No.059 君へのココロ



 やっとの事でダンジョンから出てこられた。

 さて、先ずは……あれ?

 セバスはいつもだったらすぐに来てくれるのに気配を感じないな。

 それに和紗の気配もない……繋がりが……切れてる?

 まさか和紗が自分から切ったのか?

 いや、まさかね。

 和紗はそんな事をしないだろうし、するメリットもない。

 いや、でもやっぱりドリーさんを殺す集団とまだ繋がってて寝返ったって可能性があるな。

 やっぱり信用するべきではなかったか?


「人の、気配?」


 ダンジョン前にある取り壊し寸前であろうボロいボロい小屋。

 そこに人の気配を感じる。

 それも2つで両方とも子供だ。


 ――――トントントン。


 とりあえずノックをしてから扉を開け……扉を開けて……うん。


「黒夜叉」


 はーい、扉を斬りまーす。


 一太刀で扉を斬り中に入る。

 中は薄暗く、埃臭い。

 そして物置として使われているようで、ボロい剣やら、保存が効きそうな食材の袋が散らばっている。


「いた!」


 それと2人の子供。

 男の子と女の子で2人仲良く恋人繋ぎ。

 衰弱しているのか寄り添いあうようにして半ば意識を失っている。

 扉が固かった事からも何らかの事故で閉じ込められた感じかな。


「回復陰法 天露あまつゆの雫」


 僕の血を媒体とした栄養水で自分自身には効果がないが、他人には効く物だ。

 これで意識を取り戻してくれよ。


「……ぅぅん」


 先に目を覚ましたのは男の子の方で、


「だ、誰だ! メリダちゃんに近づくな!」


 男の子は持っていた錆びたナイフを僕に向けてきた。

 その手はガクブルと震えて目は涙目、足は生まれたての子鹿ようで、うん。


「僕は君たちをとって食べたりはしないよ?」

「信用出来ない。周りはみんなみんなおかしくなった。ママもパパもメリダちゃんのママとパパも隣の家のおばさんも全員おかしくなったんだ!」


 あの豚男の仕業だよな。

 どうにかして解放出来ればいいけど。


「それにお前は人間じゃない!」

「えっ!」


 な、なんでわかるんだ?


 その男の子の目は淡く白に光っている。

 これって……魔眼の1種だよね。


「き、きゅうけつき?」

「僕は悪い吸血鬼じゃないよ」

「?」


 おかしいな。

 ド◯クエでこのセリフいい!って思ったのに。

 それに某スライムのやつでも言ったら通じてたけど、この男の子は元ネタが知らないからしょうがないか。


「君たちの敵になるつもりはないよ……そうだ」


 僕は魔法収納袋から大好きな薄皮饅頭を出す。

 それとポテチやチョコなどのお菓子も。


「食べる?」

「……いい」


 流石にこんなお菓子よりも栄養が高い物の方がいいかな?


「こんな狭い所にいるとおかしくなっちゃうから1回外に出よ? ね?」

「……いい」

「んー? まぁ、いっか」


 僕は一旦外に出てから料理の準備をする。

 さて、こういう時は何を作るべきか?

 やっぱり匂いで釣るのがいいよな。

 なら、



「出来たー! 混沌陰法 風の調しらべ


 陰法を使ってカレーの匂いを小屋の中へと風に乗せて運んでいく。

 すると、本当に匂いに誘われて女の子の方が、メリダが出てくる。

 それについてくるようにして男の子が出てくる。


「ま、待ってよメリダちゃん。外は危ないよ」

「だっていい匂いがするのよ? それに私はお腹がペコペコだもん」

「で、でも」

「じゃ、アーサーくんは来なければいいでしょ」


 なんだろう、この感じ。

 アーサーはメリダに尻に敷かれてるのか。


「食べるか?」


 僕はメリダに対してだけ言う。


「えっと……」

「あぁ。僕は鬼灯葛でこう見えて種族は吸血鬼だよ」

「あ、え、はい。私はメリダでこっちがアーサーくんです」

「それでどうする? 食べる?」

「なんですか? それは」


 メリダは鍋を覗きこんで中を確認している。

 その少し離れた場所で警戒しているのか近づいてこないアーサー。


「これはカレーって言ってね、日本の料理だよ」

「日本ってあれですか? 気がついたら出来ていたという国」


 そっか、ユリエーエの人たちからすれば日本は気がついたら出来ていた物なのか。


「多分そうだよ。まぁ食べな」


 僕は自分の分とメリダの分を器に盛り付けてから、


「いただきます」

「い、いただきます?  アーサーくんは食べないの?」

「毒が入ってるかもしれないだろ!」 

「でもアーサーくんは毒が入ってるか確認できるじゃん。それに私は毒とか効かないから大丈夫だよ」


 なんと、メリダも何かしらの能力を持っているらしい。

 これは色々と聞く必要がありそうだな。


「それで、アーサーは食べるの?」

「……いる」

「了解っと」


 僕はすぐにアーサーの分も準備をして渡してあげる。

 多分、いつもの僕だとあげないで謝るまで意地悪してただろうな。

 今は誰かに優しくしとかないと壊れそうだし。


「それで、町で何があったのか聞いても?」

「うん! 私ね、解呪師ってジョブが与えられたの。それでね、町の人やアーサーくんもおかしくなったけどなんかアーサーくんだけは助けられたの」


 解呪師って事はその力で宝玉の力を打ち破ったって事になるのか?

 これは凄い、凄すぎる。

 ん? でも、その解呪師ってどうやってなるんだ?


「その解呪師とかアーサーの目とかっていつからなの?」

「8歳の時にね、『洗礼の儀』っていうやつをやるの。そこで銀色の美味しくない林檎を食べてそれで終わりだよ。気がついたら使えるようになったの」


 なるほど、洗礼の儀とは名ばかりに白銀林檎を食べさせてる、という事か。

 でも、


「2つ食べる人とかいないのか?」

「いないよ。なんか2つ目はダメって決まってるし強い毒で死んじゃうらしいから」


 なるほど、人工的な白銀林檎だろうから2つ目を猛毒にすることも可能なのか。

 ならこのユリエーエの人たちは何かしらの能力持ちって事になるのか。

 これも文化の違いによるものか。


「色々とありがとね。これから君たちはどうするの? 僕はとりあえず町に戻って情報を集めたりするけど」

「安全な所、ってありませんか?」

「安全な所って言われてもね。例えば強くなる、とか?」

「強く、ですか? でもそう簡単には強くなれないですよ」

「まぁ、そうなんだよね」


 方法はあるにはある。

 簡単な話この子たちを吸血鬼にしちゃえばいいだけだから。


「き――――」

「――――吸血鬼になれませんか?」


 今まで口を閉ざしてきたアーサーが僕の言葉を遮り言ってくる。

 うん、少しだけ。

 ほんの少しだけイラッときた。


「出来なくはないよ」

「なら」

「けど。アーサー、君は怖くないの?」

「なんで?」

「だって、吸血鬼になったら成長止まるよ?」

「……」


 なぜこんな事を言ったのか。

 それは簡単で、アーサーとメリダの身長は同じくらい。

 メリダの方が少しだけ高い感じだ。

 男として女の子に背で負けるのは屈辱、って思う人もいるだろうから聞いておく。

 100年後とかに「なんで早く言ってくれなかった」とか言われたらひとたまりもないからね。


「大丈夫!」

「な、なら私も!」


 2人は手を繋いで言ってきた。


 嫌味かな?

 僕が和紗と離れた事の嫌味かな?


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