第4話
今日は日曜なのに、雨なので、また龍介の部屋に集まって、例のウォーゲームをやっている。
亀一達に言う分には問題無いだろうと、例の謎の熊の事を話すと、3人共、面白そうに聞いていた。
「まさに未知との遭遇だな。でも、一体なんだろうな。あそこら辺は、熊が生息してないのに。しかも人が殆ど入らない樹海に住んでるなんて。」
亀一が言うと、朱雀が青い顔で、首を横に振った。
「詮索しない方がいいよ。危なそうだから。」
「詮索しようにも、樹海の立ち入り禁止区域じゃ、どうにもなんねえだろ。」
ゲームをしながら、パソコンを開いていた寅彦が、突然、龍介の身体中を見回し始めた。
そして、どこで入手したんだか、探知機の様な物を身体に当てては、首を捻っている。
「なんの反応も無えなあ…。」
「何、寅…。」
「いや、あの時、先生、迷わず龍が居るポイントに行ったんだろ?1人でいいって、誰も付けないでさ。
あの時、心配だから、何か手掛かりは無えかと、パソで探ってたら、樹海の中で、発信器の信号見つけたんだ。
そしたら、龍はそこで見つかったって言うし、龍に発信器が付いてんじゃねえかと思って、今見てたんだけど、やっぱ、同じ信号が龍から出てるんだよ。」
「ええ?俺に発信器?」
「うん。携帯今持ってる?」
「いや。机の上。」
寅彦は、可愛い顔に不釣り合いな鋭い目つきで、龍介を更に見回した。
そして時計に目をつけた。
小学生には、少々贅沢とも思えるそのGショックを、龍介はいつも身に付けている。
「その時計は?」
「これ?爺ちゃんから誕生日に貰った。」
朱雀が龍介のGショックを見つめた。
「あれ?去年のと違うんだね。」
「そう。全然壊れてねえのに、毎年くれるんだ。古い方は回収して。」
「怪しいな。見して。」
寅彦は、時計を受け取ると、慎重に裏側の蓋を外した。
その途端、パソコンから発信器の発信が消えてしまった。
「ん!?なんだこれ!」
蓋を閉めたが、何の反応も無い。
すると、ダダダダっと階段を駆け上がる音がし、竜朗が顔を覗かせた。
寅彦が精密ドライバーとGショックを手にしているのを見て、ニヤリと笑ったが、目が怖い。
「龍の時計だけは、おもちゃにしちゃいけねえなあ、寅…。」
「す、すみません…。」
「貸しな。」
「はい…。」
竜朗が行ってしまうと、寅彦は、やっと息が出来たというように、大息を吐いた。
「ああー、びっくりした。」
「龍のおじいちゃん、物凄い過保護なんだね。龍に発信器だなんて。」
亀一が、しずか特製揚げたてフライドポテトを摘みながら、難しい顔で言った。
「それは、長い付き合いで、大体分かる。先生の可愛がり様は凄えからな。
でも、解せねえのは、さっきの発信器だ。
探知機にも反応しない。時計の蓋開けたら、発信が消えるなんて、最新式で、聞いた事無えし、そもそも、市販品で売ってるような代物じゃない。」
「うーん…。じゃあ、うちの父さんか、きいっちゃんの親父さんに分けて貰ったとか?」
「自衛隊ねえ…。そんな米軍だって作って無え様なもん、持ってんのかなあ。」
「分かんねえなあ…。」
話が詰まると、朱雀が聞いた。
「それじゃあさあ、1年に一度必ず総取り替えにしてるのは、どうしてなの?」
寅彦が答える。
「恐らく発信器は電池をえらい食うんだ。
だからって、突然切れた時に、勝手に電池交換なんかされたら、さっきみたくなるし、下手したら、発信器がばれちまう。
きいっちゃんが言ったみてえに、自衛隊にそんな最新鋭の物があるとすりゃ、凄え機密だ。
だから、勝手な事されねえ内に、新しいのだって言って、変えちまうんだろう。」
「ふーん。龍は国家機密を持ち歩いてたんだね。」
龍介が目を点にして固まってしまった。
その顔を見て、亀一が笑い出す。
「まあ、愛故にって事だろ。」
「そ、そうだな…。そうしとくか…。」
「ところで龍はどんな魔法を使ったんだ。修学旅行から帰って来てから、山田と鈴木、大人しいじゃねえか。」
「いや、何も…。ちょっと家庭内の話を聞いて、大人とか児童相談所に相談したらと言っただけ。帰ってきてから、少し話したら、先生に話して、児童相談所に付いてって貰って、相談して、2人とも爺さん婆さんの家に住める事になったらしく、家が嫌じゃなくなって、楽しくやれるようになったんだってさ。」
朱雀がニヤニヤといやらしく笑った。
「またファンが増えちゃったんじゃないのお?」
「要らねえよ。んなもん。」
今度は寅彦が苦笑しながら言う。
「でも、佐々木とは相変わらずだな。仲良くはならなかったのか。」
「やっぱ、どうもソリが合わねえんだよな。はい、きいっちゃん、
俺と朱雀軍の勝ちー。」
「ああ!チキショ!もう一回!」
「これ、3時間かかるんだぜ?1日1回って決めたじゃん。今日は、これから爺ちゃんと待望のワンコを貰いに行くから、帰って下さい。」
「いいなあー!犬種はなんなの?」
朱雀が我が事の様に楽しそうに聞いた。
「ゴールデンレトリバー。」
「ああ、あのおっきくて、フサフサな。男の子?女の子?」
「一応番犬目的なので、男。」
「名前決めたの?」
「おう。ポチ!」
「ポ、ポチ!?」
朱雀は驚き過ぎてそれ以上言葉にならず、亀一と寅彦は腹を抱えて笑いだした。
「なんでゴールデンにポチなんだよ!変なのー!」
寅彦に言われ、頬を膨らませつつ、威張って答える。
「加納家の犬はポチって決まってんだあ!」
「なんだそれえ!!」
3人に異口同音に言われて、ゲラゲラと笑われてしまったが、龍介にピッタリくっ付いて離れなかったその子犬は、ポチと命名された。
「ポチ。」
と呼んで、いそいそと龍介の所に来る度に、亀一達は大笑い。
しかし、もう定着してしまったのだから、変えようが無い。
「ポチは、ポチって名前嫌なの?」
ーハッハッ。
「ポチ。」
龍介を見つめて、ニカっと笑った感じ。
「いいよな、もう。」
龍介に抱っこされ、満足気なポチに、今日もデレデレの龍介だった。
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