第12話 イデルの仕事

ボンゴと別れた後、二人は町の中の小さな家に入った。

そこには天井にまである大きな本棚が密集していた。

本はきれいに並べられていて、古い紙の香りがする。

その奥には少女が一人、本を読みながら椅子に腰かけていた。

少女は茶髪の髪を三つ編みのおさげにし、

三つ並んだ山吹色の目が本の文字を追っている。

イデルたちに気が付くと彼女は早口に話しかけてきた。


「早かったわねイデル!あっ、シロもいらっしゃい!

 頼んでたものできた!?」

「ちょっ、待ってレイナ!今出すから、慌てないで!」

レイナと呼ばれた少女はイデルの方をつかんで、

急かすように揺らした。


イデルの鞄からは一冊の本と文字の書かれた紙束を取り出す。

「きゃー!これよ、これ!楽しみにしてたんだから!

 異世界の本が久しぶりに入ったから早く読みたかったの!」

「それはよかった、レイナちょっとお願いが…」

「これは異世界の短編小説がいっぱい書かれているものらしくて、

 しかも、それが異世界のとある国の民話を集めた物語ばかりなの!

 集めたのはその国に住む兄弟で…」

本好きのレイナは語りだしたら止まらない。

レイナはこの町で貸本屋をやっている。

実質、自分で読むために本を仕入れていることが多い。


また、翻訳家との橋渡しもしている。

異世界の翻訳家がいるのが、この町にいるだけなのだ。

「あっ、ごめんごめん。しゃべりすぎちゃった。

 イデル、いつも異世界の語の翻訳ありがとう!」

レイナはイデルに感謝する。

そう、イデルの本業は異世界語専門の翻訳家だ。

ほとんど需要がないため、収入は微々たるものだが

何とか生活はできるようだ。


「で、なんだっけ?イデルなんか言ったような気がするんだけど」

レイナがイデルに問いかけた。

溜息を一つついたイデル。

シロは相変わらずの表情である。

「ちょっと、調べものしたいので本を見ていいかな?」

「うん、いいよー」

「ありがとう。シロさんはここで待っててくださいね」

イデルの言葉にシロはうなずいた。


「そうだ、シロ!この間の異世界の本なんだけど!

 人間の少女と獣人の王子様のお話でね!

 このお話は人間しかいない異世界ならではのお話で…」

再びレイナの止まらない語りが始まった。

レイナはシロに任せてイデルは部屋の奥へと進む。

シロはレイナの話を聞いている。

理解しているかは謎である。

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