第28話助っ人が来ました

「はぁ、はぁ……さ、流石に疲れてきたなー……」


 もう何十回『気功弾』を撃っただろうか。

 魔術ならともかく、『気』に関しては初心者だ。

 呼吸にも気を使うし、精神的疲労が溜まっていた。


「でも、大分慣れてきたぞ……!」


 最初の時と比べると、明らかに『気』を練る速度が上がっている。

 速度だけではない。飛距離も、威力も、やればやるほど上達を感じられてすごく楽しい。

 魔獣たちとの戦いもいい感じで拮抗してるし、この戦いもっと長引かないかなー?

 そんなことを考えていると、隣にいたアルベルトが息を荒らげているのに気づく。


「魔獣どもの数が一向に減らない……! 近衛たちもシルファも顔には出さないが動きがかなり鈍くなっている。それにロイドもかなり息が上がっているな。あの年齢で、あれだけの魔術を使っているのだ。無理もないか……なんて、人のことを気にしている余裕はないな。僕の方もそろそろキツくなってきた……! だが、兄として情けない姿を見せるわけにはいかない……笑え、笑うんだアルベルト! こういう時こそ不敵に!」


 何かブツブツ言いながら、アルベルトは口元に笑みを浮かべている。

 おっ流石アルベルト。まだまだ余裕ありそうだな。


「……ロイド、まだ頑張れるか?」

「はいっ! まだまだいくらでもいけますよ!」

「いい子だ。さぁてここからが踏ん張りどころだぞ……!」


 魔剣を振るい『炎烈火球』を放つアルベルト。

 本来ならもうとっくに魔力切れを起こしていてもおかしくはないはず……なのにあんな顔をしているということは、魔剣により威力が上がっているのが嬉しいんだろう。

 やはり攻撃魔術は威力というわかりやすい指標があるからやる気が維持しやすいもんな。うんうん。

 俺も負けてられない。

 何か特別な要素――例えば助っ人でも来なければ拮抗状態は続くだろうし、その間はずっと『気』の練習をして――


「ほあったーーーっ!」


 と、考えていると、奇声と共に小柄な人影――タオが飛び込んでくる。

 飛び蹴り一閃、それを喰らったベアウルフは湖にまで吹っ飛んでいった。

 くるりと空中で回転し着地したタオは、びしっとポーズを決めた。


「助太刀するある!」


 おおおおおお! と歓声が上がる。


「タオ! よくきてくれた! 助かったよ!」

「間に合ってよかったよ。さっさと蹴散らすね!」


 アルベルトの言葉にウインクを返すと、タオは魔獣の群れを相手に戦い始めた。

 その活躍はまさに獅子奮迅。

 身軽なタオは縦横無尽に戦場を駆け回り、隙を見せたベアウルフから仕留めていく。

 俺たちが防御重視で戦っていたこともあり、丁度挟み撃ちのような形となり魔獣たちはどんどん数を減らしていった。


 ……まさか本当に助っ人タオが来るとは思わなかったぜ。

 タオの前で『気』を使えば俺の正体がバレてしまうし、戦いも長引きはしないだろう。

 あーあ、もう終わったな。俺はやる気なく『火球』を放つのだった。


「これで、ラストぉーーーっ!」


 タオの『気孔弾』で最後に残ったベアウルフが大木に叩きつけられ、気を失う。

 周りに倒れている十数匹のベアウルフたちは、もはや動くこと叶わない。


「うおおおおお! 俺たちの勝利だぁぁぁ!」


 近衛たちが互いに身体を抱き、喜びを分かち合っている。

 はぁ、残念だ。もう少し楽しみたかったのに。


「ふぅ、何とか全部倒せたね……」


 タオが額の汗をぬぐい呼吸を整えていると、アルベルトが握手を求めて両手を差し出した。


「ありがとうタオ、本当に助かった」

「気にしなくていいね。間に合ってよかったよ。……ふひひ」


 タオが握手を返す。

 めっちゃ嬉しそうな顔でアルベルトの手をにぎにぎしている。

 アルベルトは若干引いていた。


「と、ところでタオ。よく僕たちが魔獣に襲われているとわかったね」

「うん、祠は高い所にあるでしょ? 丁度アルベルト様たちが魔獣の群れに襲われてるところが見えたよ」


 タオが指差した所、切り立った崖の上には石の祠が見えた。

 ただ、祠は古さゆえか殆ど崩れている。

 あれを修繕するのは大変だろう。


「……随分崩れているね。そういえば修繕に向かったのだったか。中断させてしまったようだ。僕たちが後で手伝おう。命を助けてもらった礼だ」

「それ、とても助かるね! お礼するよ! よかったら今度食事でもどうね?」


 タオがアルベルトを食事に誘っている。

 おいおい、相手は一応王子だぞ。

 なんというか……強いな。


「――ロイド様、ちょっといいですかい?」


 深妙な口調でグリモが言う。


「どうしたんだい?」

「あの祠、思い出しやしたぜ。あれは俺と同じ魔人が封じられている祠だ」

「何……? しかしあの祠、破壊されているようだが……」

「えぇ、中の魔人は外に出た後でしょう。そして、かなり近くにいやす……!」


 グリモの言葉と呼応するように、ぼこん! と一匹のベアウルフの身体が大きく跳ねる。

 二本足で立ったベアウルフは、だらんと力なく両腕を下ろした。


「い、息を吹き返したのか!? 全員武器を取れ!」


 アルベルトの号令で近衛たちがベアウルフを取り囲む。

 だが起き上がったのは一匹だけではなかった。

 倒れていたベアウルフたちが次々と起き上がってくる。

 よく見ればその身体にはうっすらと黒いモヤのようなものがかかっていた。


「くふふふふ、人間どもが中々やりおるではないか……」


 ベアウルフの口の中からしわがれた声が聞こえてきた。

 鋭い牙の奥に覗く青白い顔は、老人のようでもあり猿のようでもある。

 異様に大きい目と額に生えた鋭く長い角、もちろん人間ではあり得ない。

 その異様さに近衛たちは怯え竦んでいる。


「な、何者だ貴様!」


 アルベルトが振り絞るように声を上げると、老人は口角を上げ不気味に笑う。


「我はパズズ。魔人パズズよ。愚かな人間どもよ。よくも我が眷属を痛めつけてくれたな。その代償、命にて支払ってもらうぞ」


 老人――パズズはベアウルフに口を閉ざさせると、二本足で立ち上がらせる。

 その巨軀はパズズの魔力故か更に、更に大きく見えた。

 ベアウルフの真紅の目に、老人の禍々しい目が重なった。

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