第10話 鮮血の死闘! ただしその鮮血は鼻から出る!!⑬

 戦い終わって。

 ミルちゃんの水着を盗撮していた悪魔のビデオカメラに、墓標のように突き立つ黄金の魔剣。

 やがて剣も虚空に還り、私たちの再生魔法で、破壊された川越水上公園も元通り。


 プールのお客さんたちも、ここで壮絶な戦いがあったなど知る由もなく。

 10分前の状態に記憶を書き換えられる。

 夏休み、いつも通り賑わうプールサイドに、ビデオカメラの残骸だけが、散っていった戦士たちの存在の名残。


 ああ、兵どもが夢のあと。


「すーはー、すーはー、りりなが穿いたパンツ♪」


「だ、台無しだぁぁー!?」


 シリアスな空気が一瞬で吹っ飛びましたよ!?

 帰り道、水着から着替えた私たち。

 早百合から借りて穿いてた黒のパンツを返したわけですが!


 くんかくんかしながら幸せそうな早百合! へ、変態!?


「違うわ! 変態じゃないもん! 変態だとしても、変態という名の淑女だもん!」


 これで、見た目は清楚な黒髪巨乳美少女なんだから、余計にたちが悪いよね。

 そんな子と毎朝毎日毎晩のようにちゅっちゅしてる私も、大概かもしれないけど。


「ふふ、また私のりりなコレクションが充実しちゃうわ♪」


「何そのコレクション!? 私、聞いてないし!」


 と、そこへステファニーが口を挟む。

 ちなみにもちろん、いつものぬいぐるみ姿で、早百合のバッグの中。


「ところで、とても気になってるんだが! 早百合は、りりなに貸していた自分のパンツでハァハァしてるわけだけど、ということは、そのぅ、もしかして?」


 ああ、彼が期待してることがわかったわ。

 早百合さん、もしかして今、スカートの下は。


「ノーパンなのかい!?」


 直球勝負で質問ステファニー! なんて欲望に正直なの!?


「ふふ、見たい?」


 小悪魔な笑顔の早百合、スカートをぴらっ♪

 ほ、放送事故!? と、思いきや。


「残念、下に水着穿いてました♪」


 ビキニタイプの下を、スカートの下に穿いていた模様。

 でも白ビキニなので、見た目パンツと変わらないよ!?


「も、もうっ、羞じらい持とうよ!?」


 つい赤面して顔を手で覆う私に、ステファニーも同意!


「そうだよ! スカートの下に水着着るなんて許されざる邪道だよ!?」


 あれ、同、意?


「まったく悪い子だ! 水着とパンツは違うと言っただろう!? 水着を着るなら他は脱ぐ! スカート穿くなら水着は脱ぐ! 頼むよホント!!」


 ……ああ、ステファニーってば、すっかり普段のエロくまに。

 前回一瞬だけ見せたイケメンイメージが、遠い過去のように。

 もう記憶の彼方に消し飛んじゃったし。


 ともあれ、いつも通り賑やかに、家路につこうとする私たち。

 水上公園の外、駐輪場へ向かおうとするのだけど。

 私の視界に入った、後ろ姿は。


「あ、ミルちゃんも帰るところ?」


 掛けた声に振り向くのは、銀髪の美幼女ミルちゃん。

 彼女もロリロリなスクール水着は脱いで、フリルたっぷり、真っ黒なゴスロリドレス姿。

 8月の炎天下、日傘は差してるけど、うわ、暑そう。


 でもミルちゃん、私の顔を見るなり。

 さらに熱そうに、顔を真っ赤にして。


「で、出たわねキス魔!?」


 き、キス魔って。おでこだよ?

 あれくらい軽いスキンシップだよ。私の感覚では!


「ミルちゃんだって、夏祭りの時、私のほっぺにキスしたじゃない?」


「あ、あれは、呪いの前振りで……ごにょごにょ」


 小声になっちゃうミルちゃん。よく聞こえない。


「と、とにかく私を! 百合に引き込もうだなんて! 貴女の思い通りにはならないんだからね!?」


 赤くなって、八重歯を剥き出しに指を突き付けるミルちゃん。

 可愛い。萌え。

 やっぱり、キュートなロリっ子の赤面顔って、宝だね……。


「お、覚えてなさい、宮野りりな! ホモの方が、萌えるんだからー!!」


 謎の捨て台詞を残し、走って行っちゃうミルちゃん。

 一度だけ振り返って。


「ホモの方が! 萌えるんだからねー!?」


 遠くなる背中を見送りながら、


「あれ……あの子の記憶、消せてない?」


 はた、と気づく。そういえば、ミルちゃんのおでこにキスしたのだって。

 百合魔法少女に変身してる時で、今とは違う姿だったわけで。


 ……まあ、可愛いからいいか。


「むー、りりなは渡せないけど! ホモ談義できる同志でもあるし。あの子とは、一度肚を割って話し合わないとね!」


 頬を膨らませる早百合。

 一方、ステファニーだけは。

 クマのぬいぐるみ姿なせいでわかりにくいけど、人間体の時以上のシリアスな表情で。


「りりなが唇を奪ったわけでもないのに、記憶の書き換えが働いてない。やっぱり、あの子は……」


 思いつめた声で、呟くのだった。


 ※ ※ ※


 その後。

 BLを愛でる乙女の聖地に建つ、悪魔たちの根城、池袋サンシャイン60にて!


 私室の中、無残な残骸と化したビデオカメラを手に、ぶるぶると震えるのは!?


「おのれ、百合魔法少女……!」


 その麗しさは人間体ステファニーに勝るとも劣らず、氷の美貌を誇るイケメン悪魔執事。

 侯爵級悪魔レギルレイスである!


 その怒りは、何に向けられているのか。

 忠実なる臣下アハートヴァールを失った怒りか。


 ……否。哀れアハートヴァール、レギルレイスの憤怒は、彼のためではない。

 凍れる地獄、コキュートスを統べる冷酷なる悪魔レギルレイスに、臣下のために流す涙など無く。


 彼の感情が動くのは、ただ一つの理由。


「お嬢様の水着姿……私の楽しみをッ!?」


 そう、ロリロリ美幼女ミルダレーナ、『腐界の女王』へのロリ萌えゆえに!!


「許さん、許さんぞッ百合魔法少女! 必ず貴様は、抹殺してくれる!!」


 悪魔の城の中で、氷嵐のごとき凍てつく憤怒が、荒れ狂うのだった。


 ※ ※ ※


 そして。魔城サンシャインに帰還した女王ミルダレーナを、出迎えた美少年悪魔アル君。 

 女王の様子がいつもと違うのに気付く。


「どうしたんだよ、赤くなって。プールで風邪でも引いたか?」


 頬を赤く染めて、胸を抑える女王。アル君の声に、苦しそうに。


「……痛いのよ」


「は?」


「痛いの、胸がうずうずして苦しいのよ! 何なのよこれ!?」


 おお、百合に目覚め始めた悪魔の女王! その胸のときめきは、呪いのように彼女を苦しめる!!


「なんなのよ、これぇッ!? 私、なんで! こんなにどきどきしてるの!?」


「だ、大丈夫かよ、おい!?」


 ただ事でない女王の様子におろおろするアル君へ。


「……ホモって!」


「はいぃぃぃ!?」


「いいから! ホモってよぉぉぉッ!?」


 八つ当たりのように、女王は無茶な命令を!


「私が、私がどうにかなっちゃうでしょう!?」


 未知の感情に。苦しむ悪魔の女王。

 こうして、新たな因果の糸は。百合と闘いの運命は、絡まり始めるのだった。


〈……続く〉

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