なぜか幼馴染に振られたので、見返したい。
カクダケ@
第1話 隣の席の美少女。幼馴染の真意。
協調性がなく、教室の隅で浮いてるような俺──
彼女曰く、俺が初めて好きになった人らしい。純粋に嬉しかった。
同じ高校に行こう、と言ってくれたことで努力できた俺は彼女と受かることができた。
そんな子だからこそ分からなかった。
俺は先程まで彼女がいた。そう……振られたのだ。呆気なく……。
入学から二週間、6クラスあるうち偶然にも同じクラスになった彼女に、放課後屋上で話があると呼び出された。焼き尽くすような茜空をバックにした彼女は暗い額のふもと、その口を開かせてなんの躊躇いもなくただ一言「別れて」と発した。
訳が分からなかった。俺らの関係はそんなものではない。一緒に沢山遊んだ、沢山サプライズやプレゼントをした。彼氏彼女として2年間も続いた。つい先日だって笑顔で一緒に帰ろうと言ってくれたのに。
帰ろうとする彼女の背を見送ることができず、咄嗟に肩を掴んだ。
「その一言で終わりなのか? 俺たちは──」
「しつこいのは嫌い! もう諦めてよ……」
振り返り様に放った言葉の口調は、怒気を絡んでいて、俺は肩を竦める。
今まで怒ったことなんてなかった。人が変わったようだった。
それから毎日が上の空だった。友達もいなければ話し相手もいない。あんな顔をされてしまったらもう話しかけづらい。
その日は朝から席替えで、俺の席は俺に相応しい場所である教室の隅だった。そこから男女が混ざったリア充グループの中の一人、楽しそうに話している星宮幸を見ているばかりだった。
綺麗に切り揃えられたショートヘアー。それがよく似合っていてやっぱり可愛いなと思った。
正直俺は諦められる気がしなかった。何とかなるんじゃないかという、どこともなく湧いてくる自信に浸かっていた。本当は心の奥隅で分かっているのだ。でも認めたくなかった。
「あーゆー子が好きなの?」
放課後、帰り支度の途中、不意に隣からどこまでも透き通る声が聞こえてきた。
振り向いて驚いた。
陽光に勝るどこまでも黒いその長髪は、胸の位置で揺らされ、その間から宝石と同等、いやそれ以上の価値を有しているであろう、吸い込まれそうな茶色の大きな瞳。すっと通った鼻筋に小さな口元、そのそれぞれが形のできた小さな輪郭へ丁寧に収められているものだから驚いた。
俺が今まで見てきた中で迷うことなく断トツで一番だ。今日一日この子に気付かなかった自分を殴ってやりたい。
「うん」
「……そうなんだ」
どこか悲しそうに見える美少女の表情が、夕陽に照らされて、それはもうお金になる絵のようだった。
「振られたけどね」
「え?」
唖然としているようだった。
「……ごめん」
「いいって」
「……まだ……好きなの?」
「もちろん。布団くらい好きだ。そして好きじゃなくなる予定もないな」
「何それ。……そうなんだ。でもあの子は……」
少し苦笑を混ぜた後、どこか辛いというか悲しそうというかそんな顔をしている彼女の真意が全く分からない。
圧倒的にこちらの方が可愛いが、好きな人と可愛い人とでは全く別物だ。
「ごめんね、何でもない。じゃあバイバイ!」
慌てるように席を立ち、友達を連れて教室を出て行った。
可愛い子を見てモチベが上がったので推理をしてみよう。
彼女は俺を振った。つまり俺の事を嫌いになったか、単純に好きじゃなくなったか、その二択しかないだろう。前者だとしたら……分からない。だが俺は髪も整えていれば鼻毛も出ていない。中肉中背の凡人だが。
どこかで彼女にとっての嫌な所に触れたのだろうか……ここ最近で。心当たりがない。
後者だとしたらそれはもう飽きたということだ。しょうがないだろう、俺はイケメンでなければ優れたものもない。魅力がないのは重々承知だ。だからそもそもなぜ彼女が俺を好きになったのかが分からない。
だからせめてトーク術だけは頑張ろうと思った。
俺は幸が好きだ……2年経った今でも。彼女は魅力があるからだ。正直容姿が大事だが、彼女は内面でも良い事を俺は知っている。
俺のトーク術が落ちたってことか。薄々気づいていたが。
考えにふけっていて出した結論はこうだ。
──分からない。
結構前の、台所で料理をしていた妹の言葉が脳裏に浮かんだ。
『女ってのは本当に何考えてるか分かんない生き物だから、兄さんはせいぜい騙されないでね』
本当に分からない、幸の考えてることなんて。
その日の昼、学食にて相変わらずのボッチ飯をしていると見知らぬ男子生徒が向かい側に座ってきた。
「お前、
「……綾? 誰それ」
「おまっ、はっ!? 嘘だろ? お前の隣の席の奴だよ!
勢いよく席から立ち上がった彼は、他席からの視線を集めていた。
「入学したてだし、人見知りの俺が知るはずないって。殆ど顔と名前が一致してないんだ」
「はぁ……お前は目がないな。今は入学したてで、あまり他クラスに情報とか行かないけど、もう少ししたら綾は化けるぜ。もし狙ってるなら今のうちだ。なんせ彼女の存在を知ってる者は皆口を揃えて 綾が一番可愛いって言うんだ」
目がないわけではないが、確かに彼女は本当に可愛い。確かに化けるだろう。
「あぁ、えっと俺は別に好きな人がいるんで、狙ってないよ。そういう君はどうなの?」
「俺か? もうとっくに振られてるぜ。あっさりとな」
彼ほどの容姿でも彼女とは付き合えないのか。彼女のハードルは潜りやすそうだ。
「君、同じクラス?」
「おっと? 俺の顔を知らないのか? 中学の頃は校内で三大イケメンと言われたこの俺を?」
あ、自分で言うんだ。
「ごめん……」
「ああ、いいって。
絶対金持ちなやつだこれ。
「俺は
「……それ……本当か?」
途端に青ざめたような切なそうな、あの時の彼女──戸蒔綾の表情に似ていた。
何かがおかしい、みんな何かを隠している。
「じゃあ
「……えっと」
「俺に勝るイケメンだ。俺の調べによると、きっと校内1位であろう。俺たちは3組だが奴は1組なんだ。心当たりはないか?」
「初めて聞く」
「俺は気とか使わねぇから心して聞け。これは噂だが幸はな、多分あいつの事が好きだ」
は?
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