No.069 主とキョウジンと
トイレタイム。
2人1組でトイレに行くという物。
1人減った今、誰かが2回行かなくてはいけない。
けど、人数的に考えると女性の誰かが2回行くのが得策だろう。
だって男と女のセットは何があるかわからないから。
「私が2回行くー!」
元気よく答えたのは宇崎さん。
京ダン高の人でアレが大きな……何でもない。
こんなに何度も言ったら流石に読者さまも飽きるだろう。
「それじゃあ鎖那ちゃんにお願いしようかな」
北星は、それはそれは美しい笑みで了承した。
コイツ、相当な女好きなようだ。
もし僕がダン高に入ったらコイツが先輩になるのか、それはゴメンだな。
「テンション下がる」
「どうしたんだい、透くん。そんなに女性と一緒がよかったか? 確か中学3年生だったね。ならまだ早いんじゃないかな?」
いちいち突っかかってくるな。
本当にムカつくし最悪だ。
人の気を逆撫でるのが相当に上手い、嫌になるくらい。
「まぁ、宇崎さんやスーリさん、カグラさんは可愛いとは思いますがそうではなく、なかなかダルビスに行けなくて残念だなーって思ったからです」
「そっかそっか。楽しみなんだね。それに女性陣が可愛いというのも同意見だ」
見守るような優しい視線。
その中に色々な思惑が見え隠れしているのがよくわかる。
「じゃあ行きたいところー」
誰も手を上げなかったので北星が適当にドンパさん、ナーさんペアを先に行かせた。
さて、もし片方しか戻って来なかったら犯人になるけど流石にここで殺人は勇気がいるよに。
「透くん、だったね。苗字はないの?」
「はい。苗字は」
名乗るなと言われてるから一応守る。
「さっきは可愛いって言ってくれてありがとね」
「いえいえ、思った事を言ったまでです」
「その仮面はどうしたの? 外さなくて息苦しくない?」
やっぱりそこが気になっちゃうのか。
「見ますか? あまり良いものじゃありませんが」
「んー、じゃあ一応見せたてもらおうかな」
「では」
僕は宇崎さんだけに見えるよう仮面をゆっくりと外す。
すると、
「ウッ。ご、ごめん」
「いえ、慣れていますので」
「火傷、酷い傷だね」
やっぱりそんなに酷いのか。
1回見てみたいな……後でトイレの時に見てみよう。
「治せないの? 回復魔法とかでは」
「……はい。残念だけど今まで無理でした」
これって、いざ聞かれたら僕が設定を考えて言わなきゃいけないやつじゃん。
よし、家を燃やされて僕だけ逃げ切れた。
顔の火傷はその時ついた物で一さんには育ててもらってる。
うん、家族が死んで遺体が残らないって縁起でもないけどこれでいこう。
「そっかー、治らないのかー」
「残念ながら」
「あっ、そうだ! ダン高にね、鬼灯葛って言う男の子がいるんだけど、その子の回復魔法が凄いんだよ! もしダン高に入るなら見てもらいなよ……って今はいないのか」
もしかしたら葛と知り合いなんじゃ、とは思ってたけど本当にそうだとは。
世の中は広いようで狭いのかもな。
「葛、か」
「知ってるの? なんか葛って言っても通じなかったりするんだよね。知ってるはずなのに知らなくなってる事が多くて」
「そ、うなんだ」
そういえば、僕の周りでもそういう事が多々あったな。
葛がこの日本を出た辺りからかな?
「あー、葛くんに会いたいなー」
「葛が好きなの?」
「いや、無いよ。だって葛くんは……葛くんは誰にベッタリだったんだっけ? あれ、そもそも葛くんはフリーだよね? えっ、でも相思相愛で? なんで? なんで?」
宇崎さんは突然壊れたかのように自問自答を繰り返している。
そして、
「あれ? 私、今なに考えてたっけ?」
「葛」その者を忘れてしまったかんじだ。
僕にとっては忘れてくれるのはいいことだ。
だって、忘れられれば忘れられるほど葛が孤立するだけだから。
葛は人に依存してしまう癖があるから、孤立すれば僕が手を加える必要も無くなるってもんだ。
「忘れたんですか? 宇崎さんが可愛いって話ですよ」
「んふふ、ありがと。鎖那でいいよ」
「わかりました。鎖那さん」
「さん、もいらない」
「じゃあ鎖那」
「うむ、よろしい!」
胸をそって王様のように言う。
これだけでも可愛いから吸血鬼の眷属にしちゃおうかな。
ついでにダークエルフのスーリさんと白銀の狼のカグラも一緒に。
けど、人間じゃない種族には効くのかな?
「楽しそうに話しているね」
後ろからゾッと声をかけられた。
声の主はもちろん北星渚だ。
僕が女の子と楽しげに話しているのが気にくわなかったのだろうな。
だって目から怒気が溢れちゃってるもん。
それに僕の肩にギジギジと手で握ってくる、それも力一杯に。
一切合切痛くは無いからいいんだけどね。
「鬼灯葛か、僕にとっては屈辱的な相手だな」
「えっ!」
まさか、葛がこの北星にまで喧嘩を売っていたなんて。
「その鬼灯葛? って誰ですか?」
「あれ? 鎖那ちゃんは知らないのかな。多分、合同でダンジョン攻略したと思うけど」
「はい、そんな人居なかったと思います」
「そっかー、知らないのかー。まぁいいけど。それに葛には軽く意趣返しが出来てるから」
どうやら北星渚は仕返しをしているらしい。
どんな事をしたんだろう?
吸血鬼だから何が効くかわからないけどある程度は耐性があるだろうし。
「その内わかるよ」
北星は僕の気持ちを見透かすかのように人差し指を口の前に持ってきて「ヒミツ」と言った。
マジで気持ち悪いから止めてケレ。
「だ、だれか」
ドワーフのナーさんが1人、大慌てで戻ってきた。
もちろん1人だから天神族のドンパさんはいない。
「なんで君だけで戻ってきたのかな? ドンパはどうした?」
「き、聞いてください、北星さま。ド、ドンパが」
それから皆でドドンパが……ドンパがいるところに、トイレに移動する。
「これは」
「死んでる」
ドンパは白目を剥いて倒れている。
少しの毒の匂い、なぜかわからないけど、毒だとわかる。
「これが原因だね」
北星はドアノブを器用に回すと、そこから針が伸びてきた。
ここに猛毒が塗られててドンパは死んだということか。
なら犯人はどう考えても、北星だろう。
この船は北星の所有物でこんな仕掛けも容易なはずだ。
それに、さっきからずっとニコニコしていて物凄い怪しいし。
「早めに言ってね。俺の船に誰がこんな細工をしたのか」
「「「……」」」
誰も答えない。
もちろん僕も犯人じゃないから答えない。
でも、誰がこんなことをしたんだろう?
北星は無いとして、その爺もあり得ない。
一さんはわからないから置いといて、ナーさんの慌てようから犯人では無いだろうな。
女性陣で鎖那は話してみた感じいい人そうだし無い。
スーリさんはダークエルフだから少し怪しいな、種族で決めつけるのはあまりよくないけど、ダークエルフはいい噂を聞かないからな。
カグラはそんな事に興味が無さそうだ。
「はぁ、誰も答え――――」
「――――はい」
その人は北星の言葉を遮り答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます