…。」


2人の父は更に青くなって、顔を見合わせている。


「おい。なんでえ。」


龍太郎が早口で説明しだし、和臣は焦った様子で電話をかけ始めた。


「今、物質瞬間移動の実験も行っているんですが、その条件が激しい揺れと磁場の狂いなんです。ただ、この焦げ跡が…。」


「なんだ。」


「今の所、実験は成功していません。目標地点に移動出来ていても、真っ黒焦げになってるんです…。」


「なんだとお!?磁場の狂いだけだったら、あいつら無事だったもんを、お前がまた実験失敗して、地下でドッカーンとやったから、揺れが起きたんじゃねえか!」


「その通りです…。」


「龍が死んだら生かしちゃおかねえからな!」


「はい…。分かってます…。」


すると、竜朗が握り締めていた受信機から、ピッという音がした。


3人で覗き込んで、3人共目を見張ってしまった。


「おい…。こりゃあ、一体…。」





龍介は、瑠璃を守る様に抱え込んだまま気絶していた。

酷く暑くて、目を開けるとそこは、見た事も無い真っ白い砂の海岸だった。

海は青く、南国な雰囲気だ。

生えている木からしても、南国だろうと思われた。


ーなんだ、ここは…。洞窟にいたはずなのに…。


龍介は、瑠璃の肩に手をかけ、そっと揺すった。


「唐沢、大丈夫か。」


「んん…。頭痛い…。」


顔色も悪い。

額に手を当てると、熱があるようだった。


周りを見回すと、亀一達も無事な様子で起き上がっていたが、朱雀は叫びっぱなしだ。


「何ここ!ここどこ!?なんで!?どうして!?」


龍介が冷静且つ無表情に言う。


「寅、朱雀おとしとけ。」


「はいよ。」


朱雀はおとされ、呆然として、言葉も無い悟。


「きいっちゃん、ここ南国の孤島って感じだよな?何故こうなってる?」


「ー恐らく、瞬間移動、もしくは、空間移動しちまったんじゃねえかな。発生条件としては、揺れと磁場の狂いって話は聞いた事あるから。」


「うーん。参ったな。唐沢、熱がある。幸い、唐沢の買い物した分と、俺たちのリュックもそのまま来てる様だから、5日位は持つだろうが…。この暑さでこの熱はどう下げるかな…。」


「ええ!?唐沢さん、熱が!?」


駆け寄る悟に、静かにしろと言わんばかりにギロリと睨む龍介。


「てめえが巻き込んだんだからな。」


瑠璃が目を開けた。


「加納くん…。」


「大丈夫。発信器が生きてりゃ見つけて貰えるし、いざとなったら、お前担いで泳いでやるよ。休めそうな場所探して来る。」


そう言って、瑠璃に笑いかけ、リュックの中からパーカーを出して、瑠璃の頭の下に敷き、ビニールシートで日除けを作って、瑠璃に日陰を作り、ペットボトルの水を置いた。」


「吐いてもいいから、沢山飲む。いい?」


「はい…。ごめんなさい…。」


「辛い時に謝んなくていい。兎に角あなたは休む事。」


瑠璃の頭を優しく撫で、冷静な司令官へと変貌する。


「佐々木は寅と俺と一緒に来て、水場と居住スペースの確保。

きいっちゃんは食料から何日持つかの計算&唐沢の看病と朱雀が起きたら、朱雀のお守り。」


「了解。」


悟以外キビキビと動きだしたので、悟も慌てて動きだした。



歩き出して直ぐ寅彦が言った。


「まさか南国キャンプを立て続けに2回もやる事になるとはな…。」


「そうだな…。まあ、こうなると、やってて良かったって感じだが。」


「うーん。外国かね…。」


「分かんねえな…。」


鬱蒼とした森の様な所に入って、少し歩くと、かなり傷んだコンクリートで出来た家の様な物が建っていた。

窓は全部板で外から塞がれていたが、屋根はあるし、ガス台では無く、かまどだが、台所の様な物もあるにはある。


「佐々木。裏見に行こう。寅、家ん中、生活出来るか、ちょっと探ってみて。」


「了解。」


悟は、龍介と一緒に裏手に回りながら、さっきからずっと気になっていた龍介の腰の物に勇気を出してふれてみた。


「あの…。長岡と加来も装着している、その腰のホルターと銃は…。」


「本物だ。触るなよ?」


「ひええええー!?なんで!?どうして!?」


「うるせえな、お前も落とすぞ。」


朱雀は既に落とされている。


悟は更にビビりながら聞いた。


「なんで落としちゃったの…。しかも慣れてる風だし…。」


「こういう突発的な状況下で、ぎゃあぎゃあ喚かれたら、余計事態の収拾が難しくなる。

今の所人影は無いが、悪い奴らが居るとも限らない。

俺たち仲間内では、あまりに騒いで面倒が起きそうな時は落とすのがセオリーだ。」


「じゃあ、この間の遭難の時は…。」


「山田と鈴木は女だし、動かなきゃなんなかったから、落とさなかっただけ。

あいつらの重量、俺たちより勝ってそうだしな。」


「そ、そうなんだ…。それでその銃は…。」


「ー正直、ここまで切迫した状況になるとは思わなかったが…。」


龍介は突然話を切り、ホルターの銃を素早く抜き、悟の足元の何かを撃った。


「な!何!?」


もう泣きそうな悟。

足元を見ると、毒蛇らしき死体がある。


「あ…ありがとお…。」


「やっぱ居るな。気を付けろよ?ウロチョロしないほうがいい。」


「は、はい…。」


「で、なんだっけ?」


「銃持って来てる話…。」


「ああ、だから、俺たち3人は、例え近所の洞穴探検だろうと、ありとあらゆる事を想定して、装備整えて行く。」


「なんでそんな知識が…。」


「さあな。お育ちがちょっとね。お、井戸があるぜ。」


錆びついていて、なかなか動かなかったが、顔に似合わぬ龍介の怪力で動き出すと、濁った水が出てきた。

暫く出していると、徐々に水は澄んで来て、見た目には、かなり綺麗に見える様になった。

龍介はリュックから瓶に入った薬を出し、透明な容器に入れた水の中に、その薬を一滴落とした。


「それは何?」


「毒物簡易検査薬。有害毒物や菌があると、水は赤くなる。まあ、全部じゃねえけど、取り敢えず飲んで死なないかどうか位は分かる。」


「へえ。」


龍介が容器を振ったが、水は変色しなかった。


「大丈夫そうだ。でも、生で飲むのはやめておこう。」


「はい。」


井戸から少し離れた所に、建物があった。

やはり窓は全て板で塞がれていたが、ドアはかろうじてついている。

ドアを開けてみると、トイレとシャワーがあった。


「へえ、トイレ完備か。ラッキーだったなって、うおおおお!?」


「どした!?」


龍介がらしくない変な声をあげたので、後ろから覗いたが、それを見た悟も変な声を上げてしまった。


「ぬおおおお!?凄いな、これは!」


そのトイレは水洗だった。

天然の。

つまり、和式便器の下を川が流れて、魚が泳いでいるのが見えるのである。


龍介が感心しながら言った。


「考えたなあ、ここ作った人…。」


「そうだねえ…。落ち着くまで時間かかりそうだけど…。」


「お前、チビだから落ちんなよ?」


「そこまで小さくないわあ!」


そしてもう一つの小屋を開けると、物置だった。

発電器や工具などが整然と置かれている。


「片付けてから出て行ったのかな?変わってんな…。」


「そうだよね。なんかそのままにして出て行きそうなもんだけど。」


「戻ってくるつもりだったのかもな…。板で窓塞いだのも、建物内の劣化を防ぐ為だったんだろう。でも、放置されて20年は下らない感じだが。」


「うん…。日本かな?和式トイレだし。」


「うーん、今の所、そんな気もするけどな。取り敢えず助かった。工具はあるし、全部の板外そう。」


早速手分けして、板を剥ぎ、その他の建物に出来た隙間を粘土質の泥で塞ぎ、母屋に戻ると、寅彦が大体の調査を済ませていた。


「一応日本みてえだな。カレンダーが奥の部屋に残ってた。1980年だってさ。」


「おお、20年以上だったな。」


「台所に水道は来てねえな。」


「すぐ外に井戸があった。一応問題無し。」


「そっか。そりゃ良かった。畳は上げてあったけど、ボロボロだ。まあ、掃除すりゃどうにか過ごせるだろ。」


「よし。じゃあ、朱雀もそろそろ正気に戻ったろうし、呼んで来て掃除させよう。寅はここでパソで情報収集してみて。」


「了解。」




その頃亀一は食料の計算も終わり、朱雀のお守りをしながら、瑠璃の看病をしていた。


「どうだ?唐沢。」


「なんだか少し楽よ。お熱も下がってきたみたい。」


「無理すんな。この暑さだから…。」


やはり素早く銃を抜き、何かを撃つ亀一。

サイレンサーが付いていて、プシュみたいな音しかしないのだが、朱雀は飛び上がる。


「なんなの、きいっちゃん!」


「サソリだよ。一々うるせえぞ。また落とされてえのか。」


「うっ…。」


瑠璃がクスクスと笑った。


「女の唐沢の方が全然落ち着いてんじゃねえかよ。何考えてんだ、てめえは。」


「だってえ…。唐沢さん、どうしてそんな落ち着いてるの?」


「だって慌てたって、泣いたって、事態は好転しないわ。むしろ悪化させてしまう。ジタバタしたって、こうなっちゃったものは、仕方ないじゃない。」


「偉いなあ…。達観してるなあ…。」


「そうかしら。でも、加納君や長岡君、加来君が頼もしいから、安心していられるのよ。柏木君と2人だったら、私も…。」


朱雀は期待満々で瑠璃を見た。


「パニックになってた!?」


暫く考えた瑠璃は、朱雀のあの乱れ様を思い出して言った。


「首の一つや二つ、締めてたかもねえ…。」


亀一が大受けした所で、龍介が戻って来た。


「なんとか使えそうな家見付けた。トイレとシャワーも完備。ただしシャワーは、川の水組み上げてるだけの真水だ。しかもトイレと直結。誰かしょんべんしてる最中にシャワー浴びたら、そいつのしょんべんもかぶる事になる。」


3人共驚きながら笑った。

亀一が笑いながら言う。


「それは、規制が必要だな。」


「だな。井戸もあって、一応使えそう。どうも日本らしい。掃除が必要だから、朱雀手伝いに来い。」


「はーい。」


「私も…。」


起きようとする瑠璃の肩に手を当て、抑える龍介。


「駄目。寝てなさい。整ったらまた迎えに来るから。きいっちゃんの方はどう?」


「唐沢の食材が凄くてさあ。6日は食いつなげるぜ。しかも高級品ばっか。」


「日持ちしねえもんは…。」


と、亀一のそばから漂ういい匂いに笑う。

亀一は火を起こし、既に肉や魚を燻製にしたり、野菜と煮込んでポトフの様な物を作っていた。


「流石。」


「どういたしまして。ポトフは唐沢に教ったから、味は保証できるぜ。米まであんの。しかも魚沼産コシヒカリ。」


「うわ、すげ。本当にいいのか?」


「いいの。みんなで食べちゃお。」


瑠璃がいたずらっ子の様に笑った。


「凄え気を遣うお客さんだったのかな。申し訳ないな…。」


「ううん。そういうんじゃないの。母の大学時代のお友達が外国に行ってて、一時帰国して、うちに寄るからって事なだけ。」


「お袋さん、心配してるよな…。お前、俺たちと一緒って知られてねえから…。」


「んー、でも、もしかしたら分かって貰えるかもしれないわ。スーパーの袋と一緒に持ってた筈の私のバックが無いの。向こうに落ちてたら、携帯とか入ってるから、一緒かもって思ってくださるかも。」


「そっか…。じゃあ、ちょっと待っててね。」


「はい。」


龍介が行ってしまうと、亀一が意味深に笑った。


「唐沢は龍が好きなのかあ?」


「う…。」


真っ赤になって、龍介のパーカーに顔を埋め、にたあっと、可愛い顔台無しの笑みを浮かべている。


「す…好きなんだな…。」


「うん…。だって、あんなに優しいし、紳士だし、いっつもかっこいいし…。」


ー寝癖は稽古の後のシャワーで消えとるしな…。起き抜けの龍なんて見られたもんじゃねえけどな…。


「はああ。加納君の匂いがするー。いい匂いー。」


「は…ははは…。」


ーもう病的に好きなんだな…。若干変態臭がする様な…。


「でも加納君はどうなのかしら…。平等に優しい人だから…。」


「龍は唐沢気に入ってるぜ。意外とガキだから、好きとか恋愛感情を持つには至ってねえ様だがな。」


「そうなの!?」


期待に満ち溢れた目で亀一を見つめる。

その汚れを知らないキラキラの、吸い込まれるような目を見て、龍介が瑠璃を気に入っている理由に合点が行った。


瑠璃のその目は、しずかそっくりなのだ。


ーやっぱマザコンじゃねえかよ、龍。


「ん。絶対大丈夫。アイツがガキじゃなくなったら、くっ付けてやる。」


「ほんと!?でもどうしてそんな親切にしてくれるの?」


「俺が再婚するに当たり、龍にも『つがい』が居ねえとやりずれえだろ。」


「ーは…?」


「いや、こっちの話。はい水分摂る。」


「はい。」


「しかし、熱の原因はなんだろうな。風邪気味だったとか?」


「いいえ。」


「熱出しやすいとか?」


「そんなでも無いと思うけど…。確かに風邪ひくと高熱にはなっちゃうかな?」


「ーうーん…。気絶する直前、物凄く身体が熱くなったよな…。瞬間移動は相当な熱を発生すんのかもしれない。唐沢だけ、その熱がこもっちまったのかもしれねえな。」


「なるほどお。長岡君て、本当に何でもよく知ってるのね。」


「いいや、まだまだだな。」


瑠璃はクスッと笑って亀一を褒めた。


「偉いなあ。凄いわ。」


ーあんま話した事なかったけど、朱雀の扱いといい、この落ち着きっぷりといい、中身もしずかちゃんに似てんのかもな…。だから龍は気に入ってんだな…。ほんとマザコンだな、アイツ…。大丈夫かよ…。夜んなって、いきなり、母さーん!とか言って泣いたりしねえだろうな…。




掃除もし終え、龍介が迎えに来た。


「寅の方、なんか調べついたか?」


「それが全然。電波が無えって、屋根の上にアンテナ立てたんだけど、悪戦苦闘中です。暫くかかるな。」


「そっか。」


「じゃあ、きいっちゃんはその御馳走持って。唐沢、負ぶされ。」


「えっ!?」


「嫌?きいっちゃんがいい?」


「いや、違います!」


「じゃどうぞ。」


遠慮がちに龍介におんぶして貰うが、その顔はさっきと同じ、よだれを垂らさんばかりのニタニタ顔…。


ー唐沢…。その顔、間違っても龍に見せんなよ…。全て終わるぞ…。




拠点の家に到着し、瑠璃を降ろすと、今度はお姫様抱っこをした。


ーはあああ!もう死んでもいいかもしれない!


「唐沢、死なないようにしてやるから、んな事言うな。」


思わず口に出していた様で、龍介に心配そうな顔で見られてしまった。


ー鈍い…。鈍すぎる…。


悟も含め、全員で龍介の鈍感ぶりに頭を抱えた。


朱雀が作ってくれたベットの様な所に、龍介の寝袋を敷いて瑠璃を寝かせると、食事になった。

各自の弁当を6人分に分け、亀一が作ってくれたポトフを一緒に食べる。


「なんか豪勢だなあ。」


龍介が言うと、亀一と寅彦が沈痛な面持ちで頷いた。


「俺達のキャンプの時は、精々食えてレトルトカレーだからな…。」


亀一が言うと、寅彦も更に言った。


「カレー食えりゃいいけど、大抵はカロリーメイト齧りながら行軍だからな…。」


連れて行かれているサバイバルキャンプでの食事はあまりに酷く、内容も過酷らしい。


ー一体何を目的としたキャンプなんだろうか…。


悟が不思議そうな顔をしている。


食事が終わると、暑い内にシャワーを浴びようという話になり、瑠璃も入りたがった。

龍介が幼い子を嗜める様に言う。


「唐沢はやめとけよ。真水で冷えたら、また熱が上がっちまうだろ?」


「でも、みんないい匂いになって、私1人臭いの嫌…。微熱程度の時はシャワー浴びると、下がったりするし…。」


「でも、いい匂いにはなんねえだろ。石鹸とか無えもん。」


「あるよ!長岡君、あったでしょ?スーパーの袋の中に。」


「あ、あああ、あったな…。」


ガサゴソ探して出てきたのは…


スイートなベリーの香りボディソープにシャンプーアンドリンス…。

男の子が使うにはあまりに素敵で可愛らし過ぎる香りだ…。


悟は瑠璃が可哀想になって、考えている内にある事を思い出した。


「ねえ、加納。お風呂場の中にドラム缶みたいなのあったじゃない。裏側にかまどみたいなのがあったんだ。あれ、木とか入れて、燃やして、お風呂沸かすんじゃないのかな。」


「ああ…。そうかもな…。じゃあ、佐々木やって。俺真水浴びる。」


「俺も真水でいいや。」


「じゃ、きいっちゃん一緒に入っちゃおう。」


「俺も。」


と言った寅彦を朱雀が止める。


「なんだよ、朱雀。」


「3人で入っちゃってどうすんのよお!なんか出たらあ!」


「んもー、どっちみち俺はまだ電波探させてる作業中だから、今だけなんだよ。手が空いてんの。」


龍介が笑った。


「大丈夫だよ。5分で出てくる。佐々木の事手伝ってやって。」


「う、うん…。」



龍介達はそうは言ったものの、震え上がって、歯をガチガチ鳴らしていた。


「つ…つべてえな…。」


と龍介。


「ちょっとなめてたな…。」


と亀一。


「だな…。」


と寅彦。


3人が出てきてしばらくして風呂が沸いた。


悟達に先に入ってと言う瑠璃に1番風呂を譲り、2人に遠慮しながらも、いそいそと風呂に行った瑠璃。

ところが暫くして、


「ぎいやあああああー!」


という物凄い悲鳴が聞こえた。


行こうとする悟を、亀一と朱雀が押さえ込み、龍介を顎でしゃくる。


「龍!行って来い!」


「ええ?俺?」


「そうだよ!紳士な加納君が行くべきだよ!」


なんだか分からないが、行って、風呂場の外から声をかける。


「唐沢?大丈夫か?」


「だ、だ、大丈夫…。ごめんなさい…。物凄く大きなヤモリさんが、浴槽の下から出てきたもんだから、ちょっとびっくりしちゃって…。」


「そんなデカイの?」


「デッカいわ…。30センチくらいありそう…。」


「ーおい、それ本当にヤモリか…。」


「多分…。姿形はヤモリさん…。ただ、凄い勢いでじっと見てるの…。」


「随分スケベなヤモリだな…。」


「うう…。」


「早く出といで。」


「うん…。そうする…。」





その頃竜朗は、瑠璃の携帯も見つけ、悟以外の全員の親と、龍太郎達の職場の研究所に集まっていた。


「一体、これどこなんです?」


瑠璃の父が聞くと、龍太郎は、大きなモニターに日本地図を出し、スクロールさせて、説明を始めた。


「種子島の更に先のここです。あまりに小さい島なので、島の用途的な理由もあって、地図には載ってません。

ここは、戦後から暫くの間、敵国監視の為、自衛隊員を潜伏させていました。衛星が発達し、必要なくなってからは撤退し、そのまま放置していました。

電波的には、ギリギリ種子島のが届くかもしれませんが…。

加来、寅はどの程度のシステムで行ってるんだろう。」


「あの子の事だから、アンテナは持って行ってると思う。システムと駆使すれば、拾えるかもしれないけど…。なんとも言えないな。」


瑠璃の父が、そう言った寅彦の父、加来に言った。


「種子島の友人に言って、衛星を動かして貰いましょうか。寅彦君なら、衛星が近付けば、拾えるのでは?」


瑠璃の父は、表向きJAXAに勤めている事になっているが、実際はちょっと違う仕事内容で、龍太郎達とは仕事仲間だ。


「それは出来ますが、どうなんですか、顧問。そこまでして貰うの、まずくないですか。」


加来が確認すると、竜朗も困った顔で唸った。


「うーん、ちょっとなあ…。超私用だからなあ…。ああ、なんでこんな時に台風なんか…。」


そうなのである。

居場所が分かり、直ぐにでも助けに行こうとしたら、今年最大級と言われる台風が龍介達がいる島のそばで発生してしまったのだ。


「お父さん。もうアレ出します。」


「ーなんだアレって…。ええ!?アレを!?おめえ、それはいくらなんでもやべえだろうが!佐々木の倅がいんだぜ!?」


「なんとかします!」


こんな真面目な顔は、親の竜朗でも見た事が無いという顔で、龍太郎は押し通してしまった。








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