第13話 夏の終わりに⑩

 森の散歩道。

 自然公園の小川の上に架けられた、木の桟道を歩きながら。


「ねえ、ミルちゃん。その恰好、歩きにくくない? おんぶしてあげよっか♪」


 ミルちゃんの体温をもっと近くに感じたいし!

 そんな期待を目に、ゴスロリドレスなミルちゃんを見つめます。


「結構よ。りりな、エッチな目をしてるもの」


「ひ、ひどっ! 人の好意を!?」


 べ、別にやましい気持ちじゃないんだからね!

 どう見ても歩きにくそうだから! 純粋に心配したのに!!


 仕方ないね、では代替案として……。


「じゃあ、お姫様抱っこで妥協しましょう!」


「だから要らないわよ! 抱き付きたいだけでしょ!?」


 私の折角の名案も、ミルちゃんのお気に召さなかった模様。


 ……残念!


「それにしても、まるでジャングルね、ここは」


「そ、そこまでは行かないと思うけどなぁ?」


 川のせせらぎ、鳥の声。

 埼玉県智光山公園、田園に広がる、東京ドーム十個分以上の広い森林。

 トト〇の森でお馴染み狭山丘陵ともほど近いこの森。


 確かに、都心から一時間半とは思えないかも知れないけどね。


「ふふ、ミルちゃんは都会っ子なんだ?」


 手を繋ぐ私とミルちゃんの後ろから、三歩後ろを付いてくる早百合が問う。


「池袋よ。少なくとも、こんなに緑は無いわね」


 そんな、他愛無い話をしながら。

 握った手と手で、鼓動を感じ合いながら。


 ……いつか私達は、言葉少なになっていく。

 静かな森の中、自分達の血のめぐる音が耳に入るほどに。


(……もうすぐ、終点だ)


 バス停を降りて、テニスコートを抜け、こども動物園を巡って。

 そして、この遊歩道を抜ければ。智光山公園の反対側に出る。


 そこには、庭園が広がっていて。少し盛りを過ぎたけど、大きなバラ園があって。


 私も、ミルちゃんも。分かっているんだ。

 そこに着けば……この楽しいデートも終わり。


(私は……向き合わなければならない)


 これから先のこと。

 私と悪魔との、戦いのこと。


 悪魔の首領「腐界の女王」であるミルダレーナと。百合魔法少女である私と。

 ただの友達でいられる時間は、終わる。終わってしまう。


 もうすぐ、もうすぐ。ただ楽しく、百合百合していられた、輝かしい夏の日が。


「…………」


 どちらからともなく、私達は。

 名残を惜しむように、ぎゅっと。強く、強く、握り合う手に力を込めていた。


 ……そして。緑のトンネルを抜ける。

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