No.058 船といないキミ
『独裁者』トンラー・リゾルータ。
その名は歴史の本に絶対と言っていいほど載っていて、書かれようは酷い有り様だ。
*
葛くんが戻って来ないまま1日が経過した。
セバスさんが探してきてくれてるから大丈夫だろうけど、とても嫌な予感がする。
やっぱり、相談するべきだったのかな?
――――トントン。
その音で私は我に帰る。
「はい」
「傭兵の者だ。ここにホーズキ・カーズーラーが泊まっているという情報が入った。開けてもらえないか?」
私はそれを聞き「人違いでは?」と言いそうになったが人違いではないだろう。
あの武道大会の司会が変な風に言うから間違って覚えられてるんだ。
ここにいない葛くんが可哀想だ。
よし、帰ってきたら私が慰めてあげよう。
「フムフム、ここにはいないのか。どこに行ったか知らないか?」
「多分ですけどブラバトのギルドマスターを追ってレベルSダンジョンに行ったと思います」
「そうか、情報提供感謝する」
それだけ言い残して傭兵の人は行ってしまった。
時間は流れて次の日の朝、セバスさんが帰ってきた。
けど、まるで別人の用になって帰ってきたのだ。
それも知らない吸血鬼を主人として。
「やぁ、シィ」
「な、なんでその名前を」
「なんでって私だよ? って言っても見た目が変わったのか。ほぉ、ほぉ」
最後ので誰だかわかった。
豚男がトンラーがここにいる。
って事は、
「か、葛くんは!」
「ほぉ、ほぉ。アイツは殺せなかったから置いてきた。まぁその内帰ってくるだろうさ」
「
「――――宝玉の力よ」
そこで私の意識は途切れた。
気が付くと私はユリエーエ国の白く美しい城の目の前にいた。
周りにはセバスさんや鈴華さん、斗駕さんとその他の吸血鬼たちがいる。
他のA組のみんなはいないようだから、一先ずみんなは安全だろう。
「ほぉ、ほぉ。よし、お前ら。王族を皆殺しにしてこい! 逆らうヤツも容赦なく殺して構わない」
トンラーのその言葉でみんなが動き出す。
もちろん私も体の自由が効かず、
「月華」
円刀を呼び出してしまった。
そのまま近づいてきた騎士に円刀を投擲して仕留める。
片っ端からどんどんと死体の山を築いていく。
1時間ほどでユリエーエ城を掌握、征服することが出来た。
しかも、私はそれを手伝ってしまった。
「よくやった、お前たち。自由時間とするから散っていいぞ。シィは残れ」
私はその指示従い動かない。
否、動けないの方が正しい。
なんでトンラーは意識だけを残したんだろう。
せめて、せめて意識諸とも消してくれた方がどれだけ楽か。
「ほぉ、ほぉ、ほぉ」
興奮しているのか鼻息が荒く汗の臭いが凄くキツい。
夏の満員電車でおじさんに囲まれたような感じと言えば伝わるだろうか?
「ほぉ。シィには記憶がないかもだけど、この国の姫だからね。ほぉ、ほぉ。だからこの私と結婚して私はこの国の王になるのだよ」
私がこのユリエーエの姫?
なにかの間違いだよね?
そもそも私にはそんな記憶は無いし、親は普通に……普通にこのユリエーエで暮らしてた平民のはず。
それよりも幼い頃の記憶は無いから確かめようもない……のか。
「どうした? そんなに驚きだったか? シィ・ユリエーエと言う名前なのだからすぐにわかるだろう? まぁいい。民に報告するとしよう。ほぉ」
待って、私はトンラーと結婚したくない。
こんな人を舐め回すような目で見る人は嫌だ、悪寒が走る。
葛くん、早く助けて。
「そうだ! シィよ、私が王になった暁になにか新たな政策をしようと考えてる。なにかいい案はないか?」
私が口をきけないのわかってて言ってるのが太刀が悪い。
「ほらほら、答えないのか?」
トンラーは私に近づいて服を1枚1枚脱がしていく。
もちろん抵抗したくても抵抗出来ない。
「おい、そこの。シィに服を用意しろ。もうそれはとびきりのヤツを、だ」
「かしこまりました」
近くにいた吸血鬼に指示を飛ばす。
10秒もしない内に私用のドレスが到着した。
そのおかげかトンラーに触れられる事はなかったが、婚姻の儀への時間が刻一刻と近づいてる。
少し、ほんの少しだけど声が出た。
この声が届いているといいな。
そう思いながら私は足を進めた。
婚約の儀。
それは特に問題なく終わった。
中には不審に思う人も数人いただろうが些細な事だ。
『王族全員の突然の暗殺。誠に残念でございます。ですが、日本という国に留学なさっていたシィ・ユリエーエ姫が帰って来られた今、私たちは新たな道を歩む事が出来るのです』
拡声器を通して響き渡る声。
それに安堵する者、憤りを覚える者、疑問に思う者。
様々な考えがあるが、それは本当に些細な事だ。
なぜかって?
それは、
『それでは新たに国王となられたトンラー・ユリエーエ様のご挨拶です』
『変わりまして、新たに国王になった、トンラー・ユリエーエだ。今聞いている者は歯向かうな。歯向かうなら命の保証はしない。それと、そうだな。貴族も平民も税を今までの10倍納めろ。これは
トンラーの持つ宝玉の力により、半ば洗脳のような形で事なきを得る。
「ほぉ、ほぉ。これで洗脳は終わりだ。後はそうだな……よし、吸血鬼たちよ。この国に鬼灯葛の仲間がまだいる可能性がある。即刻捕らえて私の前に連れてこい! シィはここで私と一緒に待とうではないか。な、シィ王妃」
吐き気がする。
もちろん比喩表現だが気持ち悪い事には変わりない。
触れられるだけで鳥肌がたち死にたくなる。
ここまでくると逆に呪いのような力を感じなくもない。
「そういえばシィよ。まだ吸血鬼の親を代えてなかったな。待っていろ。すぐに代えてやる」
「いや、だ」
「ほぉ、ほぉ。まさかこの状態で喋ると言うのか? 私は許可を出してないぞ。大人しくしていろ」
私はこの体を動かせないが無意識に顔を歪める。
「ほぉ、ほぉ。いい顔だ。歪んだ顔も美しい。今楽にしてやるからな。さぁ、そこに横になれ」
「いや、いや。止まって。止まって私の体!」
「
トンラーの血が口から体内に入ってくる。
その血はドロドロと流れて私の中にある大事な物を喰らう勢いで、血が血を食い散らかしていくのが手に取るように分かる。
分かりたくなくても分かってしまう、感じてしまう。
大事な、大事な葛くんとの繋がりをも断ち切れてしまった。
「これで、これでお前は私の物だ!」
そこに早歩きでやって来た1人の吸血鬼、セバス。
「と、トンラー様、報告致します。鬼灯の仲間と思わしき人物を捕縛しました。いかが致しましょう?」
「ほぉ。よくやった。そうだな……ここに連れてこい」
トンラーはゲスい笑み浮かべてそれを待つ。
がそこに駆けつけてきた1人の吸血鬼。
「トンラー様、襲撃です。よくわからない物がこちらに飛んできています」
トンラーはそれを聞くとすぐに城のバルコニーに移動しそれを見た。
それは宙に浮く船、戦艦だったのだ。
戦艦は大砲の照準を合わせると一思いに城へレーザーを撃ち込む。
が、それは如何なる力によって天へと抜けていった。
「ほぉ、ほぉ。折角の楽しい気分が台無しだ。宝玉の力よ」
戦艦は一瞬にして海の藻屑となった。
「今すぐにどこが攻めてきたか調べろ」
「「はっ!」」
トンラーはイライラとしながら自室へと戻っていった。
(私は放置なんだ……)
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