No.077 主人公はオコだぞ
「アインは何でそんなに怒ってるの?」
「き、貴様! 馴れ馴れしく名前を呼ぶな」
ダメだ、相当怒ってるし、嫌われている。
アインは僕に聞こえないように小声で言ったつもりだろうが、生憎と言うべきか僕の耳は人間よりも優れている。
だから聞こえてしまったのだ、
まさかの衝撃発言。
そりゃ神が実際にいて、この目で神を見たから転生なんてあり得るけど……今考えるとあの神、理不尽過ぎる。
あー、もう。
思い出しただけでイライラしてきた。
「フンッ。まぁいい。俺の邪魔だけはするな。俺が本気を出したら君の家族は死ぬことになる」
うっわ、凄い3枚目みたいな台詞だよ、酷すぎる。
てか、僕の家族は地球にいるからそう簡単には殺せないよな。
まぁ、もし殺したのなら地獄を見せる事になるけど。
「大丈夫か?」
「うん。まぁね」
アレンと入れ替わりでシャルとチルが来た。
2人とも優しすぎないか?
それとも、僕が力を出しすぎたからそれを見込んで取り込もうとしてるとか?
「ホーズキさん。私、思い出したんです」
「な、なにを?」
なんか目をキラキラさせてて嫌な予感しかしないのは気のせいだろうか。
否、気のせいではないとすぐに知ることとなる。
「ホーズキ・カズラという人は大聖剣さまと大賢者さまを助けた命の恩人だという」
「へ、へぇー」
僕が助けた人……誰だろう?
思い当たる節がない。
「チル、カズラ。そろそろ教室に行かないと」
シャルに促されて3人は教室に向かう。
教室は1、2、3と10まであり、1は成績優秀将来安泰で、10は成績まぁまぁ将来安定という感じ。
この学園に入った時点で、将来はあまり心配しなくてもエリートコースまっしぐらって訳だな。
「今日は特にないから解散だけど、とりあえず教室の場所は覚えるように。あぁ、後もしこの中に寮を希望する生徒がいたら言ってくれ。解散」
先生のその言葉で皆思い思いに解散していく。
さて、寮もいいけど、ある程度ここにいるつもり(楽しそうという好奇心)だから拠点がほしいよな。
よし、家を買おう。
けどなんか僕の知ってるユリエーエと違うから歴史も学びたいところだな。
なら、行くところは1つ、図書館。
学園なんだからあるよな?
「カズラはこの後どうするんだ?」
「僕は適当に図書館行ってから、家を探す」
「家を探すって無いのか? も、もしよければ私の家に来るか?」
「い、いやー。流石にだってシャルって王族でしょ」
「ムッ、そうだけど」
あからさまに態度が悪くなった、というか、機嫌が悪くなった。
多分、
「大丈夫だって、態度は変えるつもりはないよ。だって敬語が苦手だし」
「そ、そうか」
あっ、機嫌がよくなった。
これはこれで分かりやす過ぎて王族としてどうかと思うけど、友達になる分にはこれくらいの方がいいね。
「カズラ、先に家を探す方がいいんじゃないか?」
「でも図書館が」
「ここの図書館はずっと開いているから心配はいらないよ」
「そうなの! それは凄い」
今の日本だと24時間営業は法律で禁止されてたような。
だから、その法律の抜け道として、違う店舗で時間をずらして営業するって方法がとられてて問題になってたっけ。
まぁ、
「なら家が先か」
「大丈夫? 手伝う?」
「えっと、なんでそんなに過保護なの?」
「だって心配じゃん。ユリエーエの道には迷ってるし、そうかと思ったら剣術や特に魔法が凄かったりって」
「ホーズキさんって所謂、間抜けってやつね!」
おいチルよ。
僕を苦しめて楽しいか?
いや、楽しそうだな。
「チル、お願い。意地悪しないでください」
結構心が抉られるから。
「えー、どうしよっかなー」
「チル、そのくらいにしてあげな」
「はーい。シャルちゃんの仰せのままーに」
「もう」
ん、ん、ん?
今、チルは「シャルさま」じゃなくて「シャルちゃん」だったよね?
でも、シャルは爽やか美青年……いや、女の子に見えなくもない、か?
服はどっちが来ててもおかしく無いもの。
「あっ、チルのせいでカズラが困惑してるよ」
「えっと」
「わかってる。多分女の子か男の子かわからないんでしょ。見る?」
「い、いや流石にそれは」
「冗談冗談。でもチルが意地悪したくなるのもわかるかも」
「わ、わからなくていい!」
「私は女だよ。でもカズラも少し女の子みたいだよな。顔が」
グッハ、また心が抉られていく。
ダメだ、怖い。
女の子怖い。
「私は嘗められたら困る立場だから男装してるんだ。これは秘密だよ」
「そうだよ、ホーズキさん。シャルちゃんのは誰にも言ったらダメだからね。それにシャルちゃん凄く可愛いんだよ」
「ちょっ、チル!」
どうやら、王族と付き人という関係ではなく、双子というか、姉妹というか、本当に仲がいいみたいだ。
それに、気になる情報も入った。
シャルの本当の姿が可愛いという事。
「カズラ、本当に1人で大丈夫か?」
「うん。いざとなったら……まぁ、聞けば誰かしら答えてくれるでしょ……けど、やっぱり家を探す人を紹介してください」
ここは素直にお願いしておこう。
相手は王族だろうと問題ない。
だって、気がつかない内に王族と付き合ってたんだから……忘れよう。
「じゃあ行こっか」
シャルに連れられ学園を出るとすぐに迎えの馬車が来て……馬車?
いや、馬車の馬の方がどこからどう見てもロボットなんだ。
それでいて、馬車の車の方は車輪がついてなく浮いている状態。
うん、ファンタジーだし、魔法があるんだ。
ドワーフの大陸、エクスターチなんて車が空を飛ぶのはもちろん、エレベータが縦横斜めと縦横無尽に動いてたんだからそれに比べたら全然だけど、
「機械の馬かっけぇ」
「この馬を知ってるのか?」
「いや、知らないけどカッコいいなーって」
「そりゃそうだよね。古代の産物なんだから」
古代の産物?
そんな昔からあった物なのか?
けど、僕が前にユリエーエに来た時は普通の馬だったよな。
「さっ、乗って乗って」
促されて馬車に乗り込む。
中は普通。
至って普通だが、馬車にしては揺れがなくとても快適だ。
「それで、カズラは図書館で何を調べたいの?」
「歴史とかをちょっとね」
「歴史かー、1番大変だったのは600年前だよね」
「なにかあったの?」
「本当に知らないの? 結構有名だけど」
あー、ダメだ、わからない。
こういう時はお約束の、
「実はこの年まで山奥で暮らしてて歴史には疎くてね」
「なるほど、だからあんな大魔法使えたのか。約600年前に紫の厄災ってのが起きたの」
要約すると、紫の厄災が紫の太陽のやつで、事件解決から600年が経っていたというわけ。
「うん、ヤバい」
これは想定してなかった。
地球と時間の流れが違うなんて。
あっちでは1時間くらいいたから、地球での1分が10年くらいか。
エルフのエクスターチとかドワーフのグロンダントとかは大丈夫かな?
いや、大丈夫という事を願おう。
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