第54話暗殺者たちとバトルします。後編

「おっと、とりあえず止血しないとな」


 あまり血を流しすぎると死んでしまう。

 治癒魔術で手首の傷を癒すと、タリアの傷も塞がった。

 へぇ、そっちまでリンクしてるのか。


「なっ! あ、あんな速度で回復を……!?」


 タリアは俺の治癒魔術に驚いているようだ。

 あの攻撃、暗殺には向いてそうだけど魔術師相手には効果が薄いだろうなぁ。


「クソがぁっ!」


 ガリレアが糸を飛ばしてくるが、魔力障壁を出して防ぐ。

 魔力障壁は自動、かつ無限に展開できるのでどれだけ剥がしても無駄だ。

 というか出せる糸は有限なのかな。最初の頃より量が少なくなっている気がする。


「クク……ッ! 何という魔力障壁の数! 全く当たる気がしませんね……!」


 バビロンが魔力障壁の隙間から身体をよくわからない方向へ捻って攻撃してくるが、基本的にはただナイフで斬りつけてくるだけなので距離を離すなり魔力障壁で突き放せばどうという事はない。

 正直ネタが割れると戦闘では使いにくいだろうな。


「『吹き飛べ』!」


 クロウの言葉と共に突風が吹き荒れるが、俺の髪を揺らすのみだ。

 あくまでも奴の呪言は俺の周囲にしか効果がない為、『浮遊』で強力に位置を固定しておけば俺自身には何の影響もない。

 格下向け、あるいは相手の動きを封じるのには使えそうだが……戦闘以外には使えないのかな。

 例えば食材に『美味くなれ』とか。流石に無理かなぁ。


 そしてレンは周りを巻き込むからか、攻撃に参加できずにいるようだ。

 身体から毒を発生させる能力、微妙に使い勝手が悪そうだな。

 とまぁ一通り見せてもらったところで、そろそろこっちからも行くとするか。

 こちらが防御してばかりでは向こうさんの能力の全容もわからないしな。

 出来るだけ加減して……と。


「『風気弾』」


 風系統魔術『風球』と『気』の合わせ技、巻き起こる風に気を乗せて放つ。

 まだ気の使い方が未熟な俺には飛ばして当てる事は出来ないが、風球に乗せて放てばそれが可能となる。

 利点としては相手を傷つけることなくそれなりのダメージを与える、という平和的な攻撃が出来るのだ。


「ぐわーーーっ!」「きゃーーーっ!」


 放った風気弾はガリレアらに命中し、吹き飛ばし壁に叩きつけた。

 普通の魔術だと確実に殺さないように加減するのはかなり神経を使うからな。

 まずは小手調べって事で……ん?

 壁に叩きつけられた彼らがいつ起き上がって来るかと身構えていたのだが、いつまで経っても起き上がってこない。


「……あれ? どうしたんだ?」

「完全に気ィ失ってやすね」


 呆れたように言うグリモ。

 嘘だろ、大分加減したはずなのに。

 それとも魔術が使えない一般人ってこんなもんなのだろうか。


「……仕方ない」


 俺は彼らに治癒の魔術を施す。


「何やってるんですかい? ロイド様」

「まだ彼らの技を全部見てない。それまでは戦ってもらわないと」


 さっきは強すぎたのでもっと弱い攻撃を使おう。

 武術の達人は相手を傷つけぬように制圧するらしい。

 やはり俺は戦闘は苦手だな。

 魔術も『気』も封印するとして……そうだ、これを使ってみるか。

 腰に差していた吸魔の剣を抜き放つ。

 本来の『吸魔』では既存の魔術しか吸収出来ないが、この剣は魔力を扱った現象全てに反応し、吸収するのだ。

 しかも複数、長期間の保存が可能なのである。

 彼らの技を全部吸収して後で調べさせて貰うとしよう。

 そうこうしていると、治癒魔術が効いたのか起き上がってきた。


「う……い、一体何をされたんだ……」

「おはよう。それじゃあ続きをやろうか」


 俺はそう言って、爽やかに笑う。

 ガリレアたちは何故か顔を青ざめた。


「……同情するぜ、人間ども」


 グリモがぼそりと呟いた。

 それからしばらく、俺は彼らとバトルを繰り広げた。

 相手に攻撃を撃たせ、適度に反撃をし、動けなくなったら治癒をしてやる。

 一時間くらいやっていただろうか。


「参った! も、もう勘弁してくれぇっ!」


 ガリレアが両手を挙げて尻もちを突く。


「え? なんでだよ。もっとやろう」

「いやいや、皆もう動けねぇ! 俺だってもう限界だ!」


 見れば他の者たちも完全に倒れ伏していた。

 おかしいな。治癒魔術をかけているからダメージはないはずなんだが。


「連中、魔力切れですぜ。どうやらやたらと燃費が悪いらしい」


 魔力が完全に尽きると凄まじい虚脱感に襲われ、気を失う。

 一般人などは垂れ流す魔力も小さいから問題ないが、大量の魔力を扱う魔術師は自分でその出力をコントロールするものだ。

 しかし特異体質、天然の魔力使いである彼らにはそれが上手く出来ないようだ。

 いわば常にバケツに穴が開いているようになっている状態。

 魔力消費の大きい戦闘となるとすぐに魔力が尽きてしまうのだろう。


「ってことはもう戦えない、ってことか?」


 こくこくと頷くガリレアたち。

 ……むぅ、正直言ってまだまだ消化不良だが、ここであまり無理をさせても仕方ないか。


「わかったよ。そうまで言うなら……」


 俺の言葉に、ガリレアたちは期待を込めた目をした。


「皆に魔力の制御方法を教えるよ。それなら大丈夫だよね」


 俺の言葉に、ガリレアたちは絶望に染まった目をした。


「ちょ! 待てコラ! こっちにはもう戦う気は……」

「まぁまぁ、いいからいいから」


 遠慮するガリレアの背に手を当て、一気に魔力を流し込む。


「アッーーー!」


 びくん、とガリレアの巨体が震え、倒れた。


「ガリレアーっ!」


 他の者たちが慌てて駆け寄り起こす。

 ガリレアはすぐに目を開け、自身の身体を不思議そうに見やる。


「な、何だこりゃあ……? 身体がねばつかないぞ……?」

「ほ、本当だね……一体何をしたんだい? 第七王子さん」

「身体に直接術式を刻んだのさ」


 自分でコントロール出来ないなら、外部からそれを強制すればいい。

 垂れ流しになっている魔力を体内で循環させるよう術式を刻み、魔力の消耗を抑えたのだ。

 もちろん、今までの能力も自分の意思で使用可能である。

 人体に術式を付与するのは初めてだったが、上手くいったな。

 魔剣作りを大量にこなした結果である。


「どうだい? 何か不調はあるか?」

「……いや、スゲェぜこれは。驚いた……」


 目を凝らしてみるが、ちゃんと術式は動いているようだな。


「さて、あんたらもやってやるよ。並びな」


 他の者たちは顔を見合わせ、頷いた。うんうん素直でよろしい。

 まぁ断っても無理やりやるけどな。

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