No.012 空間のチカラ



 白石の心を叩き折るためにはどうするべきか。

 1番いいのが、あの武器を破壊すること。

 白石はあの武器があるからこそ強いだろうし、その心の支えをなくしてやるのもいいかもしれない。


「1回で終わりにしよう。陽法 黒の太刀 断絶だんぜつ

「燃えろ、焔」


 燃え盛る相手の剣と、黒光りする僕の刀が交わり、そして燃え盛っていた剣は光を失ったかのように綺麗な断面で斬れた。


「炎」 


 終了の合図がないから続けるか。

 相手の服だけを燃やせるように火力を調節し放つ。

 そうすると、白石は火だるまに一瞬なったが、次の瞬間にはスッポンポンの真っ裸になる。


 まだ終了の合図はないのか。


「陰法 風刃」


 風の刃で体のあちこちに小さな傷を沢山作っていく。

 血が浮き出て……血が、でもこんな男からは欲しくない。

 けど血が、


「そ、そこまで」


 やっと終わりの、血が、合図がかかった。

 フィールドが緑色の光に包まれて、白石の傷口がみるみると塞がっていく。


「ごめんね、白石くん。そんな脆い武器だとは思わなくて」


 というのは冗談で、生半可な武器だと、一刀両断出来る技が『断絶』だ。

 空間その物を斬るくらい速いから防ぐ方法が限られてしまう。


「あっ、ココネ先生。僕の魔法どうでした? あの火も調節したし、風も傷の度合いを少しに調節したんです」

「まさかここまでとは、凄いんだな」

「先生、単刀直入に聞きます。僕の順位はこんな下じゃありませんよね?」

「その事については次の授業の時間にでも話そう」


 そう言ってココネ先生はB組の生徒たちにお礼を言ってまわった。

 僕は一足先に教室に移動する。


 教室には誰もいないと思われたが、1人の生徒がいた。

 それも、知らない女の子。

 A組の生徒じゃないから別のクラスだろう。


「あなたがA組の落ちこぼれですね」

「A組の落ちこぼれ? なにそれ」

「知らないんですの? A組の中で唯一ギリギリだったと噂の鬼灯葛くん」


 誰がそんな根拠もない噂を流したんだ?

 そもそも僕の入試の結果はいい方で1番とまではいかなくとも、5番以内には入っているはずだ。

 それを今からココネ先生に聞くのだから。

 いや、待てよ。

 よく、よーく思い出してみよう。

 僕の自己紹介の時にギリギリって言葉を使ったな、うん。

 原因はどう考えても僕にある。

 否、僕にしかない?


「確かに自己紹介でギリギリって口にし――――」

「――――問答無用です。私はあなたに決闘を申し込みます」

「授業はいいの?」

「仮病で抜けてきましたので」


 なるほどなるほど。

 さっきの戦いを観ていないという事なら面白い。


「わかった。なら、何時にするの?」

「今日の昼休みに、逃げないでくださいね」

「そっちこそ逃げないでよ。そうだ、証人を立てよう」

「証人って言ったってここには誰もいませんよ」

「出てきたら? 浅間くん」


「へぇー、わかるんだ。やっぱり君は10番なんかじゃないよね? それにギリギリでも」

「あはは、あれはウケを狙ったんだけどね」

「わかりにくすぎるよ。ちなみにいつから?」

「朝の教室に行く途中から」

「最初からかよ。まぁ、いいや。証人だよね。喜んでしてあげる」

「ありがと、浅間あさま――――」

「――――義宗よしむねでいいよ。葛って呼ぶから」

「わかった。ありがとな、義宗」


「と言うわけで、僕は義宗の評価ではギリギリじゃないらしい。それと逃げないでってさっき言ってたよね。僕は楽しみだ」

「そうそう、誰かわかんないけどB組の娘? さっき僕は葛の戦闘を観たけど君のクラスの白石って子がボロ負けだったって事だけ伝えておくね」


「な、な、なっ」


 そのままその娘は逃げ出してしまった。

 まぁ証人がいるから問題ないし、存分に楽しもう。

 そして出来たら血を少しだけ頂こう、うん。


「それにしても強かったね、葛は」

「義宗も強いだろ? ダンジョンをクリアしたって」

「あー、あれね。あれは嘘だよ。勝手に流れている噂。まぁここを受ける前にはパーティーでクリア出来るようはなったけどね」


 いや、それは普通に凄いだろ。

 僕と義宗、どちらが強いだろうか。

 1度本気で殺り合ってみたいな。


「おっ、生徒が増えてる。先生は嬉しいぞ」

「おはよう、ココネ先生」

「はい。おはよう、義宗くん。じゃあ先に鬼灯くんの質問から。学校側にも立場って物があってね」

「あっ、納得しました」


 そういう事か。

 僕以外は親とかがエリート。

 だからそっちを立てなくてはいけないって事だ。


「わかってくれたならいいよ」

「なら決闘すれば上がれるんですか?」

「それはもちろん。結果として出るんだから」

「それともう1つ。9番の八乙女やおとめ和紗かずさは何者ですか?」

「それは極秘情報だから言えないじゃダメかな?」


 ニコニコしていた顔が、急に真面目な顔に切り替わった。

 それほどまでに極秘な事なのだろう。


「わかりました」


 その言葉を聞いてホッとしているココネ先生。


「じゃあ自分で調べてみます」

「えっ。それは止めなさい。鬼灯くんの命が危ないから」


 ほうほう、調べると命が危ないのか。

 それは興味深い内容だ。

 ますます調べたくなってしまったな。


「そうだ、ココネ先生。お昼休みに決闘を挑まれました。証人は義宗がしてくれました」

「わかったわ。確認してみる。今日は解散でいいよ。って言うか、魔法が使えるようになったから授業の必要がないんだけど」


 あらら、残念。

 なら、必要ないなら出なくてもいっか。



 ※



 お昼休みになり、決闘があるという噂を聞き付けて、多くの生徒が大修練場に集まった。

 そして、僕に決闘を挑んできた当の本人は怯えた様子でずっと震えている。

 何でも、僕と白石との決闘内容を聞いて怖じ気づいたとかなんとか。


「それではただ今より、村井むらいむらさき鬼灯ほおずきかずらとの決闘を開始します。始め!」


 さて、どうやって心を折ってやろうか。

 出来ることなら立ち直れないくらいに折りたい。

 なぜなら、そうすれば僕への決闘は減ると考えたからだ。


 それと聞いた話、白石は自主退学したらしい。

 何でも鬱になり、立ち直れないくらいになったからだと。


「炎 水 風 岩」


 魔法をバンバン撃ってきているが、威力が弱く、手で弾けば消えてしまう。

 それほどに弱い魔法で楽しくない。

 これじゃあ僕が弱いものイジメをしているみたいで不愉快だけど、これも未来の為だ。


「黒夜叉。見て、綺麗な刀身でしょ」


 軽く刀を振りながら魔法を斬り裂いていく。

 相手はもう涙目になっていて、そう長くはもたないだろう。


「陽法 こんの太刀 たわむれ」


 刀は紺色に染まってから威力を下げた斬撃を沢山飛ばす。

 イライラすること間違いないだろう。

 なるべく急所を避けるように狙い、逃げ道を塞いでいく。


「陽法 はいの太刀 朧月・峰打ち」


 黒夜叉が灰色に染まり刀が朧気に揺れると、僕は残像を残して相手の後ろに移動し、峰打ちで首元を打つ。

 これで、アニメとかだと気を失うはずだけど、


「そこまで。村井さんに治療を。首の骨が折れてます」

「ごめんなさい」

「いや、問題ない。もし峰打ちじゃなければ首がなかったんだから。治癒魔法」


 折れて内出血した影響で紫色になっていたが、治癒魔法でみるみる内に治っていく。

 これなら問題ないか。


「これがA組の力かよ」

「あれで10番なんだろ?」

「なら他のA組はどのくらい強いんだよ」


 うーん、僕より上はA組にそんないないと思うけどな。


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