第4話 これって、マズイ?
「ーーーひかる、どっか寄ってこーぜ」
ショートホームルームが終わり、みんながバラバラ帰り出した頃、卓が近づいてきた。
「あれ。卓部活じゃないの?」
健太も卓もバスケ部なんだ。
「今日は休み。だから、久々みんなでどっか行こうぜ」
「いいね!行こ行こ!」
こんな風にみんなで集まるのなんて、中学生以来だぜ。
やっほーい。
というわけで。
放課後の帰り道、みんなして駅前のマックにレッツゴーしたんだ。
「ーーーしっかし、ビックリしたよなぁ。だって、いきなりひかるが転校してくんだもん」
隣のクラスのジン(これまた中学仲間)が、コーラをずずーっと飲みながらしみじみ言った。
「あたしもビックリだよ。まさかここに転校してくることになるなんて。ホント思ってもみなかったよ。人生なにが起こるかわかんないな」
「まーたうるさくなるぜ」
健太がやれやれって顔してる。
「なんだよ健太。人のこと言えんのかよ。自分だって授業中うるさくてよく注意されてるくせに」
健太は昔から悪ガキ坊主だからな。
勉強だってあたしと一緒の赤点組で。
だけど健太のヤツ、バスケの腕だけはピカイチだったんだよ。
小学校からずっとバスケやってきて、中学の頃から『T中の男バスと言ったら〝
で、この東高校もバスケが強いことで有名で。
なんと健太は、推薦でこの学校に入ったんだ。
そういう風に、一生懸命なにかに熱中してがんばっている人って、あたしは好きだよ。
健太の夢は、NBAの選手になって、世界で活躍するプロのバスケプレイヤーになることなんだって。
健太、目をキラキラさせながら、あたしにその話をよくしてくれたよな。
ふふふ。
そして、卓も同じく小学校からバスケ部でうまいんだけど、健太とはまたちょっと違うんだよね。
卓には別の夢があるんだよ。
卓はさ、将来数学の先生になりたいんだって。
すごいよな、尊敬だぜ。
あたし、数学は全科目の科目の中でも特に秀でて苦手なのに、卓ってば数学大得意なんだよ。
まぁ、勉強全般ができるヤツだな、卓は。
「おまえなんてな、とりあえず近くに仲いいヤツでもいたらうるさいのなんのって。今はまだ隣が桜庭だからいいようなもんの」
「なにさっ」
健太とふざけてこづき合いながら、ふと思って聞いてみたんだ。
「ーーーなぁ、健太。桜庭ってどんなヤツ?」
「あれ。なになにー?ひかる桜庭のこと気になるのぉ?」
有理絵が嬉しそうに身を乗り出してきた。
「違うよ、そんなんじゃなくて。なんていうか、〝謎〟なんだよ。隣の席なのにさ、いまいち掴めないヤツなんだよね、桜庭って」
あたしがそう言うと。
「アイツ、いいヤツだぞ。なぁ、卓」
「ああ。おもしれーしな」
健太と卓がすぐに答えた。
え?おもしろい?どこが?どのへんが?
「あたしには全くそうは見えないが。口数も少ないし、なにを考えてるのか全然わからないし」
「おまえがうるせーから、桜庭もイヤなんだよ」
ビシッ。
健太にチョップ。
「いてっ」
しかしーーー。
あの桜庭が、おもしろくていいヤツだとは。
ふーん。
女子とはあんまり話さないタイプなのかな。
それとも、ホントにあたしがイヤなのか?
1週間経つけど、ほとんどしゃべってないし。
今日は珍しく桜庭の方からちょっと話しかけてきたけど。
笑った顔も、初めて見たけど。
まぁ、話しかけてきたって言っても、ラブレターのこと聞かれただけだけどな。
「それよりよ。おまえ、もう後輩に友達できたの?さっき帰る時、2年の女子達に挨拶されてたじゃん」
ギク。
そうなんだよ。
実は先程、誰だか知らない女の子達にいきなり『さようならぁ』と挨拶されたんだよ。
それが、あの手紙をよこした子達なのかどうかはわからないが、とりあえずあまり関わらないように、気づかぬフリして足早に玄関に向かったんだけど。
なんだよ、健太のヤツ気づいてたのかよー。
「なんか、やたらとおまえのこと見てたけど」
「ーーーいや。気のせいだろ。なんか、あたしを誰かと人違いしたんじゃないの?」
あははと笑いながら言うと。
健太がややじと目気味で、あたしの顔を覗き込んできた。
「な、なんだよ」
「ーーーおまえ、まさかまた……」
ギクン。
ささっ。
条件反射的に、思わず横に置いてあったカバンを後ろに隠すあたし。
「なに隠してんだよ」
「べ、別にっ」
「ひかる、健太に見抜かれてるよ」
有理絵がそう言いながらクスクス笑うもんだから。
「ちょっと貸せっ」
ガバッ。
健太があたしのカバンをひったくったんだ。
「あ、おい!勝手に開けるなっ。レディーのカバンを!」
「なにがレディーだ、どけっ」
あたしが健太にしがみついても、健太ってばおかまいなしに、マスコットやキーホルダーがいっぱいついたあたしのカバンを開け、
あーーーっ。
その中には、あの3通のラブレターがっ……。
ガサガサ。
ラブレターを発見した健太が、呆れ顔であたしを見た。
「やーっぱり女からのラブレターだ。またこんなにもらって……
「だって、しょうがないじゃん。朝来たら下駄箱に入ってたんだもん」
「おお、すげーな。これ、全部女からか?」
差し出し人の名前を見ながら卓が言った。
「ひょえー。おまえ中学の時も女からラブレターもらってなかった?」
ジンも驚きながら手紙をマジマジと見ている。
「ラブレターならまだカワイイもんよ。前の学校でなんか、直接告白されてんだから。しかも2回も」
「有理絵っ」
「直接、告白っ⁉︎しかも2回!!」
3人が目を丸くした。
「ーーーで、おまえはなんて返事したんだよ。実はおまえもそっちの気があるのか?もしかしてOKしたのか?」
バコッ。
「いてっ」
思いっ切り健太の頭を殴ってやったよ。
「いてーな!なにすんだよ、アホッ」
「健太がアホなこと言うからだろっ」
んべっ。
「しっかしなぁ。なんでこうも女にモテるんだ?ひかるは」
卓が手紙を手に取りながら感心している。
「あ!!」
突然ジンが叫び声を上げた。
「小林ゆきちゃんって!この子、めっちゃカワイイ2年の子じゃね?なに、この子もレズなわけっ?」
ジンが驚愕の色を浮かべて後ろにのけぞった。
「ちょっと待て!そんなみんなレズみたいに言うなっ。こ、この手紙達は別にそういうんじゃっ……。もちろんあたしだってレズではないぞ!」
ガタンッ。
ジンの発言に、あたしは思わず立ち上がってしまった。
「誰もひかるをレズだとは言ってねーよ。ただ、おまえにその気がなくても、こっちは気があるわけだから。女が女を好きになるってのは、まぁそういうことだろう。いやぁー。女子校ではレズがいるって話はよく聞くけど、共学のウチの学校にもレズなヤツらがいたとはなぁー」
ううう。
頼むから、レズレズ言わないでくれーっ。
「でもさ、それとはちょっと違うんじゃない?」
と,有理絵。
「この子達の場合さ。一般的に言う『好き』っていう気持ちよりも『憧れ』っていう気持ちの方が大きいんじゃない?現にみんな年下の子達でしょ?きっと、ひかるのそのキレイな女の子らしい容姿に反して中身は男の子っぽいっていうところがさ。カワイくてキレイなのにカッコイイ!!ステキ!ってなカンジで。妙な憧れと魅力を感じちゃうんだよ」
さ、さすが有理絵!
「そうなのだよ。そういうことなのだよ!有理絵。よく言ってくれた!」
あたしは、有理絵の言葉に大きくうなずいたのだが。
「まぁ、それならそれでいいんだけどさ。なんか、そうじゃないっぽい雰囲気漂ってるぞ。特にこれなんか」
そう言って、卓が1枚の手紙をピラッと持ち上げた。
〝好きです〟ーーーーーーー。
真っ白な便せんに、たったひと言書いてあるこの手紙。
「すげー重みを感じるのはオレだけか?」
苦笑いの卓。
確かに、重い。
たったひと言のせいか、ヤケに響くというか、なんというか。
「おーい。それって、小林ゆきちゃんのじゃねーかよぉ。ゆきちゃぁーん。頼むから目を覚ましてくれー。ゆきちゃんがそっち方面なら、オレ見込みないじゃーん」
ジンがガックリうなだれている。
「確かにね。あとの2通は文面からして、ひかるへの憧れを感じ取れるんだけど。この小林ゆきちゃんの手紙は、ちょっと危険な香りが漂っているわねー」
げげげ。
「マズイな、これは」
覗き込んでいた健太も口を開いた。
げげげ。
「……マズイ?」
ちろっと卓の顔を見る。
「マズイだろー。これは。おまえはこの気持ちに応えてやることはできないしな。というか。なんかそれだけじゃ済まなそうな秘めた重みを感じるな」
「こ、怖いこと言うなよ、卓っ」
なんか、くらくらしてきた。
あたしは一体どうしたらいいんだよぉ。
うなだれていると、健太が納得いかないで様子で言った。
「大体よ、なんで女のおまえが女にモテモテなわけ?ここに、こんないい男がいるっていうのによー。ひかるもそう思うだろ?」
「んなこと言われたって。あたしだって好きでこうなってるわけじゃないもんっ」
でも、確かに健太も卓も背も高くてキリッとしたいい顔で、カッコイイ部類に入る男だよ。
自分で『こんないい男』なんて言ってるのは余計だが。
でもまぁ、そんな健太や卓みたく、他にも個性豊かないい男達がこの学校にだってきっといっぱいいるだろうに。
本来、女の子の憧れの先輩といえば、そのようなイケてるメンズであって、女のあたしなんかではないだろう!
だけどーーー。
憧れとかそういうのではなく、本気で心の底から女の子が好きな女の子……いわゆる同性が好き、同性にときめく……っていう人達も、あたしがあまり知らないだけで、世の中にはたくさんいるのかなぁ。
いや、いるんだろうな。
心、気持ちの在り方は、それぞれ自由だ。
しかし!!
申し訳ないが、あたしはいたってノーマルな恋愛感情の持ち主であって。
そっちの変化球の方の恋愛感情は、全くもって抱いたことも、これから抱くこともないのだよ。
「もぉぉ、あたしはどうしたらいいんだよぉ」
「ひかる。もう一度確認しておくが、おまえにその気は……」
「ないっつってんだろっ。アホ健太っ」
「万が一ってこともあるから、最終確認しといただけだろ。おまえにその気がないのもわかったし、本気で困ってるのもよくわかった」
健太が、小さくうなずきながらあたしの方を向いた。
「こうなったら。これ以上おまえが本気モードで好かれないようにするために、なにか策を練らなきゃなんねーって話なわけだな?」
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