赤い彼女と水色の彼

第1話 出会いはゴミの中

湿っぽい空気の中、

彼は急いで家に向っていた。

彼のひげには湿気のせいで

水滴が付く嫌な感覚がある。

服は着ているが、

それ以外の毛皮は濡れて体が重く感じる。


彼は獣人。

現世なら『ねこ』に近い見た目である。

姿もそうだが、

どうやら現世と同じく水も苦手のようだ。


この鬱陶しい感覚が嫌で嫌でたまらない。

早く家に帰るのだ。

近道をしようと町の裏路地に入る。

暗くてガラクタが溢れているが、

この際しょうがない。

早いほうがいい。

そう思って、その道を選んだ。

そして後悔した。


ガラクタだらけのごみの中に

『人の足』が生えていたからだ。

正確には、人がごみの中で埋もれている。

足だけ見れば自分のような獣人ではない。

『人間』に近いものだろうと思った。


「まいったな」

彼はつぶやく。

この周辺はあまり治安が良くない。

最悪と言ってもよいかもしれない。

弱い自分が一人生きていくのが

やっとなほどだ。

「この人、運悪いな」

自分には赤の他人を守るほどの力はない。

自分を守る力もない。

弱い存在だ。


「本当に運が悪い」

彼はもう一度つぶやいた。


…ゴミが崩れる音がする。

何かを引きずる音がする。

苦しそうなうめき声がする。


『人間の少女』を背中に抱えて彼は思った。


―僕に拾われたこの人は本当に運が悪い。

つくづく己のお人好しに

嫌気がさした彼だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る