第55話暗殺者たちを従えます
というわけで全員に術式を施した。
全員、身体に不調などは見られず、能力のコントロールも出来ているようだ。
とはいえオン、オフが出来るようになった程度。
完全にコントロールするにはかなり時間を要するだろう。
「へぇ、半信半疑だったけど、本当に能力が勝手に発動しなくなったよ!」
「素晴らしいですねぇ。ククク」
「感謝スル。まともに喋ったのは、久しぶりダ」
皆、俺に感謝の言葉を述べた。
別に感謝される筋合いもないんだが。俺は俺のためにやっただけだし。
「ほら、アンタも礼を言いな」
タリアが部屋の隅でうずくまっているレンに声をかける。
レンはぶすっと不機嫌そうな顔で呟く。
「……ボクの身体、勝手に触られた」
「何だいそのくらい、別にいいでしょ減るもんじゃあるまいし。おかげであたりかまわず毒を撒き散らさずに済んでよかったじゃないか!」
「でも、うぅ……ぁ、あり……が……」
何かぼそぼそと言っているがよく聞こえない。
それを見たグリモが呆れたようにため息を吐く。
「はぁやれやれ、ロイド様、これは乙女の恥じらいっつーヤツですぜ。全く女ってのはどこの世界でも面倒なもんでさ。……なんて、かくいう俺も魔界にいた頃は女の一人二人泣かせたもんですがねぇ。げへへ」
いやらしく笑うグリモ。気持ち悪いぞお前。
「……あの、ごめんなさいっ!」
なんてことを考えていると、レンが頭を下げてきた。
「戦争を企んでいると思ったけど、ボクの勘違いだったみたい。ロイドはすごい魔術師だ。魔剣も魔獣も必要なものだったんだね」
「わかってくれてよかったよ」
そういえば戦争がうんたらで城に忍び込んできたんだっけか。
まぁ俺としては飛んで火に入る……って感じで逆に良かったまであるし、むしろ礼を言いたいくらいである。
「……許してくれるの?」
「うん、気にするな」
俺が答えると、レンは顔を赤らめた。
「はぁ、あれだけの事をしたら普通は打ち首でもおかしくはねぇってのに全く気にしている様子がないとは何という器のデカさだ。この人なら……」
そんな俺を見て、そんなガリレアは何やらブツブツ言っている。
どうしたのだろうか……わからん。
「というか戦争潰しだっけ? レンは何故そんなことをしてたんだ?」
「それは――」
「それは俺が話そう」
言いかけたレンの代わりにガリレアが答える。
「俺たちは皆、戦争によって居場所を追われた者たちだ。家族を失ったり、生きる糧を失ったりと理由は様々だが、皆一様に戦争を憎んでいる。この暗殺者ギルドの主な目的は戦争を始めようとしてる人物を暗殺して始める前に潰す事なのさ」
なるほど、この国も十数年前まではポツポツと戦争が行われていた。
彼らはそんな戦争の被害者で、それをやめさせる為なら暗殺も辞さないというわけか。
あまり褒められたやり方ではないが、これも必要悪というものかもな。
考え込む俺を見て、ガリレアは思い切ったように言葉を続ける。
「なぁロイド様、頼みがある。……あんた、俺たちのボスになっちゃくれねぇかい?」
ガリレアの言葉に他の者たちが驚きの表情を見せる。
「ちょ、待てよガリレア!」
「正気!? 相手は子供よ!」
止めようとする者たちの声に、ガリレアは頷く。
「あぁ、もちろんだとも。確かにロイド様は子供だし、先刻まで俺たちと敵対していた。だがあんたは俺たち『ノロワレ』を差別したりしねぇし、ボスにふさわしい強さもある。加えて先刻の俺たちの勘違いも笑って許せる器のデカさ。清濁併せ呑む人物であるロイド様だからこそ頼みたい――ロイド様、俺たちのボスになってくれ!」
真剣な顔で頭を下げるガリレア。
「俺を暗殺者ギルドのボスに? ぞっとしない話だな」
「そう重く受け止めないでくれ。適当に言う事を聞く部下が五人、増えたと思ってくれればいいからよ。……さっきの話、聞いてたかも知れないが、俺たちは数ヶ月前に追われる身となったんだ。かつてボスだったジェイドに嵌められてな」
そういえば受付嬢がそんな話をしていたっけ。
最近暗殺者ギルドはボスが姿を消し、まとまりを失い元通りに好き勝手を始めた、とか。
だが嵌められた、というのは初耳だ。
「どういうことだ?」
「ジェイドが姿を消したとこまでは事実だが、俺たちは悪さなんかやっちゃいねぇ。その根拠はこれだ」
ガリレアが一枚のメダルを俺に見せてきた。
それには狼のマークが刻まれている。
「これは今まで俺たちが仕事を終えた後、現場に残してきたもの。自分たちの仕業だってな。ジェイドが作ったもので特殊な魔術が込められてるらしく複製は不可能。これが昨今行われた悪事の現場に置かれていたんだ。そんなものを置いていくってのは、俺たちの手口を知っている人物でしかありえねぇ」
「つまりジェイドの仕業だと?」
「恐らくは」
頷くガリレア。他の者たちもそれを肯定しているように見える。
「あんたがボスになってくれれば濡れ衣を晴らす機会も作れるかもしれねぇ。いきなり信じてくれとは言わない! 俺たちがやってないと判断出来たらでいい。その時は冒険者ギルドに言って、手配書を取り下げるよう言っててもらいたいんだ! ……このギルドが出来る前の俺たちは嫌われ、蔑まれ、ドブネズミみたいにコソコソ生きてきたが、今は人らしい平穏な暮らしが出来ている。仲間も出来た。その為なら魔術の実験だろうが何だろうが、俺に出来ることは何でもやる! だから頼む! この通りだ!」
ガリレアが頭を下げると、他の者たちもそれに続く。
「私からもお願いだよ」
「皆の言葉に従うよ。キミをボスと認めよう。クク」
「頼ム……」
次々と頭を下げる彼らを見て、俺は考える。
彼らの能力はまだ先がある。
先刻、制御出来るように術式を刻んだし、これからもっと伸びるだろう。
ボスになるのは面倒だが、日々鍛えるよう言っておいて、新たな能力を編み出すたびに見せてもらえば……うん、より効率よく彼らの能力を観察出来るかもしれないな。
術式との上手い組み合わせを編み出してれれば俺の魔術の研究にも役立つに違いない。
「……わかった。あんたたちのボスになろうじゃないか」
「本当か!? ありがてぇ!」
ガリレアの差し出してきた手を取り、握り返す。
「……」
ふと、レンが面白くなさそうな顔をしているのに気づく。
俺の視線にガリレアは、あぁと呟いた。
「レンのやつはジェイドにだいぶ懐いていたからな。ロイド様をボスとするのが面白くないんだろう。だがロイド様を認めてないわけじゃないぜ。感謝しているのは見ればわかる。素直じゃないんだあいつは。時間をかければあんたを受け入れるはずだ」
「ふーん、そうか」
時間がかかるなら後回しだな。
まぁ他の奴らの能力を調べてからでも全然遅くはない。
それまで自主的に能力開発をして貰うとしよう。
「……ん?」
そんなことを考えていると俺の頭上で術式が発生するのを感じた。
見上げると真っ黒い魔力の塊が浮かんでおり、そこから一枚の紙が落ちてきた。
それを手に取り、書かれていた文字を読む。
「暗殺者ギルドの皆へ、ジェイドより」
読み上げる俺の言葉に、皆は驚愕の表情を浮かべた。
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