第15話 その男B&B

B&Bの言葉に周りの町の住人達からどよめきが起きる。

「おっと失敬、言葉が悪かったね」

謝罪の言葉を口にすると

B&Bは住人に向って会釈をする。

その姿に住人たちは静かになった。

しかし、各々不安気な表情は取れない。

「ここでは話が難しい、場所を変えようか」

B&Bは森へ歩き出した。


「いいだろう、たまたま見つけたんだ。

 静かだし、広々としている」

イデルとシロがB&Bに連れられ来たのは

森の中にぽっかりとあいた草原。

町の外から出たことのない二人は

その風景を眺めていた。

所々に花々が咲き、

複数の朽ちた太い木が横たわっていたり、

同じ数の太い木の株もあった。

「座れるように加工しよう。彼らは器用にやってくれる」

B&Bが指を鳴らすと、先ほどの鉄の塊の何体かが動き出す。

6つの足の一つの形状が変わり回転する刃物となって

木の株を加工し始めた。

話をするには少し時間がかかりそうだ。


加工が終わったときにはシロは花の冠作りに夢中であった。

「自由だねー」

「すみません」

B&Bにイデルは謝罪をする。

彼はただ笑いながら眺めているだけだ。

その声を聴いていると

先ほど物騒なことを言い放ったことが嘘のようだ。

―この人は一体何を考えているんだろう?

イデルはB&Bの顔の部分を覗き込む。

太陽の光に照らされ箱が鈍く光る。

見たことない形状の箱である。


「俺の顔、気になる?」

イデルは少し驚いた。

一人称が変わったこともそうだが、

先ほどの丁寧なしゃべり口調とは違う。

どこか、自分の素を出しているかの様だった。

「ちょっと、初めてみるもので」

「俺は異世界生まれなんだよ。

 顔は異世界の映像を写す機械、

 『テレビ』って呼ばれたよ」

「異世界生まれ?」

「そう、異世界の物が長い間、

 形が変わらずにいると

 いろんなものが溜まる。

 そこにいた人の感情・思い。

 良いものも、悪いものも。

 いっぱい溜まると物に『意思』が宿る。

 それが俺みたいな奴ができる」

イデルはその話に聞き入っていた。

自分が知らないことを知っている。

それだけでワクワクしていた。


「ああ、すまない。しゃべりすぎた。

 本当は堅苦しいは口調、苦手なんだ。

 もっとフランクに生きたいねえ」

「大丈夫ですよ、楽しいお話でした」

「ありがとう」

―悪い人じゃない。

イデルはこう思ったと同時に

不可解に思っていることを聞きたくなった。

「なんで、殺し合いなんて言ったんです?」

そう『殺し合いをしてほしい』この言葉。

何の意図があるのだろう。

聞きたくなった。


その時、B&Bの頭に花の冠が飾られた。

シロが作ったものだ。

「こいつはいいな。

 たまには自然なものもいいものだ。

 …本当に、おもしろいね」

頭上の花を触りながら、B&Bは再び笑った。

画面に映し出された線は大きな弧を描く。

それは笑顔のように見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る