No.080 逸らしたシセン



 僕は堂々と城門前に来た。

 後ろには大聖剣と大賢者を立たせて。

 このシチュエーションって、この国の人なら誰もが羨む事だな。


「大聖剣さま、大賢者さま、申し訳ありません。今すぐにソイツを捕らえさせますので」

「必要ない」


 大聖剣であるアーサーが威厳たっぷりの声でそう言う。


「で、ですがアーサーさま。我らが英雄に触れたのに、なにもしないのは私たちの名誉に関わります」


 大きな剣を背負った正義感たっぷりの男がそう言った。

 あの人、まぁまぁ強そうなんだよな。


「そうです。メリダさまもお考えください。不老不死の薬を狙っているに違いありません」


 その不老不死って僕が2人にあげたんだけどね。

 いや、今なら作れるかも、不老不死の薬。

 そもそも、錬金術の最終目的が、何でも知識があるとか、不老不死になれるとかができる“賢者の石”を作る(見つける)ことだから。


「おい、なにヘラヘラしている。アーサーさま、お許しを」


 そう言って、大きな剣を背負った男が斬りかかってくる。


「黒鬼」


 剣と刀が合わさる。

 事はなく、剣は見事に斬られて黒鬼の餌食となった。


「なっ! お、俺の剣が」


 動揺からか、わたし口調が乱れる。


「メリダさま、私もお許しを。炎魔法 精霊イフリートの息吹」

「宝玉の力よ。喰らえ」


 影が一瞬にして炎を喰らい後ろへの被害はゼロにした。

 お許しをって、凄い2人が怒ってるのか肩をプルプル震わせている。


「さ、流石です。鬼灯さま」

「見事でした」


 2人から手放しに誉められて、悪い気はしない。

 プルプル震わせていたのは感動からかな。


「七聖剣たち、後で覚悟しとけよ?」

「十二賢者たち、後でお話があるから」


 なんか、カッコいい名前が出てきたから、後で聞かせてもらおう。


「国王、事情を説明しますので場所を変えましょう」


 そう言って移動する。

 もちろんさっきの豪華絢爛な客間に通される。


「か、カズラは凄いんだね! 七聖剣を物ともしないし、十二賢者の魔法も効かないし」

「いや、あれは咄嗟だったから」


 僕がシャルと話している間にアーサーとメリダが国王に報告をしてくれている。

 チルはあっちの話を聞きに行っちゃったけど、まぁいっか。

 態度を変えられない事を願おう。


「でも凄いね! まさか大聖剣さまと大賢者さまに慕われているとは思わなかったよ」

「いやー、慕われているとかそう言うのじゃないと思うな」

「そうなの? で、カズラは何者なの?」


 おっと、いきなり斬り込んできたな。


「うーん、旅人?」

「本当は?」

「世界を旅する者」


 間違ってはいない。

 世界を渡って友達を助けようとしてるんだから。


「そうだったか。シャル、来なさい」

「はい、お父様」


 説明が終わったのか国王に呼ばれてシャルは行ってしまう。

 それに合わせて僕も国王の前に座る。

 アーサーたちに座ってくださいって目で見られたから。


「先程はすまない事をしたな、ホーズキ殿」

「いえ、気にしてませんので」


 笑顔で答えとく。

 こういう時の笑顔って相手には恐く写るんだよな。

 実際、国王の顔は少しひきつってるし。


「どうか、どうか私の命だけで勘弁してください。娘たちは助けてやってください」

「はぇ?」


 僕はおかしな驚き方をしてしまうほど理解出来ない……否、理解したくない。

 アーサーとメリダよ、どんな説明をしたら命をとるって考えに至らせられるのだ?という意味を込めて2人を見ると視線を逸らされた。

 合わせてくれないのは後ろめたいからかな?


「僕は命なんて取らないよ。だから安心してください」

「おぉ、寛大な処置、ありがとうございます。ホーズキ殿」


 まぁこれでよかったのか?


「話は以上でしたら僕は失礼します」

「カズラ、行くの?」

「うん。アーサーとメリダに家を紹介してもらえばいいから」

「そっか。ごめんね」

「なんでシャルが謝るの? 別に気にしないで。また明日」


 僕はアーサーとメリダについていき、


「ここなんていかがですか?」


 それは豪華な家で、小さな城と言われてもわからないくらい。

 流石にこれは貰えないな。


「他には?」

「鬼灯さま。これが1番いいと思いますよ? それでも他のを見ますか?」

「うん。お願い」


 2人に連れられて行く家々はどれもさっきのよりも凄い物ばっかだった。

 本当に最初のが1番よかったな。


「じゃあ最初のを貰うよ」

「わかりました。なにかありましたらお呼びください。すぐに向かいますので」

「ありがと、2人とも」



 ※



 2人と別れてから1時間、家を散策し終えたが結構広かった。

 地下室があったり、部屋が10個以上あったり、大浴場があったりと本当に凄い家だ。

 こんなのを貰うって相当功績を残してんだろうな、本当に。


「それにしても災難だ」


 まさか、ユリエーエに飛ばされるとは。

 さて、世界を渡る為には鍵が必要だけど、その素材がないからどうするか。

 明日にでも調べるか。



 ※



 紫色じゃない朝の光で目が覚める。

 まぁ、吸血鬼だから基本睡眠は無くても大丈夫だけど、体は……精神は睡眠を欲しているからね。


「学校だけど大丈夫かな」


 昨日は世界樹の力で校舎が大変な事になったからな。

 僕は学校の準備をして家を出る。


「昨日はすみませんでした」

「すみませんでした」


 僕は静かに扉を閉める。

 これって昨日の攻撃してきた事に対してだよな。

 アーサーとメリダが叱った結果なのかな?

 なら僕が命の恩人と知ってるのか。


 少しだけ扉を開けるとガンッと扉を掴まれて、


「話を、話だけでも聞いてください」

「嫌だよ。てか訪問販売の詐欺みたいだから絶対嫌だ」


 必死に扉を閉めようとするが、力を出しすぎると扉が壊れてしまう可能性があるから加減する。

 もちろん七聖剣の1人もそうしてる。


「お願い、先っちょ、先っちょだけだから」

「なんかそれも嫌だよ。しかも女の子なんだからそういうのは止めた方がいいって」


 十二賢者の1人も必死に説得してくるが、2人とも選ぶ言葉のセンスが壊滅的に悪くて話したくない。

 それに、ここまで来たら話したら負けだと思ってる、何と戦ってるかわからないけど。


「うーー、テイッ」


 七聖剣の1人が掴んでいる手にデコピンをくらわせる。

 もう、それは本気の本気、マジ本気モードで。

 それを受けて手を離した隙に扉を閉める。

 そして裏口から逃げるようにユリエーエ学園に向かう。

 貴族のような服で、町中を走っているからか、誰も視線を合わせてくれない。

 どっちかと言うと白眼視はくがんしされている。


 そのままやっとの思いでユリエーエ学園に到着することが出来た。


「おはよー、ホーズキさ――――」

「――――まーって、堅苦しいのは無しにして!ね」


 学園についたからひと安心といきたかったが、そうもいかないようだ。

 シャルに敬われている感じがして窮屈だ。


「わかりました、カズラ。おはよー」

「おはよ、シャル」


 さぁ、今日も波乱万丈な1日の始まりだ。


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