第75話神聖魔術を授けます


 神聖魔術には大きく分けて浄化と具現化、二つの系統がある。

 浄化による対魔性能は不死や霊体属性以外にも効果はあるようで、具現化も武具以外も生成可能と意外と能力の幅は大きい。


「んー、でも神聖魔術は術式を弄りにくいんだよな」


 魔術は複雑な術式の組み合わせで発現している。

 理解していない部分を弄ると効果そのものが発現しない恐れがある。

 特に神聖魔術のように制約が強いものはその傾向が顕著だ。


「神聖魔術に使われている魔術言語は天界のものなので、ロイド様には読みづらいでしょう」

「術式も単純すぎて逆に弄りにくいんじゃないんですかい?」

「あぁ、やるとしたら簡単な術式を追加するくらいだな」


 今まで試したのはほとんど具現化ばかりだ。

 剣や鎧、盾に斧、その他諸々作り出してみたが……正直どれも代わり映えしないし面白くない。


「今度は浄化を試してみたいところだが……」

「ふっ、いいではないか魔人よ。キミが浄化の的になってみては?」

「ばっかやろークソ天使、ロイド様の浄化なんか食らったら即死するわ!」


 グリモを実験台にするのも悪くはないが、魔人の使い魔というのもそれなりに貴重だ。

 浄化で消してしまうにはちょっと惜しい気がする。

 実験台もだが、俺一人だとアイデアにも限界があるし試し方にも偏りが出てしまう。

 やはり新しい魔術を発展させるにはある程度の人数が必要だ。


「……そうだ、こういう時の為にあいつらがいたっけか」


 そう呟いて俺は空間転移を発動させる。

 向かった先はロードスト領主邸。

 ここは以前の働きで与えられた俺の領地で、かつて暗殺者ギルドに所属していた者たちが働いている。


「おおっ、ロイド様じゃないっすか。お久しぶりです」

「元気しているか? ガリレア」


 禿頭の男、ガリレアがすぐに俺を見つけて頭を下げてきた。

 ガリレアは暗殺者ギルドをまとめていた人間で、今はここで俺の代わりに領主をやらせている。


「どうだ、仕事は慣れたか?」

「まぁなんとかって感じですな。色々と大変ではあるけど、やりがいはある仕事だぜ。人のために働くってのもいいもんだ」


 うんうんと頷くガリレア。

 やはり以前まとめ役をやっていただけの事はあるな。

 俺の人選に間違いはなかったようである。


「おっと、もちろん能力の開発もサボってはないぜ。……ほいっと」


 そう言ってガリレアは指先から粘着力のある糸を飛ばし、離れたテーブルからペンにくっつけ手元に引き寄せた。

 ガリレアの能力は蜘蛛糸のような粘着力のある魔力の塊を生み出すというもの。

 以前はもっと雑だったが、かなり細やかなコントロールが出来るようになっているようだ。


「……とまぁこんなもんよ。今は糸の出力や粘度の制御を練習中だ。そのうち術式化もしてぇところだが、まだまだだな」

「うん、その調子で励んでくれ。それと今日来た目的なんだが、とりあえず他の皆を呼んでもらえるかい」

「もちろんかまわねぇぜ。皆もロイド様に会いたいだろうしな。ちょっと待っててくれ」


 しばらく待っていると、ガリレアは三人の男女を連れてきた。

 タリア、バビロン、クロウ、皆暗殺者ギルドの人間で、似たような能力を持つ者たちだ。

 三人は膝を突き、俺の前に跪く。


「これはこれはロイド様。ご機嫌麗しゅう」

「やぁ久しぶり。突然だが皆に神聖魔術を覚えてもらおうと思ってね」

「神聖魔術? 聞いたことはありますが、我々に覚えられるものなのですか?」

「ちょっとツテがあってね。まぁやってみるさ――ジリエル」

「は!? こ、この者たちに我が奇跡を授けろと!?」


 俺の言葉にジリエルが慌てたように声を上げる。


「あぁ、もちろん出来るのだろう?」

「そりゃあ出来る出来ないで言えばできますが……」

「じゃあ頼む」

「ぬ、ぐぐぐ……こんなどこの馬の骨ともわからぬ連中に……男は論外だし、女はややトウが立っている……くっ、やはりどう考えても推せん。だが楽園のようなこの地上での生活の為にはロイド様の機嫌を損ねるわけにも……背に腹は代えられぬか……」

「頼むよ」

「……わかりました。この者たちに神聖魔術を授けましょう。彼らに手をかざしてください」


 歯噛みするジリエルだったがどうやら観念したようだ。

 言われた通り手をかざすとガリレアたちを淡い光が包み込む。


「おおっ! なんだこりゃあ!? 頭に奇妙な文字が浮かんでくるぜ!?」

「これが神聖魔術……ほうほう、中々素晴らしいもののようですねぇ」

「使い方、わかっタ!」

「へぇ、光が出たよ! すごいもんだねぇ」


 四人が思い思いに神聖魔術を使い始める。

 うん、どうやら使えるようになったようだな。

 能力者は幼き頃より魔力に触れてきた。魔術の素養はあるとおもっていたが、予想通りだ。


「あぁ、神聖魔術がこのような輩たちに……嘆かわしい……」

「ジリエル、彼らが神聖魔術を使おうとしたらすぐにパスを開いてやってくれよな。――皆も協力して様々な神聖魔術の使い方を見つけて欲しい。あ、一応言っておくがこのことは内密にな」


 城の人間にこの事を話されたら、俺の平穏な生活が崩れ去ってしまうかもしれない。

 同じ理由でレンにも言えない。

 シルファにバレてしまうかもしれないからな。

 あくまでも俺は魔術好き程度だと思っていて貰わないと困る。


「了解しましたぜ! ロイド様」


 これである程度神聖魔術を発展させられるか。

 彼らなら協力して色んな使い方を思いついてくれるだろう。

 俺はその上澄みを掬い取ればいい。うん、やっぱり仲間がいるってのはいいものだな。

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