ささ

野原 杏

第1話 思慕

 恋などしない運命さだめだと信じていた。

 誰にも頼らず、心さえも閉ざして、たった独りで生きていかなければならないのだと悟ったあの日から。

 十八歳のあの日まで、少女の心は雪の降り積もる白い野原のようだった。しんと静かに冷たく、天から降ってくる白いものをただ受けとめて生きていた。

 それがいつしか、雪は溶け、雲は晴れ、野原には草が生え花が咲いた。日が照り雨が降り風が吹き嵐が訪れ、そして――――。

 もしあの先に待つ、涙と幸福と絶望を知っていたら、あの人を拒んだだろうか。

 いや、そうではないと少女は思い直す。

 たとえ百回生まれ直しても、私はあの人を求めただろう。


 私はあの人を愛しただろう。

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