第3話 クールガイ

え?



「なに、これ」


あーーー!


さ、桜庭さくらば


「み、見るなっ」


あたしは、慌てて桜庭が見てる手紙を取り返そうと手を伸ばしたんだけど。


スカッ。


空ぶって。


「わっ」


どすんっ。


前につんのめって、そのままイスから転げ落ちてしまった。


い、痛い……。


「おい、大丈夫かよ」


「大丈夫だよっ。それより返してよっ。それ!」


いててて。


あたしは、お尻をさすりながら立ち上がった。


ちきしょー。


ピッ。


アイツの手から手紙を奪い取った。


「勝手に人のもん見るなよなっ」


ああ、危なかった。


あたしが女からラブレターもらってるなんて他のヤツらに知られでもしたら、なにを言われるかわかったもんじゃない。


おもしろおかしくはやし立てられて、陰でヒソヒソ噂立てられ、みんなから好奇の視線を浴びせられるのがオチ。


そんなの御免だぜ。


ガサガサ。


あたしは、急いで机の上の手紙をカバンにしまい込んだ。


すると。


「立花って、文通でもしてんの?」


ギク。


「そ、そうだよっ」


「さっきの全部?」


「そ、そうだよっ。悪い?」


「……ふーん」


意味ありげなカンジで、頬杖ついたままあたしを見る桜庭。


「な、なんだよ」


「いや、別に」


そう言うと、桜庭はおもむろに机の中から教科書を出し始めた。


ふぅー。


よかった、つっこまれなくて。


しかし、ラブレターを出しっぱなしにしてたあたしもうかつだったな。


ないとは思うけど、万が一。


『立花はレズってる!』なーんて変な噂でもたてられでもしたらたまったもんじゃないからな。


それにしてもーーー。


この、あたしの隣の席の桜庭ってヤツ。


なんか妙に謎めいてるんだよな。


どこで何をしてるか知らないが、昼休みはいつもいない。


ふらっと戻ってきたと思ったら、頬杖ついたままぼんやり教科書見ていたり、机に突っ伏して寝ていたり。


たぶん頭はいいと思う。


なんかそういう気配が漂ってくる。


だけど、ガリ勉っぽい雰囲気は全くなく。


なんていうか、パッと見ちょっとガラ悪そうな?クールそうな?オーラをかもし出してて。


とにかく、なにを考えているのかいまいち掴めないヤツなんだよ。


友達になるのはワリと得意なあたしなんだけど。


桜庭は、なーんか苦手なんだよなー。


まぁ、まだ1週間しか経ってないから、ホントのとこはよくわかんないんだけど。


あたしにしては珍しく、この桜庭とはいまだ打ち解けていないままなのだ。


新しい学校、新しいクラスメート。


隣の席でいちばん近くにいるから、いちばん最初に仲良くなりやすそうなもんだけど。



ちなみに、この学校に来てあたしが仲良くなった男子はというと、アイツら。


ほら、あたしの席の列の前の方で騒いで笑ってる連中。


まぁ、仲良くなったというか、また昔の仲間とつるみ始めたってカンジだな。


既に気心知れた仲間だから居心地いいんだ。


特に健太けんたすぐるなんかは、小学校からずっと一緒でかなり仲良かった2人。


中学の時は、いつもつるんで遊んでたんだ。


もちろん有理絵達もいたんだけど、健太と卓とは3人でもよく遊んでたなー。


だから、運良く再び一緒のクラスになれてホント嬉しかったよ。


健太や卓は、もう性別を超えた仲ってカンジ。


バカやってふざけ合ってばっかだけど、それがなんだかんだと楽しくて。



それはさておき。


次は現文かぁ、かったるいなぁ。


うなだれてるうちにチャイムが鳴って先生が教室に入ってきた。


あれ?いつもの先生じゃないぞ?


なんで?


「えー。今日は、栗山先生が用事のためお休みなので、自習でプリントをやってもらいます」


やった、ラッキー。


みんなが大騒ぎして喜んでいると。


「残念でした。これはこの時間が終わるまでに提出してもらいます。教科書を見ればできる問題なので、がんばってやって下さい」


「えー」


「ウソー。めんどくさーい」


「げー」


一変して、みんなからブーイング。


ちぇっ。


せっかく寝れると思ったのに。


みんなしぶしぶ教科書を開いて、配られたプリントをやり始めた。


あーあ。


しょうがない、やるか。


あたしも仕方なく教科書を取り出そうと机の中に手を入れた。


あれ。


ゴソゴソ。


ないぞ。


ウソ。


机の中を覗き込みながら、もう一度ゴソゴソ。


ない!


あ、しまった。


昨日、現文の宿題あったから教科書持ち帰って、それで終わってから机でオレンジジュース飲んでたらうっかりこぼして教科書ビショビショにしちゃって。


それでもって出窓で乾かしてて、そのまま置き忘れてきてしまった!


ガーーーン。


どうしよう。


カリカリ、カリカリーーー。


ちょっと私語を交えながらも、みんなちゃんとプリントをやっている。


わーん、教科書がないよぉー。


「あら、どうしたの?」


みんなの様子を見ながら、ゆっくりと女の先生が回ってきて、プリントをやっていないあたしに気がついて足を止めた。


「えっと……。教科書忘れちゃって」


笑いながら頭をポリポリ。


「あら。じゃ、隣の人に見せてもらって」


げっ。


桜庭に?


パチ。


目が合ってしまった。


「あ、えっと。見せてくれる?」


「いいよ」


「サ、サンキュー」


ガタン、ガタン。


机を寄せて、あたしは桜庭の横に座る。


だけど……。


ああ、妙に硬いこの雰囲気。


イヤだなぁ。


隣が健太や卓だったらよかったのになー。


カチカチカチ。


シャープの芯を出して『さぁ、やるか』って時に、桜庭が口を開いた。



「立花って、女にモテるんだな」



ポキッ。


出したてのシャープの芯が、速攻折れた。


「な、なんだよそれっ」


コイツ、いきなりなにを!


なんでもないフリして、あたしはプリントをやろうとしたんだけど。


「ラブレターなんだろ、あれ」


ズコーッ。


あたしは机の上に豪快に突っ伏してズッコケた。


しまった、こんな時にまで、また吉本新喜劇をやってしまった。


体勢を整え、おそるおそる桜庭の方を見てみると。


「図星だろ」


ヤツがニヤッと笑ってそう言った。


なにか言い返そうと口を開いたけど、返す言葉が見つかず。


ゴン。


あたしはプリントの上に顔をうずめた。


「ああ、そうだよ。どーせあたしは、女の子からラブレターもらう変わり者だよ。笑いたきゃ笑えよ」


へんだ。


なんだかヤケクソになっていると。


「別に笑わねーよ」


桜庭の言葉に、あたしは顔を上げた。


「いいじゃん。同性にモテるのって。なんかすげーじゃん」


桜庭があたしを見てかすかにニコッと笑った。


へぇー。


笑うの初めて見た。


笑うと目が優しくなるんだ。


いや、そんなことよりも。


「全然よくないし、全然すごくない。またこんなことになってこっちはホント困ってるんだから」


「また?」


「え?あ、いや。なんでもないっ。っていうか、なんでわかったんだよ。これがラブレターだって」


手紙が入っているカバンに視線を送りながらあたしが聞くと。


「わかるよ。オレ、勘いいからさ」


ニヤッとする桜庭。


ゾク。


な、なんかやっぱコイツ怖いかも。


「で、立花にもその気、あるわけ?」


「あるわけないでしょーが!」


「あ、そ」


「当たり前だ!」



まったく、ジョーダンじゃないぜ。








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