No.009 人間とマホウ



 校内暴力事件。

 その加害者は怪我をさせていないという理由で、すぐに帰ってきた。

 そして被害者の方、被害者は机や椅子が当たったにも関わらず怪我1つしていないと伝説になった。

 そして1週間が経過した今、


「これより、鬼灯ほおずきかずら白石しらいし剣悟けんごの模擬戦を開始する」


 なぜか、白石から模擬戦を申し込まれ、僕の知らないところで了承されていた。

 持っている武器は相手は木刀、僕は学校にあった竹刀。

 火を見るより明らかで、どう考えても勝てない。

 だって木刀が結構鋭い木刀なんだよ?


「はじめ‼」


 そう号令がかかったが、白石は動かない。

 否、それは語弊があるから、少しずつ、本当に少しずつ間合いを詰めてきている。


「陽法 無の太刀 無刀むとう真剣しんけん

「シッ」


 白石は何かが来ると警戒しながらも突進してきた。

 重心をぶらさず綺麗な小手だと思う攻撃を仕掛けてきた。

 が、吸血鬼となった今では集中すればスローに見えるのだから面白い。

 僕は後ろに下がりながらあえて竹刀と木刀をぶつける。

 そうすると、竹刀が木刀に耐えきれず壊れて、次に木刀が綺麗な断面を見せた。


「お互いの武器が壊れたけどまだ続ける?」

「貴様、何をしたんだ?」


 何をしたかと聞かれたら、不可視の刀を竹刀の内側に作り出したぐらいだけどそれは素直に言えない、言えるわけない。


「なにもしてませんよ」

「ならどうやって受かった?」

「どうやってって何をですか?」

「質問を質問で返すな。ダン高の試験をどうやって受かった。それとなぜ貴様だけが受かったんだ?」

「どうやってもなにも普通にダンジョン潜ってはい終わりって感じです。なぜ僕だけ受かったかは知りませんよ。それはダン高に聞いてください。ここを卒業したら行くんですから」

「この勝負は武器がお互いにないから引き分けでいい。流石に貴様が真剣を持ってるなんて事はないだろ?」

「うん、ないね」


 いや、あるけど言わないよ?

 これ以上目立ちたくないし、いつの間にか外野が凄い事になっているし。

 白石は逃げるように控え室に戻って行った。

 僕も疲れたから保健室にでも逃げようかな、って考えていた時もありました。


 後ろから少し寒気のする視線、これが殺気ってやつなのか、それを感じで振り向くと残り1mもしない所に白石が真剣を、炎を纏った真剣を振りかぶっていた。

 それを最低限の動きだけで避けて距離をとる。

 スローに見えるからスレスレのスリルを楽しむ事も出来る。

 じゃなくて、


「危ないじゃん。運よく避けられたからよかったけど」

「ほう、貴様は今のが運よくと言うのか? 避ける時に楽しそうな笑みを浮かべていたが」


 マジかー、マジかー。

 そんなに顔に出ていたのか。


「白石くん、止めなさい。早く真剣をしまって」


 真剣を持っていても銃刀法違反にはならない、じゃなくて銃刀法違反は無くなった。

 いつ、町中にモンスターが現れるかわからない現在、護身用として持っている人も多い。

 ただ、それで他人を傷つけたり殺したりしたら即刻死刑。

 簡単な法律に変わったんだ。

 人を殺しても捕まらなかったりしない甘い法律は無くなった。


「チッ。覚悟しておけ、鬼灯。貴様がどんな手を使ってダン高に合格したか知らないが必ず高校で仕留めてやる。そして、化けの皮を剥がしてやる」


 僕は獲物なのかな?

 これって狩られる運命なのかな?


 今は放課後だけど気持ち悪いから、一旦保健室に行こう。


「あら、鬼灯くんまた来たのね」

「はい。ここに吸血鬼の気配がしたので」

「……そう。ちなみにあなたはどっちかしら?」

「これは申し遅れました。僕は第十始祖の鬼灯葛です」

「あら、私より下なのね。私は第四始祖の水無瀬みなせ瑠璃るり


 なぜ僕が嘘をついたか気になっている人もいるだろう。

 それは、第二始祖だからという理由で狙われたり、うやうやしくされるのが嫌だからだ。


「それでは失礼しました」

「はーい」


 まさかこの学校にもいるとは思わなかった。

 前回はうまく気がつけなかったのは、まだまだだと自分でも思う。



 吸血鬼は常日頃からどこかに潜んでいる。

 もう少し見つけられるようになれるように研ぎ澄まさないとな。



 ※



 今日は休みなのでドリーさんの所に行こうと思って家の近くの森に来たわけだが、


「こんな屋敷昨日とかは無かったのに」


 そこには見るも豪華な屋敷が建っていた。

 もしも、もしもここがドリーさんの家じゃなければ大変だけど、


 ピーンポーン


 とインターホンを押してみる。


「はーい、どちら様ですか?」

「あっ、ドリーさん。僕です」

「鬼灯くん? 開いてるよ」


 よかった、ドリーさんの声が聞こえた。

 もしもこれで違う人だったら気まずいし、ドリーさんでよかった。


「お邪魔しまーす」

「お久しぶりです、葛さま」

「ローザスさんもいたんですね」

「私はドリーさまのお世話係兼吸血鬼専用鍛冶屋をしておりますゆえ


 な、なるほど。

 僕にはわかる、ローザスさんは物凄い苦労をしている人だって。

 だって絶対にドリーさんってわがままだもん。


「そうだ。丁度よかった。ローザスさん、この刀の銘ってなに?」

「そちらの刀の銘は[黒夜叉くろやしゃ]です」

「黒夜叉、うん。かっこいい」


 かっこいいだけかって?

 いや、男子たるものかっこいい物は大事だ。


 それからドリーさんと色々な話をした。


 僕は吸血鬼を作ってもいいのか。

 別にOK。


 他の吸血鬼を殺したらなにかペナルティーはあるのか。

 あるわけない。


 第五始祖の雨宮あまみや香鈴かりんを知っているか。

 誰それ、知らない。


 第四始祖の水無瀬みなせ瑠璃るりを知っているか。

 いたなー、そんなやつ。

 自分より下が許せないくらい嫌いで面倒なやつ。



 とまぁ、そんな感じだった。



 ※



 春の訪れを感じられる季節……と詩的な感じにはせずに、今日は卒業式。

 神原が無罪放免にはなったが、僕に関わってくるのは無くなったので何事もなく時間が過ぎて今日、この日を迎えている。


「えー、であるからして、皆さんは胸を張って生きてください」


 最後の教室で、熱血青春先生は真面目な話をしている。

 そして、もちろんこの後にあることと言えば、打ち上げ……呼ばれてないんだけど?

 僕がなぜか呼ばれてないんだけど何でなんだろう。

 僕だけなんだ、他の皆は呼ばれているのに。

 どれもこれもあの日、白石に模擬戦を挑まれた日を境に僕の人間関係は変わった。

 僕を見る目はまるで、『人外』を見る目。

 仲のよかった子にも話しかけられなくなり僕は孤立した。

 それが、それが今日でおさらばなんだー。 

 そう考えると、とても開放的な気持ちになってくる。


 これで吸血鬼になって半年。

 ここからが僕のお話のスタートラインだ。


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