No.057 襲撃のフネ



 そこは今までとは違って新鮮な気分だ。

 理由はいくつかあるが、大きいのはやはり、


「魔物が倒しても消えないって事だよなー」


 そんな独り言を漏らす。

 魔物が日本のダンジョンと違って魔石になるんじゃなく素材としても落ちてくれるので、これで色々な物が作れるのだ。

 例えば僕が発注した服とかもそれに入ってくる。

 必要な素材はミスリルで出来た糸、幻獣種でもあるドラゴンの逆鱗、肉食獣の毛皮、ブラットパンサーの牙の4つ。

 この内肉食獣の毛皮とブラットパンサーの牙は集まった。

 幻獣種のドラゴンはもっと下の階層にいるかな?

 後の問題はミスリルで出来た糸だけどそんな物あるのかな?



 ※



 何階層まで降りてきたかわからないが結構な数進んだだろう。

 今までより少しづつ少しづつ魔物が強くなってきているが、吸血鬼である僕には些細な事だ。


「それにしても暇だ。話す相手がいないとこんな退屈なのか」


 誰の返事も返ってこないので独り言として終わってしまう。

 虚しくなってきたりするのは考えないでおこう。



 ※



 アレから黙々とダンジョン攻略をしているがなかなか終わりが見えない。

 途中から数え始めたけどこれで100階層は降りてきた事になる。

 なんか諦めようかな、とか思っちゃう。


「まぁ嘘だけど」


 そんな独り言。


 また少し進んでいくと、悩んでいた「ミスリルで出来た糸」はあっさりと解決することになった。

 と、言うのも、


「チッ。斬れねぇ」


 出てきた変な芋虫型の魔物。

 その気持ち悪い芋虫魔物が吐いてきた糸は硬くきらきらと宝石のように輝いている。

 そのきらきら糸はミスリルで出来た糸だったのだ。


「陽法 黒の太刀 断絶」


 芋虫魔物を一瞬で斬り裂くと「グショッ」という音と共に緑色の気持ち悪い体液が滲み出てくる。

 一応ミスリルで出来た糸はゲットした、芋虫魔物の体液付きだけど。



 ※



 それからまた何階層も降りていくとドラゴンの死体が置いてあった。

 多分だけどあの豚男が倒してそのままにしたのだろう。

 ありがたくドラゴンの逆鱗は貰っていくとしよう。


 ドラゴンの逆鱗は尻尾の付け根にあり以外に固かった。

 これを服のどこに使うか不思議だけど必要なのだろう。

 知らんけど。



 *




「こ、これは!」


 武道大会が行われていた闘技場に来た警備隊はそんな声をもらす。

 それもそのはずで、ブラッドバットギルドの面々が得体の知れない黒い物に拘束されているのだから驚くのも無理はないだろう。


「と、とりあえずブラバトのこいつらは地下牢に連れていけ」


 隊長と思わしき人が適格な指示を出していき、ブラッドバットギルドの面々は連行されていく。


「それにしても一体誰が?」

「た、隊長、報告します。観客たちの話によりますとギルド対決があったようで、その結果が気に食わなかったのかギルドマスターであるトンラー・リゾルータが暴走してこのような事態になったようです」

「その相手は?」

「ホーズキ・カーズーラーと言うそうです」

「そうか、ホーズキ・カーズーラー、か。よし、そいつの知り合いを探しだして場所を聞き出せ!」


 葛の知らない所で少しずつ、少しずつ歯車がずれていく。

 それと間違った名前が広まっていくのもカーズーラーは知らない事だ。



 *




「やっと追い付いた」


 僕は追い付いた豚男……?を見つけたが少し遅かったようだ。


「ほぉ。遅かったようだな。私はこれで更に強くなったのだ」

「それが、ここの宝玉なのか」


 その宝玉は桜色をしていてフワフワと浮かんでいる。

 感じんの豚男は元豚男というべきだろうか。

 宝玉の力による物なのか超絶スリムな超絶イケメンに変わっているのだ。

 僕から見ても惚れてしまうぐらいかっこいいのだから相当だろう。


「宝玉の力よ」


 僕も力を解放する。

 初めての宝玉持ちと……。



 ※



 気が付くと僕は元豚男を見つけた場所で地面に寝転がっていた。

 体を起こそうにも体は重く動く事が、動かす事が出来ない。


 重力かなにかの力があの宝玉の力、なのか?

 僕は必死にあの後何があったか思い出そうとするが思い出せない。

 突然頭の中が空白になりなにも考えられず、感じられなかったのだから。


(宝玉だけは浮いているのか)


 口すら動かせないから思うだけにとどまる。

 後どのくらいこのままだろうか?

 出来れば早めに解放してもらいたいけど、そうもいかないだろうし、何か解決策があるのかと聞かれても特にないから大人しくしていよう。



 1ヶ月という月日が流れた。

 やっと指を動かせるようになってきて後1週間ぐらいで無理矢理抜け出す事が出来るだろう。

 さて、外の様子が流石に気になってしょうがない。

 それと宝玉を出し続けている影響なのかお腹が空いてちょっと、否、かなり辛い。

 中途半端なお腹の空き具合でもっとお腹が空いてくれれば1周回ってお腹の空きが楽になるのに。


(人肌も寂しくなってきたな)


 お母さんは元気だろうか?

 お父さんは働けてるだろうか?

 一応弟のとおるは学校を退学になったりしてないだろうか?


 和紗は大丈夫だろうか?

 寂しくないだろうか?

 何か事件が起きてないだろうか?

 いや、8割方起きているだろうな。



 それから1週間、僕は無心でこの時を待っていた。


「うご……け」


 腕が少しずつ上がり、次に体を起こす。

 そのまま、宝玉が置いてある祭壇まで移動する。


「よし、やっと抜け出せた。ここら辺が重力強いのか」


 半径1mの円が重力の強い空間となっている。


「それにしても、また宝玉が置いてあるって事は元豚男は死んでくれたのかな? まさかね」


 僕はありがたくその宝玉を手に取る。

 すると、力が流れ込み最後に宝玉は消えて無くなった。


「宝玉の力よ」


 僕がそう呟くと黒色の宝玉と桜色の宝玉がフワフワと宙に浮いている。

 さて、この宝玉の能力は相手を魅了したり思考を操作出来るのからなかなかに厄介だ。

 それとさっきまで僕が捕まっていた重力操作か。

 どちらも強いなんて物じゃない。


「厄介極まりない、な」


 僕は急ぎダンジョンを抜ける為に足を進める。



 *



 ユリエーエ国にある白く美しい城。

 その城の中、1つの豪華な玉座がある謁見の間。


「これで、これでお前は私の物だ!」


 そこに座るは千年に1人のイケメンと言っても過言ではない男。

 その名をトンラー・ユリエーエといい、元ブラッドバットギルドのギルドマスターでありリゾルータ侯爵でもあり、今はこの国ユリエーエの国王でもある。


「トンラー様、報告致します。ホーズキの仲間と思わしき人物を捕縛しました。いかが致しましょう?」

「ほぉ。よくやった。そうだな……ここに連れてこい」


 トンラーはゲスい笑み浮かべてそれを待つ。

 が、


「トンラー様、襲撃です。よくわからない物がこちらに飛んできています」


 トンラーはすぐに城のバルコニーに移動しそれを見た。

 それは宙に浮く船、戦艦だったのだ。


 戦艦は大砲の照準を合わせると一思いに城へレーザーを撃ち込む。



 さて、どうしてこうなったのか。

 それは……


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