No.074 意味のないハジマリ



「どうすれば」


 ダルビスの目の前で悪魔の大軍に襲われる鬼灯透。


 黒い靄から次から次へと異形の悪魔たちが出てくる。

 この数を1人では結構辛い、辛いなんて物じゃないな。

 せめて武器があれば少しは楽なの……に?


「そうだよ、武器がないなら作ればいい」


 どうやって作るか?

 そんなの簡単。

 必要なのは髪の毛と僕の、吸血鬼の血が必要だ。

 髪の毛を1本抜いて血をつける。


「これで即席武器、ワイヤーナイフの出来上がり」


 安直だけど使えてくれよ。

 僕は近づいてきた悪魔に髪の毛を振るう。

 すると、呆気ないほど簡単に悪魔の首は海に落ちる。


「使える」


 もう1本髪の毛を抜いてワイヤーナイフの二刀流にする。

 これである程度は戦える……はず。


 幾分の時が過ぎたか、気がつくと黒い靄は消えていて、悪魔も消えていた。

 見えるのは黒く禍々しい大地、ダルビスという大陸だけ。

 そこの中心部に聳え立つ天まで届きそうな黒いくろいクロイ塔。


「あそこに力が、葛にギャフンって言わせられるのか」



 塔の中は嫌と言うほどの静かさ。

 ただただ上へ上へと続く螺旋階段があるだけ。


 ――――㌧㌧㌧㌧


 と僕の靴音だけが鳴り響く。



 そのまま何段上ったか、どのくらい時間が経ったか分からなくなった頃、ようやく最上階にたどり着いた。


「これは?」


 誰も答えるはずが無いのに声が出る。

 そこには祭壇と呼ばれるような物とそこに置かれる1つの毒々しく紫色の宝玉。


「それは神の宝玉、と呼ばれる物ですよ。透さん」


 後ろから声がした。

 それは僕を吸血鬼にしてくれた人であり、1番信用出来ない人でもある。


「動かないでくださいね」


 後ろからナイフを突きつけられている。

 この状況、始めて会った時と同じ感じになってる。


「そのままですよ。結界陰法 孤独の牢獄」


 何処からともなく現れた鎖に囲まれ鎖ボールに閉じ込められた。

 力一杯に殴ってみても壊れる事はない。


「これで、これであの憎き母上を殺す事が出来る。やっとだ、やっと……? 宝玉の力よ。な、なぜだ? なぜ反応しない」


 外から困惑した様子の一の声が聞こえてくる。


「宝玉の力よ?」


 そんな言葉を口ずさむと、目の前には紫色に光輝く祭壇の上に置かれていた宝玉が現れた。

 それと同時に力の使い方が手に取るようにわかる。


「そうか、宝玉は僕を選んだのか。空間を歪めよ」


 鎖の結界はガシャンッと音をたてて崩れ去る。

 これは強い、これは強い!


「な、なぜ。なぜお前が!」

「一さん。今までありがとうございました」

「まさか、まさかお前は私を殺すと言うのか? 私はお前を吸血鬼にしたんだぞ。な、なのに」


 だって一さんって物凄い信用出来ないんだよなー。

 言っちゃ悪いけど詐欺師みたいだから。


「最後に名前を教えてください」

「なぜ?」

「だって、偽名のままだと、本名が気になって夜しか眠れないじゃないなですか」

「そ、それもそうか……? いや、夜は普通寝るもんだ。それに吸血鬼は寝なくても大丈夫な体になっているから睡眠は必要ない」


 なんか動揺しているのか言葉がグチャグチャになってるな。


「それで?」

「どの道死ぬのなら言わない方を選択させてもらう」


 勝ち誇った笑みを浮かべている。

 どっちが優位かわかってるのかな?

 葛に会う前に力を試さないとな。


「まーずは右肩」


 指で鉄砲を作り撃つ動作。

 すると一さんの右肩は空間が歪み右手は地面に落ちた。


「どう? まだ言わない?」

「ッッッッッ、い、言わん」

「じゃあ死ね」


 左肩の場所をバキュン。

 右足首をバキュン。

 左膝をバキュン。

 右脇腹をバキュン。


「どう?」

「ガァァァァッッ」


 傷みのせいか大声をあげている。

 回復されるのは厄介だな。


「喉もバキュン」


 声を出せないように、けれど死なない程度に。

 これで後は死ぬのを待つだけ。


 数分して一さんは息を引き取った。


「輪廻回生」


 一さんの傷はみるみる内に治っていき、心臓も動き出す。


「結界陰法 拘束の光。どうですか? 気分は」

「ギャァァァァァ」


 1度死を味わった身。

 相当辛かっただろうな、普通に。

 僕なら絶対に無理だもん。


「本名を教えてください」

「や、やめろ。やめてくれ」

「チッ……バキュン」


 次は心臓を1回で。

 そしてすぐに蘇らせる。


「本名は?」

「ラスク・ネグリュー」

「ありがと」


 心臓を抜き撃つ。


 ―――――ゴトーーン ゴトーーン


 何処からともなく鐘の音が聞こえてくる。


 そして、


「ここは?」


 楽園。

 そう呼ぶに相応しい場所。



 *



「透?」


 鐘の音が聞こえたと思ったら知らない場所に、緑が綺麗な丘で、川が流れて1本の桜の木が目立っている。


「えっ! なんで葛がここに」

「いや、だって透は死んだ、よね?」

「死んでないよ」


『はい、静粛に』


 神々しさと優しさに包まれた声が辺りに響く。

 それに従い僕も含めて自然と頭を下げる。


『あなたたちは神の使徒? なんで神の使徒じゃないのが何人か混ざってるの?』


 回りを見ると天神族、天神族、天神族、天神族。

 天神族が9割9分だ。残りの1分が他の種族。

 エルフだったり、人間だったり、ドワーフだったり、獣族だったりと。


『あー、試練に参加しちゃった人が何人かいたのか。これは申し訳ない事をしたな。元の世界に帰してあげよう』


 僕は気になる事があり、自然と手を上げていた。


『どうした、ヴァンプ』


「質問をいいでしょうか」


 その神は頷く。


「ここはどこでなんでぼ、私たちが呼び出されたのですか?」


『こっちの手違いだ。神の見習いに神になる為の試練を与えていた。それにお主たちが混ざっただけの事よ』


 ……意味が分からない。

 じゃあ、地球がおかしくなったのもダンジョンが出来たりしたのも全部神のせい?

 って事は神がこんな事をしなければお母さんもお父さんも死ぬ必要がなかったって事か?


『お主たちの母と父は今ハワイに行ってるぞ』


「えっ?」


 僕の考えを見透かしたように言ってきた。


『まぁ、帰れ』



 ※



「透」

「なに、葛」


 また飛ばされた。

 それも知らない場所、とまではいかないが、初めて見る。


「ここって多分」

「多分マダガスカル、だよね」


 テレビで見たまんまだ。

 なんでマダガスカルだけが残ってるのか気になって何度も見たけど、


「役にたつとは。でも、なんでお母さんたちはハワイに旅行行ってるんだろ? ドリーさんかな」


 これで一件落着?

 てか、太陽が明るい。

 電気みたいに光っていて眩しい、眩し過ぎる。


 さっきの神の話をまとめるに、僕や他の人たちは巻き込まれたって事だよね。

 なんか神なのに理不尽だよね、酷すぎない?


「葛はどうやって帰る?」

「僕は……空飛んで?」

「はぁ、宝玉。空間を歪めよ」


 目の前がボヤけ始めてどこか分からない路地裏に移動した。


「透! スゴい! 宝玉使えるし、それが転移系って結構使い勝手よすぎだよ」

「そ、そうかな?」

「さぁ、たまたまドリーさんの屋敷があるから行こう」


 僕は透を連れて1歩を踏み出す。



 ※



 その日、2037年11月。

 世界は大きく動いた。


 太陽は紫色の輝きを失いだし、本当の姿を現した。


 今まであった摩訶不思議なダンジョンは消滅し、代わりに地球本来の大陸が出てきた。


 ダンジョン内にいた人は軒並み日本のどこかしらへと飛ばされたが、そこまで大きな問題にはならなかった。



 これは1人の吸血鬼が世界を救うモノガタリ?




 これで僕の、『宝玉の吸血鬼』の物語は終わり。


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