第8話 night

 アラート

 俺の持つスキル群で本当に頼りになるスキルを挙げろと言われると上位に位置するであろうスキルだ。このゲームを始めた時から微弱ながらも反応があり続ける。本来ならあり得ない事態だ。何せ異世界で壁を超えた俺のステータスを無視して殺せるもしくは致命傷を負わせることが可能な何かがあるわけだ。多分ギアをかぶった際に感じた違和感はこれだろう。あの時はアラートの存在を忘れていたがつい先ほどの戦闘で思い出した。

「となると」


 この目の前にいる少女は一体何者だ?アラートが一番強く反応したのは彼女を抱いて戦った時。俺に何らかのダメージを負わせるとしたらミミアに関する精神的ダメージが一番に上がるだろう。その次がテンスメンバーとの戦闘。この世界で彼ら彼女らがいるはずがない。

 つまりほぼの確率で前者なわけだが。俺はほぼあの頃のトラウマを克服している。まあミミアを亡くしたあとすぐに精霊王となり妖精女王を娶ることが確定したり龍帝に喧嘩仕掛けられたりして強靭なメンタルとその事件と向き合うまでに時間が作れたというのもあるのかもしれない。

 

 そう言えばこのチュートリアル空間は少し可笑しい。何故なら俺の戦術級以上の魔術は霊脈さえにも影響を及ぼす。その程はどの程度術行使に霊脈を使用したかで決まる。ミスルリを吹き飛ばす威力は基本的には霊脈を歪める。今の俺では仕方のない事情だ。MPの限度を超えた術を単独で使用すると精神アストラル分裂フラグメントが発生する。これは魂に熾る現象なのでステータスは作用しない。これを基に開発した魔弾が精神破滅。


 これは関係ないか。問題は彼女の持つ俺では使えない魔法属性で。



 アレ?それって確か俺に唯一魔法でダメージを与えられる属性だよな。それを理解した瞬間に魔法銃を構える。このMPを込めるタイプの銃には全てにおいて共通する性能がある。

「どういう意味?」

「…」

 そのまま狙いをつけて引き金を引く。その弾丸は杖の触媒を貫くとリリアのマーカーが敵対の赤に変わる。その瞬間に彼女は杖を構える。続け様にそのまま魔弾を放つ。がそのまま杖で防がれる。マジかよ。現状最高峰の攻撃だぜ?身を極限まで沈めて一気に加速する。通りすがりに3連射撃。そして剣を拔き降ろす。だが触媒を填めていた部分で受け止められる。ただその距離は蹴りの範囲内。左足で足下を払い引き金を三度引く。


 すると彼女は杖を槍のように扱う。そのまま二発は受けるものも回復魔法を使い回復させる。巧い。強くはない、勝てるわけでもないが負けない戦いなら長時間可能がコンセプトの戦闘では手札の数で勝負を進める俺とは致命的に相性が悪いな。もうすぐMPも切れる。銃という近代兵器で均衡を保てているわけだがそれが無くなると勝ち目が低くなるのは確かだ。でも何故かしら死のリスクがある以上死ぬつもりはない。例え電脳世界でも俺は目的を果たすまでは死ぬわけにはいかない。その相手が想い人の鏡写しであろうと。


「リリア、君は一体何者だい?」

「私は私。それ以上でもそれ以下でもない。何で君は私に武器を向けるの?」

「向ける相手と踏んだから」


 この僅かな問答の間にも俺は距離を調整して近距離で勝負を仕掛ける。どちらの銃も銃身はそれほど長くは無い。槍もどきの間合いに入らぬようにして剣を振るい銃弾を撃ちつけ蹴り銃身で棒を弾く。

「くっ!!」

 今しがた入れた蹴りが急所に入り横に吹き飛ばす。その姿勢を崩した瞬間を見逃すほど俺は甘くはない。


 全体重を込めて突進しながら袈裟懸けを繰り出す。疾風の弾丸となり彼女の後方3m地点で止まる。剣道であれば確実に一本取れたであろう一撃。ただその余韻に浸ることなく後ろを振り返る。既に魔力が集い始めたからだ。その属性も知っている。特殊属性【夜】。特殊異常状態系の魔法が多く闇や邪の亜種とされているが文字通り夜に関する魔法も多くあるので非常に重宝される。そして闇魔法に内包されるとされている召喚魔法も少なからず使える。


「—————夜空の世界」


 そして夜の帳が世界に具現した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る