No.081 死線をくぐりヌケ



「さて、皆さんはこのユリエーエ学園に入学出来た訳ですが、何を勉強したいのかを今から決めていただきます。例えば、七聖剣になるために剣術を上手くなりたいとか、十二賢者になるために新たな魔法を作りたいだとかなんでもいいです」


 なるほど、学びたい事を学べるというのはいいな。

 嫌な教科はとらなくてもいいらしいし。

 大学みたいな感じかな?

 行ったことないけど。


「また、友達に教えを乞うのも1つの手だな。1時限目は自由時間とするから勉強したい事を決めてこの紙に書いて提出しろ。したものから休み時間とする」


 そうなると、僕の勉強したい事っていうか、やることは、


「他の世界への扉を開くこと?」

「うわぁ! シャルか。別に声に出して読まなくても」


 シャルは僕の書いた物を見て悩んでいる。

 なににかはわからないけど。


「シャルは決まったの? って流石にまだだよね」

「うん。でもね」


 少しモジモジさせながら言おうか悩んでいる様子。

 ここは後押しをするべきかな?


「なにかあるの? 手伝える事だったら手伝うよ」

「本当!」

「うん。友達だし、手伝えることならだけど」

「えっと、魔法を教えてもらいたくって」

「……魔法ね、魔法」


 うん、僕って魔法を使えないんだよ?

 知ってると思うけど、僕が使ってるのは宝玉の力と陰法だから魔法とは根本的に違う物なんだよな。

 よし、今日は帰って魔法を猛特訓しないとだな。


「いいよ。僕でよかったら教えるよ」

「ありがと、カズラ」


 あー、天使のような笑顔だ。

 男装の意味がないじゃんそれ。


「ホーズキ殿」

「チルの呼び方って距離があるんだよな~」


 わざとらしく無視をする。

 最初は「ホーズキさん」だったのに、事情を知って「ホーズキ殿」に変わってちょっとショックなんだよね。

 さて、次はなんて呼んでくれるかな?


「か、カズラ殿」


 あー、結局「殿」はついちゃうのか。

 けど、この呼ばれ方も悪くないと思う自分がいるから問題なし!


「なに、チル」

「私も剣術を教えてもらいたいのだが」

「うん、いいけど、僕って武器に頼ってる所があるから」


 黒鬼がよく斬れるからそれに頼りっきりという所は否めない。

 はぁ、両手に華とはこういう事を言うのか。

 それにしても隣からずっと殺意の眼差しを向けられている人がいるんだよな。

 それに、耳を澄ますと、


 「クソッ。最初の 予定では俺がみんなか ら教えてってくるは ずだったのに。でも まだ大丈夫。策は残 ってるから」

 と、物騒な声が聞こえてくる。

 もちろん僕の耳がいいから僕しか聞こえてないけど勘弁してほしい。


 周りも段々と決まっていき、1時限目が終わる頃にはみんなが早めの休み時間を過ごしていた。


「おっ、全員決まったようだな。じゃあ2時限目は武術の時間だから動きやすい服装で校庭に集合な」


 あれ、習いたい物だけを習える訳じゃないのか。

 そりゃそうだよな。

 そんなんじゃ優秀な人材は育たないんだろうな、知らんけど。


「さーて、全員揃ったな。今日は全員同じ武器を使ってもらう。急に武器が変わっても扱えなければ意味がない。じゃあ順番に取りに来い」


 先生のその指示で順番に剣を取りに行く。

 剣はちゃんとした鉄剣で、刃は潰されていて、当たったら凄い痛いくらいで済むと思う。


「ホーズキとアイン。シャルと―――」


 順々にペアを決められていく。

 生憎というか、なんというか僕の相手は自称「転生者」のアイン・マーシャル。


「それではお互いのどちらかが地面に手や足以外のどこかがついたら終了ね。開始」


 その言葉でアインは剣に魔法をかけて強化してきた。

 特に禁止は言われてないけど、流石にマナーって物があるでしょ。


 「身体強化」

 更には魔法で身体強化まで、僕の事を手違いで殺そうとしてるよな、絶対。


 アインはそのまま地面を蹴り物凄いスピードで斬りかかってくる。

 それは、吸血鬼の前ではスローモーションも同じ事。

 アインの剣を利用して、僕の潰れた刃を綺麗に鋭くしていく。


「上手く避けたようだな」


 けれど、アインは全く気がついていないようだ。

 これが、演技なら凄いけど。


 もう1度アインは突っ込んでくる。

 それを刃と刃が合わさるように防ぐ。


「もらった!」


 本当だったら僕の剣は叩き折られていたけど、鋭くなった刃の前には唾競り合いに持ち込むだけとなる。

 そのまま本気の本気で後ろに倒れ込みながらすねを蹴る。


「うわぁぁぁ(棒)」

「イテッ」


 僕の上にアインが乗るという状況。

 形上どう見てもアインの勝ちだけど、痛そうにしているのもアイン。


「あーあ負けちゃったー」


 棒読みで悔しそうにする。


「どうしたのー? アイン。凄い痛そうだけどー」


 まぁ、十中八九骨折しているだろうけどね。


「貴様、よくも」

「陽法 無の太刀 無刀真剣」


 アインは痛いだろうに無理矢理突っ込んで斬りかかってくる。

 それを、不可視の剣で相手の剣を斬るという方法をとってから、背負い投げのようなのを繰り出す。


「僕流に言うと、小手投こてなげかな」

「そこまで。カズラはやり過ぎだ」

「ごめんなさい」


 アインはどうやら地面とぶつかった衝撃で伸びている。

 すぐに、救護の人を呼んでアインは連れていかれた。 


「よし、カズラ。私と殺ろうか」

「えっと」


 僕の耳には少し物騒に聞こえたが、気のせいではないだろう。

 先生の目は爛々と輝いていて、戦いを楽しみにしているように感じる。


「わかりました。黒鬼」

「ほう、武器で殺り合おうというのか。わかった。来い、神器バフニール」


 突然の突風。

 からの、先生の手には弓が現れた。


「さぁ……七聖剣が1人、マチルダ参る」


 弓を引くと、10個もの魔法陣が宙空に現れて、そこから風の矢が解き放たれる。

 それらは全て追尾式で、厭らしく避けた先に矢が飛んでいく。

 けど、


「陽法 朱の太刀 乱舞」


 全方位に斬撃を放ち風の矢を相殺させる。


「やはり、妖しげな技を使う」


 もう1度弓を引くと、次は100は下らないであろう魔法陣が僕を取り囲むように現れる。

 これって、避けなければ殺されかねないよね。


「陽法 灰の太刀 朧月・打ち」


 黒鬼は刀であるが、剃りの部分も斬れるようになっていて峰打ちが出来ない。

 だから、柄の部分で気絶させると、100はあった魔法陣は全て消え去った。


「間違えた」


 間違えた、間違えた、間違えた。

 七聖剣に勝っちゃうとかまた失敗した。

 せめて、さっきのを全て避けて当たったフリでもしとけばよかった。

 クラスのみんなは、観ていたわけで、


「「「す、凄い」」」

「七聖剣に勝ちやがった」

「どんなに強いんだよ」

「おかしい、アイツは人間か? 人間なのか?」


 と、色々な言われようだけど仕方ないだろう。

 あっ、人間じゃないよ。


「ウッ、ン? あー、気絶してたのか」

「先生、大丈夫ですか? てか、気絶から治るの早いですね」

「あぁ、大丈夫だ。それに、戦場だと気絶は命取りだからな。よし、ホーズキ。七聖剣に入らないか?」

「いえ結構です」


 思いの外、起きるのが早かった。

 それに、起きて早々「七聖剣に入らないか?」って冗談じゃない。

 この国では名誉な事なのだろうが、僕からしてみれば足枷にもなりかねない。

 だから、


「丁重にお断りさせていただきます」


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