No.068 上きげんなヌシ
船の旅はあっという間であってほしかった。
※
サルバンに行く日が来た。
1年に1回サルバンに調査隊が向かうが戻って来ないという噂の大陸。
悪魔が出るだの、鬼が出るだの色々な噂がたっているが、どれも眉唾物だろうな。
「まぁ、実際に今日でそれがわかる訳だけど」
『皆、今日は俺の為に来てくれてありがとう。弱い子も強い子も俺の盾になって死ねたら光栄だね』
なんだ、このクソおかしな演説は。
酷いなんてものじゃない。
内容も僕たち参加者は捨て駒みたいな言い方、いや、実際あいつにとってはそうなのだろうけど、士気を上げる為にも他の演説とかあっただろ。
皆一様に嫌そうな顔になったじゃん。
本人は気にしてないようだけど。
「それじゃあ、元気よく行ってみよーー!」
船に乗り込むとそれは、豪華客船と言っても過言ではないほどの豪華さがあり、北星渚の下がっていた高感度が少し上がった気がした。
とは言っても少し、本当に少しだから対して変わってないとも取れるが。
「どうだ、透。気分は」
「快調だよ。おかしなくらいにね。それと殺人衝動が抑えられない」
「ほう? それは参ったな」
少しわざとらしい。
そんな口ぶりだが、本当の事なんて教えてはくれないだろう死ね。
おっと、間違えた。
教えてはくれないだろうタヒね。
※
乗組員は僕を含めて10人。
比較的少ない気がするが先鋭揃いだから大丈夫なのだろう。
まずは僕、鬼灯透。
そして僕を吸血鬼にしてくれた喰えない田中一……今思うとどう考えても偽名だよな、これ。
次にこのサルバン計画の雇い主である北星渚。
性格はクソで今はこの日本を目茶苦茶にしている張本人。
まぁ、僕には被害が来てないから問題ないけどね。
次、名前はわからないけど「爺」と呼ばれている人。
北星の執事らしき人で立ち姿に隙が見当たらない事もないけど少ない。
それと目が異様に怖い……仮面をつけてるからだな。
聞いた話、暗器を得意としてるからゲームで言うところの「雑用」だな。
次、天神族のドンパ。
なにかサルバンに用がありそれなりに腕が立つから連れてこられたそうだ。
自分を神の成り代わりと自称する頭のおかしな種族だから関わりたくないんだよな。
次、エルフのスーリ・ロンロンさん。
エルフの大陸、グロンダントを追放されたダークエルフの1人。
弓矢、風魔法、呪いを得意としゲームで言うところの「狩人」だな。
次、ドワーフのナーさん。
苗は無く孤児だったらしい。
大きな盾が特徴的でゲームで言うところの「タンカー」だな。
次、獣族のグレン・ドラゴンロードさん。
種族的に竜で得意なのは槍と炎魔法と言っていた。
それと竜化も出来るみたいで結構な戦力になると予想される。
ゲームで言うところの「ランサー」だな。
次、同じく獣族のカグラさん。
白銀の狼でとてもかっこよくて、どことは言わないが大きめ。
どことは言わないが大きめだからつい男……男? の僕としては目がいってしまう。
ゲームで言うところの「拳闘士」だな。
最後、
京都ダンジョン専門国立高等学校の2年生にしてA組と呼ばれる凄いクラスに所属しているらしい。
この人もカグラと同じで、どことは言わないが大きめだ。
それにこっちは人間だから可愛くも見える。
何を得意としているかはわからないな。
と、こんな説明をしていたがあることを思い出した。
これから僕が行くのはレベルSダンジョンだ。
ダンジョンと言うことは敵がそれなりに出てくる訳で、僕は武器を持っていない。
作者さん?忘れて訳ではないよね?
「
「一でいいですよ」
「一……。僕って武器が無いんだけど」
「あっ」
どうやら一も忘れていたようだ。
これは作者が忘れたのか物語的に
まぁ、それは置いといて、
「武器が無いのにどうやって戦えば? もしかして北星が言ってたように肉壁にならなきゃいけない感じ?」
「いえ、大丈夫ですよ。私のいらない武器をあげますので。ちなみにどのような武器がいいです?」
「えっと、葛はなんの武器かわかる?」
「生憎と私にはわかりかねます」
「そっか、じゃあ……大きな剣ってありますか?」
「了解、ならこれで」
一が出したのは僕の背丈(170cm)と同じくらいの大きな剣。
とても重いが結構使いやすい。
上手いとは言い難いが、剣に振り回されないだけでもよしとしよう。
「ありがとうございます」
「なーに。気にすることはない」
そのまま一は与えられた自室へと戻っていった。
さて、このままどうしようかな。
特には用もないし食事も必要なさそうだから寝るか。
ベッドに潜り込み目を瞑るがなぜか落ち着かず、寝ることが出来ない。
試しにクローゼットの中に掛け布団だけ持って入り……zzz
※
「透さん、透さん。一旦起きてください」
「五月蝿い。あと5分」
クローゼットの中でモゾモゾと寝返りをうつ。
「そんなことを言わずに起きなきゃ面倒な事になりますよ」
「五月蝿い。あと10分……」
これが、葛と同じことを言っているだなんて、誰も知るよしも無い。
「面倒な事に殺人事件が起きました。食堂に集まらないと犯人にされてしまいますよ」
「それは大変だ!」
僕は勢いよくクローゼットから飛び出し着替えを済ませる。
「それで、被害者は誰だったの?」
「それは、グレンさんです」
「グレンさんって竜になるって言う?」
「はい。それ以外にはいません」
食堂につくと僕と一が最後だった。
みんなの視線が一斉にこっちに集まる。
「遅かったね。寝起きは苦手の怠け者かな?」
嫌味を含めた言い方をしてきた北星。
やっぱり性格はクソだな。
「そうなんです。早起きはどうも苦手で」
本当は嘘だ。
僕の寝起きはいい、いいはずだ(家族と比べて)。
なのに遅れたのは周りが早いからだ、そうだ。
「みんなはもうここから出ないでね? でるなら2人1組で1組ずつ。理由はわかるよね? それと今、警察を呼んだから大急ぎで来るはずだよ」
嘲笑うような笑みを浮かべてとても楽しそうにしている。
警察を呼んだという事は、この船は停まっているでいいんだよね?
船の揺れがなさすぎて動いているのかもわからなかったけど。
あーあ、僕の強くなる予定が遅くなってしまったな。
これじゃあ葛を倒すことも儘ならないだろう。
てか、みんながみんな顔色を伺ってる、って言うか、疑心暗鬼な状態になってる。
誰が味方で誰が敵かわからないこの状態なんだからしょうがないとも言えるだろう。
その点、僕には僕の事を吸血鬼にした一がいるから信頼、信用できる……できるか?
ダメだ、この人は信用出来なさそうだ。
このまま何も無ければいいけどそうもいかないのだろうな。
船の旅はあっという間であってほしかった。
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