畑にダンジョンができたんだが、これがなかなか便利です

コーヒーメイカー

大根との出会い

第一話 スマホ大根

 それを掘り出したオレは思わず言った。


「なんだこりゃ?」


 そうつぶやいたオレは悪くないと思う。

 畑からスマホが出てくれば、そうつぶやきたくもなるだろう。


 これが道端の畑なら落とし物かなで済むが、ここは高崎の山奥だ。間違っても人は来ないだろう。

 おまけに畑の結構深いところだ。わざと埋めなければこうはならない。

 しかもこのスマホ、あきらかに普通のスマホじゃない。


 オレは今握っている部分に目を向けた。

 このスマホは、上にあたる部分から大根の葉っぱが生えている。

 大根の身の部分がスマホになったような、謎の物体だ。

 あえて言うなら『スマホ大根』。


 なんだこれ?


 これを見つけたのは偶然だった。

 今日は六月の最初の土曜日。

 植え付けも終わって、雑草を抜きに来たのだ。

 

 オレの畑は、高崎の山奥にある。

 駅周辺こそ都会の皮をかぶっているが、30分も車で郊外に行けば、広がっているのはド田舎だ。

 そしてそのド田舎のさらに奥。山にずっと入ったところが、オレの畑だ。


 山の中のがたがたになったアスファルトの道を行き、イノシシ注意の看板を越えてようやく畑に到着する。

 本当なら売るなりアパートでも建てたいんだが、こんなところの土地なんて買い手がつくわけがない。

 前の持ち主は近くにあるゴルフ場とも仲良くするつもりはなかったらしく、山の中にぽかんと穴を開けるようにある土地だ。

 

 砂利を敷いてつくった即席の駐車場に車を止め、オレはいつものように軍手をはめながらさつまいも畑に出た。

 さて、今日も畝の掃除と行くか。

 そんなふうに気合を入れたオレの目に止まったのが、さつまいも畑に生えている大根の葉っぱだ。

 

 ふつう、大根の葉っぱは植えない限り生えては来ない。

 最初は間違えてなにかの種でも落としたのかと思ったが、そんなモノ触った覚えもない。オレの畑にあるのは、あくまでさつまいもだけだ。

 てっきりなにかの雑草だと思った。農家にとって目当ての作物以外は畑の養分をとってしまう邪魔者でしかない。

 雑草というのは抜くのはなかなかの力仕事なのだ。これは葉っぱの具合的に大物だろうと思って、顔をしかめながらいつものように、足に力を入れて引き抜いた。。

 てっきり根を張っていると思ったそれは、思いの外あっさり抜けてしまった。

 そして出てきたのがこのスマホ大根だ。明らかに自然物じゃない。


「なんだこれ?」


 オレの虚しいつぶやきが、森の中に消えていった。

 

 オレ、土屋つちやみのるは、一般的な会社員だ。

 要はどこにでもいる安月給のサラリーマンだ。埼玉の素材メーカーに勤めている。最近競合素材が出てきたせいで、給料が安くなってきたのが悩みだ。


 そんなオレが趣味でやっているのが、この土日の畑作業だ。

 畑、と言っても作っているのはさつまいもで、そんな胸を張って言えるようなものじゃない。

 これは実益のための趣味だ。

 さつまいもを作り、それを知り合いの焼き芋屋に卸している。要は小遣い稼ぎだ。


 何でも遠縁の、それこそ大叔母の従兄弟の息子の嫁の親戚とかいう、血縁かも怪しいところから転がり込んできた畑だ。

 そこから一番縁が近いと言うので、うちまで相続の話が回ってきたそうだ。

 

 普通に聞けば土地をもらって嬉しいとなるかもしれないが、実際に相続したばあちゃんは迷惑極まりなかったらしい。

 なにせ、ばあちゃんが住んでいるのは榛名の山奥だ。そこからここまで来るのが一苦労だ。そんなものをもらっても、持て余すだけだった。

 だがほとんど使いようもない土地だったが、畑だけはあった。それをオレが借りて、いまは『さつまいも』を作っている。


 さつまいもは良い。

 植え付けこそ大変だが、その後は週イチで面倒を見ればいいだけだ。

 こんな事を言うと農家の人に怒られるかもしれないが、住んでいるのは埼玉だ。一週間に一度しか来れないことを考えれば丁度いいのだ。

 知り合いの農家に色々教えてもらい、育ててそれを個人の焼き芋屋に下ろす。年一だが、それで小遣いゲットだ

 

 大した金額にはならないが、安い年収にプラスされるというだけでストレス発散になる。

 ただ、できればもう少し稼ぎたいなというのが最近の悩みだった。


 そんなところに『これ』だ。

 間違いなくさつまいもじゃないし、少なくともオレはスマホ大根なんて作っていない。


 オレはいま握っているものを、まじまじと見た。

 見た目は明らかにスマホだ。

 ホームボタンがない、最新式のタイプ。

 画面はつややかで、傷一つない。

 それだけならおかしくない。

 問題は、土にまみれて、上から大根の葉っぱが生えているところだ。

 ちなみにその葉っぱを握って引っこ抜いた結果、これが出てきた。


 なんだこれ?


 それがオレの素直な感想だった。

 スマホが落ちてるならわかるが、なんでスマホが植わってる?

 スマホが植わってますなんて言われて、納得できる人間がいるだろうか?


 どうしようこれ?


 珍しい野菜であれば、テレビにでも出せば良い出演料なんだが、スマホの場合はどうなんだ?

 正直、変なものが出た畑なんて、下手すれば買い取りに問題が出る。

 

 一番可能性として考えられるのが、畑の下に不法投棄でもされてる場合だ。

 なにせこんな山奥だ。不届き者の格好の穴場なのは間違いない。

 畑を作るときにあっちこっち掘り返して一通り変なことはされていないのは確認済みだが、それでも見落としがあったかもしれない。


 不法投棄の嫌なところは、その中身の重金属だ。

 あれは下手すると公害を巻き起こすやつだ。

 特にこういうところに捨てられるやつは、一体どこから掘り出してきたのかもわからないような古いやつが多い。中身の有害物質もたっぷりだ。

 それは回り回って、そこで育った野菜の中にも溜まっていく。

 

 できれば見なかったことにしたいが、作ったものが原因で変なことになりましたなんてことにもなりたくない。

 それくらいの最低限度の矜持くらいはある。

 

 さつまいもから重金属検出。


 そんな記事が出てしまったら一巻の終わりだ。

 オレがそんな嫌な想像をしていると、耳慣れた着信音が聞こえてきた。

 いつもの電話の着信音。

 毎日毎日、会社の同僚、取引先、友達その他諸々からかかってくる、あれ、、

 ただ、その発信源が妙だった。

 

 そもそもオレの電話は、畑にいるときは車に置きっぱなしだ。

 土いじりをしてるときに余計なものを持ちたくないから、置きっぱなしにしている。そもそも電波が入らない。

 だから余計な雑音なんて、ここでは聞こえないはずだ。

 

 オレは音源に目を向けた。

 その着信音は、たった今、オレが掘り出したスマホ大根から聞こえていた。


 思わず、オレはそれに出てしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る