No.010 魔法のジカン



 やっと始まる新生活。

 僕は国立の中で一番難しい、ダンジョン専門国立高等学校に入学した。

 そこは寮生活となっていて、とても新鮮で気持ちがいいはずなのだが、僕と同じ部屋に入るはずの子が居なくなり、僕は1人部屋となってしまった。

 その時はまだ知らなかった。

 僕の有ること無いこと噂されているというのを。



 ※



 今日は入学式。

 桜も綺麗に咲き誇り、その下に可愛い女の子とかがいれば絵になるだろう。

 たまに吹く春一番で、桜吹雪が起きるのも見ごたえがある、寮から学校への道。


 なぜか僕の周りは10m以上近づいてこない他の生徒たち。

 その目はまるで、この世の終わりを見る目をしていて、とても不愉快だ。


「強化陰法 地獄耳」


 強化陰法は体に干渉して強化するという単純な陰法だ。

 地獄耳は言葉の通り耳をよくして、周りの会話を拾う為に使った。


「あの人よね、中学生の時に3人を病院送りにしたのって」

「アイツって夏の入試で1人合格の鬼だってよ。なんでも妨害して、他の受験者が受からないようにしたらしい」

「ある女子生徒に拘束系の魔法をかけて、あれやこれやしたらしいの」


 まるで根も葉もない噂だし、事実ではない。

 1つ目は僕は特に何もしなかった。

 ただあの3人が警察送りにされただけだ。

 2つ目は3つ目と関係していて、あの雨宮あまみやが自業自得をしただけだ。

 それなのに酷いなぁ。

 僕は平穏な日常か、ただただ楽しい日常を過ごしたいだけなのに。


 そんなこんな考えているとダン高の講堂についた。

 「席は自由で開いている席に座ってください」というアナウンスが何度も何度も繰り返されている。

 嫌われているし、なるべく迷惑をかけないように2階席の1番端の席に座る。

 ここで僕はミスをした。


「アイツ今フワーって飛んだぞ」

「なんなんだよ、もう魔法が使えるのか」

「クソ、見せびらかしやがって」


 と、つい階段が面倒で、『天使の羽』を使ってしまった。

 もしもここに吸血鬼がいたら自分の正体がバレてしまうのに、本当に気をつけなければ。


 それから数10分してから入学式が始まった。

 僕の周りは誰も座ってないよ、うん。


 学校の理事長の挨拶から始まり、生徒会、人事部、そして入試トップ(僕じゃない)の入学の挨拶があった。

 それら全てが終わると教室に移動することになった。

 僕は1年A組でAからEまである。

 D.Eは生徒の数が25人ずつで、B.Cは生徒の数が20人ずつ、Aは10人とよくある順位で決まっている。

 僕はA組の10番目だからギリギリAだったのだろう。

 

「それじゃあ皆揃っているから自己紹介から始めよう。私はA組の担任をする花毬はなまりココネだ。よろしく頼む」


 花毬先生は炎で空中に文字を書いて自己紹介をする。

 ここなら、魔法を沢山練習できてこれくらい余裕で出来るようになるという意味があるのか、ただ単に自慢なのか……。

 それにしても子供か?って思うくらい背が小さい。


「1番からお願いね」

姫山ひめやま快斗かいとです。親の影響で魔法は少し使えます。運よく1位になれただけなので、抜かされないように頑張ります」


 当たり障りのない普通の挨拶をしたように見えるがそうではない。

 僕でも知っている、コイツの親は数々のダンジョンをクリアし、最難関ダンジョンの階層更新をしているパーティーの一員だ。

 だから、魔法は少しじゃない。

 運よくと言っていたが、完全に実力だろう。


「次は2番の私だね。私はエリー・L・トワイライトです。母親はエルフで父は人間の私はハーフになります。よろしくね」


 エリーも有名だ。

 なにせ、世界が壊れてすぐにエルフと人間が結婚した1号目なんだから。

 それに、エリーの母は風魔法のエリートで、現役だったはず。


「つ、次は私。3番、私は石上いしがみドーラ。私のパパはドワーフで、ママは人間。ハーフです。よ、よろしく」


 ドーラも有名だ。

 ドワーフと人間との結婚第1号なのだから。

 それにドワーフの父は戦闘が得意な人だったような気がする。

 人形みたいで可愛い。


「4番の南条なんじょうこよみ。皆みたいに凄くないけどよろしく」


 これまた凄い。

 南条グループという、今1番ノリに乗っている財閥の1つで、その令嬢だろう。

 これで凄くないってどんな嫌味だよ。


「あはは、次は僕だね。5番の僕は浅間あさま義宗よしむね。特にハーフとかそういうのじゃないよ。よろしくー」


 なぜこうも有名人が続くのだ。

 富士山の近くにある浅間神社の子だろう。

 その神社は今はダンジョンになっていて、結構難しいと話題だったが、子供がクリアしたという噂がある。


「6番、一松いちまつ文鷹ふみたか


 短い自己紹介だったが、コイツも凄い。

 一松団と呼ばれるヤクザ組織を1年で建て直したと言われている天才だ。

 腕もたつし、なによりも見た目が怖い、これ以上ないほど怖い。


「な、7番、ペトラ・ンラ。よろしくです」


 獣族の王族の1人娘がここに入学するのか。

 王族なだけに、戦闘センスや、人をまとめる力が優れていて、猫耳。

 顔も整っていて可愛い、猫耳。


「8番の宮野みやのさくらです。家は医者をやっているので、なにかあったら言ってね。よろしく」


 宮野病院と呼ばれるここら辺で1番大きな病院だ。

 そこの次女……なんでこんな家が凄い人ばっかなの?


「9番は欠席だからラスト、10番」


 立ち上がると、皆の視線が一気にこっちに向く。

 見た感じ、余り恐れられていなさそうなのが幸いだ。


「10番というギリギリな鬼灯ほおずきかずらです。本当になんも取り柄がない普通の人間……人間です」


 いや、吸血鬼だよ。

 けど流石にそれを言う気になれないじゃん。

 吸血鬼って事を考えると、このクラスって個性派揃いじゃん、面白い。


「それじゃあ自己紹介が終わったから今後の事について話すから。

 1年に2回テストを行います。そのテストの結果次第ではクラスが下がったり上がったりしますので、皆さん頑張ってください。

 それからもう1つ、決闘について。決闘とはクラスや順位を上げる為にします。ptを貯めて上位を目指してください。ちなみに、ptは授業態度なども加味されるので覚えておいてください」


 決闘とは面白い物があるんだな。

 でも僕ってA組の10番だよね。

 それってA組の中で1番下だから決闘を申し込まれやすい。

 なら僕も上の方を目指すのがいいか。


「では今からダンジョンカードを作りに行く。ダンジョンカードは身分証明にもなるからなくさないように。それと、それがないとダンジョンに入れなくなるからね。じゃあレッツゴー」


 ココネ先生に皆のついていき、違う教室に移動した。


「1番から。それが終わったら解散でいいから」


 順番にダンジョンカードを作っていく。


 ================


 鬼灯ほおずきかずら(16)


 種族:人間?


 攻略度:01%


 ================


 僕のダンジョンカードはこんな風になった。

 吸血鬼だから人間にハテナがついてしまっているのが宜しくない。

 よし、ローザスさんに偽造ぎぞうしてもらおう。


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