第2話 最強! 無敵! 百合魔法少女!!⑤

「……終わったのね」


 変身も解け、私マジカル☆リリィ、いいえ、宮野りりなは、平和な夜の町を丘から見下ろしていた。


「ああ、全て元通りさ。間に合って、良かったよ」


 まるで、悪い夢が覚めたかのように。

 最後の1秒で、私の魔力はステファニーと共鳴し、癒しと再生の大魔法を発動。

 戦いの爪痕つめあと……破壊された街、焼かれた森。

 そして、悪魔に食べられた人たちまでも。

 全てはリセットされて、10分前と同じ姿に。


「皆の記憶も、書き換えられているよ。街の人達は、ちょっと変な夢見たかな? くらいにしか覚えてないはずさ」


「さ、さすがにご都合主義とか言われない!?」


 何だか心配になる。


「それだけ、百合の力が偉大ってことさ。それに、君の魔力は強すぎるからね。こうでもしないと、地球が100個有っても足りないよ!」


「私は破壊神か!?」


 とにかく。

 これで戦いは終わり。私は日常へと帰る……のは、無理よね。


「……色々、説明してほしいんだけど」


 ステファニー。とにかく謎だらけの、喋るぬいぐるみ。

 結局私は、こいつにのせられた訳だけど。

 自分が何者になったのか、何と戦うことになったのか、ちゃんと分かってない。


「もちろん、説明はするよ。僕らは運命共同体、パートナーだからね! ……でも、まずは場所を変えないかい?」


 そうね、女子中学生がこんな時間に、山道にいるのも良くない。


「結局、遅い時間になっちゃったし。今夜は、早百合さゆりの家に泊めてもらおうかな?」


 そこで私は思い出す。

 そう、早百合。

 私は、彼女と、同性の親友とキ、キスをしてしまった!

 それも二度も!


「どうしたんだい、りりな。完熟トマトみたいに顔を赤くして?」


「うっさい! あああ゛、明日からどんな顔して、早百合と会えば良いのよぉ……」


 早百合の中で、今夜の記憶が消されていても。

 私の唇は、あの柔らかさを、あの熱を、生々しく覚えている。


「えへへ、りりなったら、激しいんだもん。そんなに私と、キスしたかったんだ♪」


「ち、違うの! あれは変身のせいなの! 早百合とエッチしたいとか、思わないんだからね!?」


「ふふ、照れなくていいのに♪」


 ぎゅむっ。背中に当たる、中学生にあるまじき、おっきなマシュマロの感覚。

 さーっ、と、私の顔から血の気が引いた。


「ぎゃー!! さ、早百合!?」


 まだいたの!?

 いや、それより!


「お、覚えてるの!?」


 キスのこと、私の変身のこと、全部!?


「うん♪ だって、あんな素敵なキス、忘れられないよ♪」


「あ、言い忘れてたけど!」


 ステファニーの遅すぎる解説!


「りりな、君とキスした相手の記憶は消せないよ! だいたい、百合キスの素晴らしい思い出を消そうだなんて駄目だよ! 神への冒涜ぼうとくだよ!?」


「あ、あぁぁぁ……」


 は、恥ずかしい!

 消滅したい!


「りりなったら、しかも今夜は私の家に泊まりたいなんて、大胆なんだから! いいよ、今夜は両親いないし! 二人で一線越えちゃおう♪ 新世界のイヴとイヴになっちゃおうよ♪」


「全力で、ご遠慮しますッ!?」


 もうやだ!

 私、おうちに帰る!!


「私は、私は……! ノーマルなんだからぁぁーっ!?」


 ※ ※ ※


 こうして、この日。

 私、宮野りりなの戦いの日々は。

 百合魔法少女マジカル☆リリィの神話は、始まりを告げたのでした。


「最後に、もう一度言うわ。私、絶対、絶対に、ノーマルなんだからね!?」


  ……続くッ!

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