気になる先輩

神奈木太陽

入学式

今日は入学式だというのに、新入生の浜田和明(はまだ かずあき)はまだ家の近くに居た。

完全に遅刻の状態で、いっそのこと休んでしまおうか、とも思ったが、初日から欠席なんてイメージが悪いと思い、結局走っているのだ。


全力疾走のおかげでなんとか入学式には間に合う時間に学校へた辿り着け、一安心する。


「えっと…入学式やってるのは…あれ?」


だが、安心したのも束の間。

今度は入学式の場所がわからなくなり、校内を闇雲にうろうろしていると、とうとう迷子になってしまった。


「どうしよ…」


慣れない場所で迷子になったせいか、不安が涙になって溢れ出てくる。

中学生になって泣くなんて、と必死に我慢しようとしたが、どうしようもない焦りや戸惑いに負け、その場にうずくまってしまった。


「君、大丈夫?」


もうこのまま帰ってしまおうか、と頭を過った時、頭上から優しい声がして、和明はそっと顔をあげる。

霞んだ視界の先にはこちらを見て、困ったようなーーそれでも優しい表情の男子生徒が立っていた。


「あ、の…えっと…」


何をどう言っていいのかわからずに、それでも何か言わなければ、と口を開く。


「どうしたの? 君、新入生だよね?」


「ぁ、えっと…はい。でも…僕…遅刻しそうになって…急いで来たんですけど、今度は…場所がわからなくなって…どうしよう、って…」


テンパってしまい、言葉足らずな説明になってしまったが、おそらく上級生であろう彼は和明の視線に合わせるようにしゃがんで話を最後まで聞いてくれた。


「そっか。迷子になっちゃったんだね。入学式はもう終わっちゃったけど、教室で入学後の説明をやっているから、一緒に行こう」


「はい…すみません」


迷子になった姿を見られた上に、教室にまで連れて行ってもらって、和明は恥ずかしいのと申し訳ないので、教室までの間一言も声を発せられなかった。



「ここが君の教室ね。ほら、入ろう」


まだ名前も知らない彼に連れられるまま、和明も教室の中へと入っていく。

中では既に話が始まっていて、みんなの視線が一気にこちらへ集中する。

それが恥ずかしくて、今すぐここを立ち去りたい衝動に駆られた。


「なんだ、浜田、遅刻か?」


「あの…すみまーー」


「違うんですよ。僕が裏庭で具合悪くしちゃって…そしたら、彼が助けてくれたんです。さっきまでずっと。ね? 和明くん」

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