第31話 新たな友情
ーーーーと、思ってはみたものの。
現実には、そううまくはいかないものなのでした。
ずぇんずぇん桜庭としゃべれなーーーい!
と、遠い……。
ガックシ。
机の上に突っ伏した。
最近、朝の玄関でも顔を合わせない。
もう、今日も1日終わろうとしているのに、挨拶すら交わしていない。
休み時間になったら、健太に用があるという口実で、桜庭に会いに行っちゃえ!とか考えてたんだけど。
健太は健太でこっちに来ちゃったり、桜庭もふいっと教室出て行っちゃったりするし。
おまけに、桜庭の隣になった子が、ここぞとばかりに2、3人の女子グループでキャピキャピ桜庭に話しかけてて、全く入る隙なしってカンジなんだよぉー。
あああ……。
「おいおい。ひかる元気ねーぞ。大丈夫かぁ?」
卓があたしの顔を覗き込んできた。
「……元気」
と、口に出したものの。
やっぱり元気など出やしない……。
ガックシ。
「ダメだわ、こりゃ」
「重症だわね」
頭の上で、卓と有理絵の声が聞こえてる。
はぁーーー……。
これが恋というものなのだろうか。
これまであたしが恋してたと思ってたものでも、こんな気持ちにはならなかったもん。
しゃべったり、ふざけ合ったりできなくなった途端、急にブルーになってしまうものなのだろうか。
しゃべりたくてもしゃべれない。
そばに行きたいけどなんだか行けない。
これが噂の『切ない片想い』というヤツなのかも。
そんなこんなで、またあっという間に放課後。
帰り支度でざわめく教室。
いつの間にか、桜庭の姿も消えていた。
「ひーかーる」
気がつくと、有理絵とさとみがカバンを持って目の前に立っていた。
「ね、ね。パフェでも食べに行かない?ひかるの大好きなフルーツパフェ!美味しいよぉー」
ニコニコ。
「……パス。悪い、先帰るよ。んじゃ、お先にぃ……」
トボトボ。
カバンをかついで歩き出すあたし。
「ちょっと、ひかるー」
背中から聞こえる2人の声。
すまんね、有理絵、さとみ。
なんでかわからないんだけど、席替えをしてからというもの、どうも調子が狂ってんだよね。
元気しか取り柄のないこのあたしが、全くパワーが出ないのだ。
桜庭が隣だった頃は、パワー全開ってカンジで、楽しくて嬉しくて……。
誰かのことをホントに好きになって、でもその人と一緒にいられないと、人ってこんなにもパワーダウンするのかぁ。
と、すると。
今では桜庭は、あたしのエネルギー源なのか?
うーむ。
そんなことをうだうだ考えながら、トボトボ階段を下りていると。
踊り場のところで、後ろから声がした。
「なに暗い顔してんの?らしくないじゃん」
ぶっきらぼうなその声の方を振り向くと。
そこには、ひとり薄笑いを浮かべた性悪アイドル、ミカが腕組みをしながら階段の手すりにもたれかかって立っていたんだ。
げ。
「なんだよ。なんか用?悪いけど、今アンタと話してる気分じゃないんだよ。じゃあな」
あたしがくるっと向き直って階段を下りようとしたその時。
「ちょっと待ちなよ」
ミカが階段を下りて近づいてきた。
そして、しらっとした口調でこう言ったんだ。
「今週の日曜、バンドの練習スタジオでやるらしいよ」
「ーーーえ?」
思いがけない言葉に、あたしはキョトンとしてたんだけど。
ーーーバンド?練習?スタジオ??
でゅっでゅっでゅっ!
ハートのボルテージが一気に上がっていった。
「桜庭達のっ⁉︎」
あたしは、思わずミカに大接近しちゃったんだけど。
はっ。
「たんま!もうその手には乗らないぜ」
ミカにストップの合図で手を突き出した。
だけど。
「マジで。ウソじゃないよ。もう騙したりなんかしないよ」
けって顔してそっぽ向いてる。
「……ホントにあんの?」
あたしが聞くと。
「大通り3丁目の通り。〝サンセットビル〟ってとこ。1階が楽器屋になってて、その地下がスタジオ。時間は午前中から夕方まで。確か11時から」
淡々と説明しながら、ポケットから紙切れのメモを取り出しあたしに渡す。
「じゃあね」
そのままくるっと背を向けると、何事もなかったようにミカは階段を上がり出した。
「ちょっとたんま!ストップ」
呼び止めると。
「安心しなよ。あたしは行かないから。場所も時間もホントだよ。心配だったら桜庭に確認してみなよ」
そう言って、ふっと笑った。
お、笑うとやっぱカワイイじゃん。
いやいや、そんなことは置いといて。
「ホントのこと言ってんのはわかった。でも、なんであたしに教えてくれたんだよ」
あたしのこと嫌いなハズなのに。
あたしが聞くと、ミカがポリッと頭をかいて目をそらしながら言った。
「……差し入れ持って行くんでしょ?……この前は、アンタのダメにしちゃったから」
え?
「アンタさ、つき合ってないってみんなが知ってから、全然一緒にいないらしいじゃん。席替えで席も離れたんだってね」
「げ。なんでそんな情報まで」
「キャピキャピ騒いでるうるさい女子グループ達なんかに桜庭が取られてんじゃないよ。あたしは、アンタだから身を引いたんだから」
「え……?」
「お似合いだよ、アンタと桜庭」
ミカが、かすかにほほ笑みながらあたしの方を向いた。
「最初はさ、アンタが上っ面だけのイヤな女だと思って本気で嫌いだったんだけど。アンタは、真っ直ぐで正直で。あたしが思ってたよりイヤなヤツじゃなかったよ。っていうか、割といいヤツだったよ。だから、桜庭もアンタと一緒にいて楽しそうに笑ってたんだと思う」
そう言うと、ミカはそっと踊り場の窓の外に目を移した。
「あたし、桜庭のことが好きだったーーー」
ミカーーー。
「ずっと桜庭のこと見てた。中学の頃からずっと。片想いってやつ?」
ミカがふっと笑う。
同じ中学だったんだ、桜庭と。
「でも……。桜庭が特定の女子と一緒にいて、あんな風に笑ってるのなんて、今まで一度も見たことなかった。だから、悔しかったんだと思う。あたし、アンタに嫉妬してたんだよ」
そう言いながら、穏やかな表情であたしの目を真っ直ぐに見た。
「お門違いもいいとこだよな。ただ遠くから見てるだけで、なにもしなかったのは自分なのに。……ひどいことして、ゴメン。あたしもさ、アンタみたいに真っ直ぐにいくよ。いつかまた、本気で誰かを好きになったらさ。だから桜庭は、アンタに譲るよ」
なんだよ。
けっこう……いや、なかなかいいヤツじゃん。
「だから、うじうじしてないでどーんと体当たりしていきな!」
ミカが、ちょっとイタズラっぽくあたしに言った。
それ、この前のあたしのセリフだろ。
2人でちょっと笑った。
あたしは、この場を離れようとするミカに笑顔で言った。
「ミカ!サンキュー!」
ちょっと驚いたように振り返るミカ。
そして穏やかな笑みを見せて。
あたしは、なんだかすごく嬉しかった。
清々しい気分で、ホントに元気が出てきた。
あ、そうだ。
この今の嬉しい出来事を、有理絵達に教えてあげなきゃ。
あたしは軽い足取りで、まだ教室にいる有理絵達への元へと走っていった。
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