No.003 期待するアス
まだ日も
暑さと涼しさが交差するこの時間に起こされそうな僕は、自分の置かれた状況も忘れて大変機嫌が悪い。
「
「五月蝿い。あと5分」
『太陽が昇る』まで残り30分。
「
「五月蝿い。あと10分……」
「増えてるじゃないか。鬼灯くんは太陽に当たると死にかけるんだから」
さっきから五月蝿いな。
僕は早起きが大のつくほど苦手なんだ。
それなのに「起きろ、起きろ」って迷惑ったらありゃしない。
「はーぁ。本当に起きなくていいのかい、鬼灯くん」
「五月蝿いんだよ、オバサン」
「
目の前には凄い老けた女の人がいる……意識が覚醒してきた。
あっ、目の前にはドリーさんという美人が。
なんか怒ってる、のか?
「おはようございます? ドリーさん」
「おはよう、鬼灯くん。
「オバサン? もしかして、寝言か何かでそう言ってましたか?」
「そうかそうか。君はあくまでも寝言だったと言うのだね」
ダメだ、ドリーさんは完全に怒りが頂点に達している。
ここは、
「ローザスさん、刀ありがとうございます。ドリーさんもありがとうございました」
そう早口で言ってから、大きな大きな屋敷を後にする。
そもそもこんな所に屋敷なんてあったっけ? と、振り向いた時には遅く、屋敷は姿を消していた。
「そもそもここって、近所の森の中だ……」
どんな知らない場所に放り出されるか心配していたが、問題はなかったようだ。
家からは10分もしない所にある森なので、太陽が昇る前には帰れるだろう。
と、上手く話はいかないのが世の中だった。
「おい、こんな所に吸血鬼がいるぞ」
「おっ、本当だ。それも貴族だ」
「おい、名乗れ。お前は第何始祖だ?」
3人の男たち、見るだけで吸血鬼ということはわかるが、血が薄い。
ここで名乗るのは悪手だろうから、先制攻撃を仕掛けるのが最善か。
「
人差し指を親指の爪で斬り、ピストルの
うん、混沌陰法はどうにかなりそうだ
「い、今のは無詠唱、だと」
「コイツは何者なんだ」
そろそろ名乗ってみるのも面白そうだ。
相手が驚く顔が楽しみだ。
「これは申し遅れました。僕は第二始祖の鬼灯葛です。以後お見知り置きを。と言ってももう会わないし、会うつもりもないけど」
なんかのマンガでこういう事を言ってた人がいたような……。
ま、いっか。
「混沌陰法
ここの地形を利用させてもらおう。
ここは森で地面は土。
水と土を合わせると出来るのはもちろん泥。
残った二人と一つの死体は泥沼となった所に足を捕られて少しずつ、少しずつ沈みこんでいく。
「僕は流石に太陽が怖いから行かせてもらうね」
「ま、待ってくれ。い、命だけは、助けてくれ」
「し、知らないのか。第二始祖でも日焼け止めクリームでどうにかなるのを」
とりあえず聞こえないフリをするが、最後のはいい情報だった。
なんでこういう時の敵っていい情報をくれるんだろう。
考えてもわかんないからいいや。
※
そんなこんなで、日の出の1分前には帰る事ができた。
そんな帰ってきた僕が最初に何をするか。
それはもちろん決まっている。
「あの敵が言ってた事を試す以外ないだろ」
日焼け止めは玄関に置いてあり、試しに
そして、
「うん、気持ち悪くない? でもドリーさんの家を出た時は死ぬかと思ったのに」
そこで僕はある仮説を立てた。
否、結論を導いた。
ドリーさんの家にあったあの日焼け止め
パッケージを思い出してみると、よくTVなので観る青春のやつ、シーなんとかだった事を今になって思い出す。
スースーするあれだ。
「これで、これで、吸血鬼でありながら外に出ることが出来る。よし、そうとわかれば薬局に行って日焼け止めを買い漁る必要があるな」
生憎と言うべきか貯金は親戚が多いから100万円くらいはあった。
とりあえず10000円で買えるだけ買おう。
「と、は思ってみたもののまだ5時になったばっかで薬局やってないしなー」
暇だ、暇だ、暇だ、暇だ。
そうだ、貰った刀で
※
ドワーフに作って貰ったという高価な魔法収納袋(容量10㎏)から、ドリーさんに貰った陽法の本を出す。
それを読んでいたら結構な時間が経っていたようだ。
と、言うかもうお昼前になっていた。
集中すると周りが見えなくなる癖は治さないとだな。
気を取り直して、薬局に向かう事にする。
まだ家族は誰1人として帰ってこないから少し寂しかったり寂しくなかったり。
えっ、刀はどうしたのか、って?
刀はいつのまにか左腰にキーホルダーがぶら下がっていて、それに触れると刀が現れる仕組みになっている。
ローザスは本当に凄い人だと実感したから、今度会ったらお礼しないとな。
※
歩いて15分。
太陽の日がジリジリ照らし、体力をすごーい勢いで蝕み、額からは汗が垂れる。
よし、薬局で1つアイスでも買っていこう、そうしよう。
と、そんな事を考えていると薬局に到着していた。
中に入ると、冷房が効いていて涼しい風が身体に染み渡る。
日焼け止めを10個とガリガリするアイスを1つ。
もちろんソーダ味にした。
「あれ、葛。美味しそうなの食べてるね。私にも頂戴よ」
「
コイツは僕の幼馴染みの
残念、読者の皆様はヒロインが出てきた! と思っただろう。
だが香蓮はヒロインではない。
だってコイツはリア充だもん、死ねばいい。
「ねぇ、葛? 今、とても酷い事考えてなかった?」
「なんの事だか」
「そういえばなに買ったの?」
「ん? これだよ」
そう言って10個ある日焼け止めを見せる。
うん、今思うと見せるべきではなかったな。
「ふーん」
「香蓮はこれからデートか?」
「えぇ、そうよ」
「受験とかは考えてないのか?」
「わ、私くらいにもなれば余裕なのよ」
その自信がどこから湧き出るのか不思議でならないが、羨ましかったりもする。
二人は「じゃあ」と挨拶をし、別々の道に進んでいく。
※
いい買い物が出来た。
そう思って家に帰るが、まだ家族は誰1人として帰ってきてない。
別に嫌とか寂しいという感情があるわけでもなく、どうやって時間を潰そうか。
と、ただただそれだけを考えていた。
1番最初に帰ってきたのは弟の鬼灯
弟はバスケ部に入っていて、その運動神経が買われて1年生でありながらレギュラー入りしている。
そしてどういうわけか、不本意ながら、僕と弟では圧倒的な差、がある。
弟は顔がいい、運動神経がいい、頭がいい。
僕が思うに何をとっても勝ち目はなく、兄としての威厳が保てない(そもそも無い)。
「(だが、だが今は違うのだ。僕は吸血鬼になった。だから運動神経も勉強も負けはしない)」
「ねぇ、葛。お母さん達いつ帰ってくる?」
「いや、僕に聞かれても。でも夜までには帰ってくるでしょ」
くっ、この誰にでも別け隔てなく接する態度。
僕には絶対に出来っこない。
だって僕はすぐに顔にでる、ポーカーフェイスが苦手なのだ。
それから数時間、家族全員帰ってきて夕食をとった。
「葛、明日は三者面談だからね」
すっかり忘れていた。
明日なんて来なくていいのに。
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