第四十六話 馴染み大根

 誰にでも馴染みの顔、というやつはいるだろう。

 それが幼馴染だったり、しょっちゅう顔を合わせる客だったり、友人、取引先だったりするだろう。

 そして、それと出会ったとき、抱く感想は色々ある。


「お前かぁ…」


 俺にとっての馴染みの顔、その一人に対する感想が、これだ。

 思わず出たそれに対して、こいつはいつも通りの反応を返してくる。


「そういうなって! 俺とお前の仲だろう?」


 そう言って、こいつ、小林尊こばやしたけるは、いつものように笑った。相変わらず暑苦しい笑顔だ。


「いつからそんな仲になったんだ?」

「相変わらず釣れないやつだ! 3年ぶりだぞ?!」


 そう言って俺の背中をバンバン叩く。まったく鬱陶しいやつだ。というか、痛い。身長190代というのを少し考えろ。ただでさえも馬鹿力なのが倍増しになっている。毎度のことといえばそれまでだが、相変わらずこいつはゴリラだ。


「…で? 用はなんだ?」

 

 腕を振りほどきながら鬱陶しさを隠さずに言えば、ああそうだったと尊は大声を上げる。


「いつもの話だ! ちょっと手を貸してほしい!」

「…またか」


 こいつはいつもそうだ。

 

 この小林尊という男を一言で表せば、『嵐』だ。つまり勝手にやってきて勝手に場を荒らし、勝手に去っていく災害そのもの。どこにでもいるタイプの厄介者だ。そして残念なことに、こういうタイプと縁を切ることは難しい。

 俺も、こいつと付き合ってすでに15年が経つ。すでに携帯の番号は削除済みだが、こいつは勝手にかけてくる。そして、追ってくるせいでいつまで経っても縁が切れない。今日も電話が来たと思ったら、今から行くからとのたまいやがった。

 俺はため息をつく。


「今日は仕事はどうした?」

「休みだ、休み! うちは不定休だからな」


 どうやら抜け出してきたとかではないらしい。それなら秘書の加藤さんに電話するだけでいいのだが、なかなかうまく行かない。

 

「で? 要件は?」


 ならやるべきはこいつの話を聞くしかない。来てしまった嵐は過ぎ去るのを待つしかないのだ。

 俺が言えば尊は満足そうにうむとうなずく。


「お前がひましてるって聞いてな! なんか大変らしいじゃないか!」

「どこから聞いてきたかは聞かないでおくが、なんとも言えないぞ? あいにく俺はやることがある」


 そう言って畑を腕で示せば、尊は感心したような声を上げる。


「相変わらずいい畑だな?」

「どうも。畑の世話が…」

「ここまでやって、しばらくやることないだろう?」


 相変わらず目ざとい。

 

「…まあな。だが、暇をしてるからって手伝いをするとは限らんぞ?」

「そう言いながら、お前は話を聞いてくれるんだ。ありがたいよ」

「そう思うなら、加減してくれ。…で、なんだ?」


 結局こうやって話を聞いてしまう俺も悪いんだろう。俺は観念して定位置の石に腰を下ろせば、それを見た尊は二カッと笑う。


「ダンジョンだ!」


 俺はしばらく尊の顔を見て、そして天を仰いだ。

 

 

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