No.061 人のクルイ



 城までの道のりは厭というほど静かすぎる。

 まず第1に人がいない。

 城に向かう馬車はなければ道で遊ぶ子供もいない。

 何がそうさせるのか、と言ったら間違いなく豚男トンラーだろう。


「さて、先ずは」


 城門をくぐると浅間あさま義宗よしむねがそこにはいた。


「許してくれ、葛。お爺ちゃんが、お爺ちゃんが捕まってるからしょうがないんだ」


 僕の知ってる情報だと義宗のお爺ちゃんはこの世にはいないような……これも豚男の仕業か。

 めんどくさい事をしてくれる。


「宝玉の力よ、色欲」


 桜色の宝玉が僕の後ろにフワフワと現れる。

 この力で茶々ッと解放出来れば楽だけど、


魅了チャームポイント」


 義宗に魅了をかけるが意味は無かったようで、


「うわぁぁぁ」

「チッ。黒夜叉」


 義宗の魔法剣を黒夜叉で受け止める。

 流石に僕の事情で捕まったんだから殺すのはないよな。


重力グラビティーサークル」


 僕を中心に半径1mの重力を数10倍に引き上げる。

 地面は軽く陥没し義宗は立っていられずに地面に横たわる状態で拘束されたも同然だ。


「オーバーサークル」


 重力が強い場所の周りを更に強い重力で地面を陥没させる。

 これで義宗を飛び道具や魔法で殺そうとしても殺せなくなった。

 もちろん近づくことさえ許さない。


「次だ!」


 少し進むと待っていたのは宮野みやのさくら

 だけど少しおかしいような?


「斎藤さんは殺された。あれは本物な訳ない」


 僕が来た事に気がついていないのか自問自答を繰り返している。

 ちなみに斎藤さんは宮野のお世話係をしていた人で一緒についてきた人だ。

 その人は僕がいない内に殺されてしまった、という事か。


「宮野?」

「ほ、鬼灯、くん?」


 宮野は僕を認識しても攻撃してくる事は無かった。

 それどころか、胸にぶら下げたペンダントが光輝いている。


「斎藤、さんッ」


 次の瞬間には宮野は崩れ落ちるように経たり込み号泣を始めた。

 あのペンダントが何かしらの力があり宝玉の力が効いていなかったのだろう。

 まだ豚男の力が弱かったと考えるべきか。

 今はわからないけど。


「宮野、大丈夫か? って聞くべきじゃないのはわかってるけど……」

「ううん。だ、大丈夫、だよ」

「ついてくるか、安全な場所に行くか」

「ついて、いく。斎藤さん、の、死体も、連れていかれた、から、何かしら、形見があれば、って」

「わかった」


 守りながら進むのは正直辛いだろうけど、ある意味僕が撒いた種だ。

 正確にはドリーさんが変な人を吸血鬼にしなければ良かっただけだけど……。


「さて、次は誰が来るか」

「次、は、エリーちゃんと、ドーラちゃんだよ」

「あ、ありがとう」


 どうやら本当に宝玉の力は効いていないらしい。

 一応の、


「魅了ポイント。桜、どう?」

「えっ///」


 完全に効いてるね、うん。

 僕はすぐに解除する。

 そりゃ照れた顔が少し可愛くてこのままでもとか思わなかった訳ではないけど、流石にハーレムとかをお望みではないからね。


 「鬼灯くんのバカ」

 次にいたのは宮野の情報通りで、エルフのハーフのエリーとドワーフのハーフの石上。

 2人1組なのは2人の連携や相性がいいからだろう。


「先手必勝でいくか。樹刀」


 樹刀を地面に突き刺しエリーと石上を世界樹もどきで縛り上げる。


「黒夜叉。陽法 灰の太刀 朧月・峰打ち・2連」


 峰打ちでエリーと石上の首もとを打ち気絶させる。

 これで邪魔はされないですむ。

 さて、2人を安全な場所に移さないといけないな。

 なんか「使い魔」が欲しいって思えてきた。


「そんな便利なのはないから、結界陰法 極炎牢ごくえんろう・反転」


 外側に対して燃え盛る結界でこれならある程度守れるだろう。

 心配だから早めに片付けないとだな。


 やっぱり、豚男が仕掛けた『色欲』の力が解けるかが、問題だな。

 豚男を倒すだけですむなら楽だけどそうはいかないのが世の中だよな。


 やっとの事でユリエーエ城内に入る事が出来た。

 城の中は軽く迷路のようになっていて進むのには苦労しそうな構造をしている。

 上に進む階段があると思って行くと行き止まりだったり、気がつくと続くのは下に続く階段しか無かったりと。

 その下への階段の先は地下牢に続いていてまさしく迷路と言っても過言ではない。


「た、助けてくださいませ!」


 数ある牢屋、その中の殆どの人たちは生気を失っていて俯いている。

 その中のとある牢屋のとある男性、平均よりも少しイケメンで身に付けている服装は白を貴重とした威厳のある感じで金の刺繍が目にはいる。

 その刺繍が表しているのは王家の証し。

 そして、なぜかわからないが、何処と無く和紗に似ている気がする。


「あなたは?」

「私はこの国の王子で、王位継承権1位の、いや、元1位のリーチ・ユリエーエだ」

「この国の王族か、なら」


 僕は黒夜叉で牢屋の鉄格子と、繋がれていた足枷を斬り刻む。


「これで大丈夫か?」

「あ、ありがとう。この礼は必ず」


 礼か、礼ならちょうどいい。


「なら今返してもらってもいい?」

「な、何をか、返せば?」

「道案内。豚男トンラーがいる場所は謁見の間らしいんだよ。そこまでの道案内を頼みたい」

「そ、そのくらいなら構わないが、その前に私の部屋によってもいいだろうか?」

「……理由を聞いても?」

「君は私を守りながら進むのは辛いだろ?」

「……」


 ここは無言の肯定と受け取ったのか、


「だから私の部屋にある武器を取りに行きたいんだ」


 なるほど、一理ある。

 が、コイツが、リーチ・ユリエーエが裏切らないとも限らない。


「信用してもいいんじゃない?」

「まぁ、宮野が言うならいいけど」


 どうせ人質に捕られるのは宮野だし、その本人がいいって言ってるから大丈夫だよね。

 それにある程度だったら僕でも助けられるはずだから。


 僕と宮野はリーチについていく形で武器の在処まで移動する。

 リーチの部屋は隠し扉となっていて、何もない壁を回転させて入る、まさに忍者屋敷みたいな感じだ。

 

「あった、これが私の武器です」


 抜き放つと綺麗な輝きを刀身が放っている。

 それと魔力を吸収し続けているのも魔力眼で確認できる。

 リーチはその剣を一振り、僕は宮野を庇うようにして倒れ込む。

 それだけで僕の腕に浅い切り傷がつく。


「ほ、鬼灯くん」

「大丈夫だよ」


 僕は宮野を後ろにしてリーチを睨む。

 リーチはもう1度剣を振るうが僕には浅い傷しかつける事が出来ない。


「さて、どういう事か説明してもらおうか?」

「黙れ黙れ黙レダマレー! やっと、ヤっと妹が帰って来タンだ。それを、ソレヲ邪魔スルヤツハ全員排除シテヤル!」


 妹?

 それがリーチを動かす原動力か。

 別に知り合いでも無いから殺してもいいよな。


「宮野、ちょっと目を瞑ってね。黒夜叉。陽法 黄の太刀 一閃」


 刀が直線的に伸びてリーチの心の臓を一突きする。


「宮野、そのまま回れ右をして進もっか」


 僕は宮野の背中を押してこの場を離れる。


 さて、道案内が消えたからどこだか分かんないのが辛いな。

 後見つけてないのは、一松いちまつ文鷹ふみたかとペトラ・ンラと八乙女やおとめ和紗かずさとプラスの元下僕たち合わせての6人。

 それと、3人目の第二始祖、『色欲の吸血鬼』トンラー・リゾルータ。


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